Web音遊人(みゅーじん)

徳永二男(ヴァイオリン)、堤剛(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)

名手3人が醸し出す、音の会話の楽しさ奥深さ/徳永二男、堤剛、練木繁夫による珠玉のピアノトリオ・コンサートVol.4

徳永二男(ヴァイオリン)、堤剛(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)、互いをよく知るトップ奏者3人がヤマハホールで年に1度開いている、トリオシリーズの第4回。前の週に降った大雪が舗道の傍らにまだ残る寒い夜だったが、ステージで紡ぎ出されるサウンドは暖炉の炎のようにじんわり暖かく、心をほぐしてくれた。

1曲目のベートーヴェン「街の歌」は、3人のユニゾンでスタート。ほどなく、高音域を生かした華やかなピアノにチェロが明るい音色で寄り添い、ヴァイオリンが艶やかに歌い出す。第1楽章から引き込まれ、深みのある旋律の第2楽章では堤のチェロが朗らかな牧歌を思わせる響きを放つ。徳永のヴァイオリンや練木のピアノと主題を受け渡し合いながら、柔和なムードに。第3楽章はピアノが粋な役回り。ベース音でリズムを際立たせ、効果的に盛り込まれたスタッカートや長いトリルなど、練木の色彩豊かな演奏に伴って、ヴァイオリンとチェロが晴れやかに進行する。まるで、楽しく銘酒を酌み交わす朋友たちのよう。和やかな情景が浮かんでくるのだった。

2曲目のドヴォルザーク「ドゥムキー」は、エスニックな音楽だ。旋律の陰陽変化が特徴的なスラブ民謡「ドゥムカ」に着想を得て作ったと聞く。6楽章からなるが、4/8拍子、2/4拍子、6/8拍子など面白いリズムを駆使してあり、曲調の変化とともに、速度の緩急も著しく、変拍子の組曲を聴いているかのような気分を味わえる。

なかでも、第2楽章、第4楽章、第5楽章は、テンポにつられて身体が動き出しそうになるほどだ。ステージの3人も入り込んでノリノリの風情だった。堤は、常からアイコンタクトを取りつつ、身体を左右にゆったり揺らしながら妙技を披露するが、そのパフォーマンスが自然にワイドになっていく。

徳永二男(ヴァイオリン)、堤剛(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)

スラブ哀歌風の数多のフレーズ、リズムや速度などが、万華鏡のように変化し続けるこの曲に、ドヴォルザークのオリジナリティーのみならず、邦楽器の「泣き」に似たものをふと感じたり……。3人の醸す響きは、なかなか趣深かった。

休憩を挟んで、最後はシューベルトのピアノ・トリオ「第1番」。ベートーヴェンのピアノ・トリオ「大公」に触発されて書いたといわれ、同じ変ロ長調で、明るく心開けるような曲調だ。「大公」は3人がこのシリーズを始めた2015年の演奏曲。人気のライヴCDとなり、秀逸な演奏を家でも聴くことができる。休憩時間に、そのライヴが素晴らしかったと話している観客も見受けられた。この日のシューベルトを期待して聴きにきた雰囲気が伝わってくる。

果たして、ブリリアントなサウンドで第1楽章が始まり、チェロのピチカートなども華やいだ響き。場内に幸福感が満ちていくのを感じた。また、子守歌のような優しいピアノの音色にチェロが優しく応え、受けたヴァイオリンと美しいハーモニーを奏でていく第2楽章は、3人のホームパーティーを思わせる演奏で、特に心に残った。

楽しげに踊る光のようなピアノ旋律で始まり、心弾む特徴的なフレーズが楽しげに続く第3楽章や、終楽章のエネルギッシュなアンサンブルも素晴らしかったが、第2楽章の演奏には、後にひくうまさを感じた。

大きな拍手に応えて、徳永がお礼の言葉や2019年の開催日報告(2月23日の昼予定)などのあいさつを済ませると、アンコールはなんと「シューベルトの第2楽章」という。凍てつく夜に、温かいポトフをおかわりできた気分。音の会話の楽しさと奥深さを再び堪能し、満腹感を味わいながら、家路についた。

徳永二男(ヴァイオリン)、堤剛(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)

原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子

 

特集

Web音遊人_上原ひろみ

今月の音遊人

今月の音遊人:上原ひろみさん「初めてスイングを聴いたときは、音と一緒に心も躍るような感覚でした」

27205views

音楽ライターの眼

クラシック・キャラバン2021 クラシック音楽が世界をつなぐ~輝く未来に向けて~コンサート全国ツアーがスタート

2252views

楽器探訪 Anothertake

新開発の音響システムが表現力のカナメ。管楽器の可能性を広げる「デジタルサックス」

3780views

暖房

楽器のあれこれQ&A

ピアノを最適な状態に保つには?暖房を入れた室内での注意点や対策

56928views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

9400views

オトノ仕事人

アーティストの個性を生かす演出で、音楽の魅力を視聴者に伝える/テレビの音楽番組をプロデュースする仕事

8630views

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、新時代へ発信する刺激的なコンテンツを/東京芸術劇場 コンサートホール

ホール自慢を聞きましょう

音の粒までクリアに聴こえる音響空間で、刺激的なコンテンツを発信/東京芸術劇場 コンサートホール

12693views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3219views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31419views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

3512views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5654views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

19797views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

12102views

音楽ライターの眼

ルイ・クープランの魅惑的なチェンバロ音楽を自然体で表現するクリストフ・ルセの妙技

4077views

オトノ仕事人

オーダーメイドで楽譜を作り、作・編曲家から奏者に楽譜を届ける/プロミュージシャン用の楽譜を制作する仕事

18247views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

5753views

変えるべきもの、変えざるべきものを見極める

楽器探訪 Anothertake

変えるべきもの、変えざるべきものを見極める

14762views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

23234views

山口正介 Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

マウスピースの抵抗?音切れ?まだまだ知りたいことが出てくる、そこが面白い

5977views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

55544views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

11020views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30896views