今月の音遊人
今月の音遊人:谷村新司さん「音がない世界から新たな作品が生まれる」
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世界的ピアニストの奥深く妙なる響きに包まれて/ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
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2018.4.11
tagged: ピアノ, ヤマハホール, ピョートル・アンデルシェフスキ
クラシックコンサートのプログラムは、おおむね序曲や軽めの作品から始まり、次第に重厚な大曲や華やかなパフォーマンスで盛り上がって、アンコールで小品や演奏曲の短い楽章などを披露して終わる。なので、曲調やテイストの変化といった外見的特徴に派手さがない曲目が並ぶと、聴いていて退屈に思えたり、物足りなさを感じたりするものだが、どっこいピョートル・アンデルシェフスキともなると、そんな通り相場を心地よく裏切ってくれるのだ。
当初発表されていたプログラムが事前に半分ほど変更され、シューマンやショパンはなくなって、J.S.バッハの「イギリス組曲第6番」が入った。しかも当日、さらに「前奏曲とフーガ第1番」も追加された。結果、総じてアルペジオやスケールの上り下り、トリルなどが心地よい、流麗で繊細なイメージの作品が並んだ格好。派手な印象を与えるプログラムではない。しかし、彼が得意とする内面的深化や楽想の絶妙な表現をたっぷり堪能できる、ファン垂涎のぜいたくなラインナップとなった。
オープニングは「前奏曲とフーガ第1番」。冒頭のC低音からベース音を効かせながら、温もりのある高音が美しく流れ響く。対位法を駆使した旋律が、まるで泉のようにあふれ出てきて、聴き手はおのずと引き込まれていく。
そして、W.A.モーツァルトの「幻想曲ハ短調」へ。前曲のハ長調からの色彩的変化がお見事。晴天に暗雲が一気に垂れ込め、張り詰めたテンションに変わった感じだ。時折、雲の切れ間から差し込む光のような柔和な旋律が現れて、ほっとしながら進行し、「ピアノ・ソナタ第14番」へ。これまたハ短調。切迫感のあるスケールの上下行が特徴的な主題は、結構な強引さも秘めている。それを、感情に走ることなくドラマチックに表現するアンデルシェフスキ。彼ならではの奥深い世界に、聴衆はどっぷり浸っていく。
休憩をはさんで、L.ヤナーチェク「草陰の小径にて 第2集」では、低音や不協和音のパンチを効果的に響かせながら、高音域のパッセージやトリルなどをまるで「明日への希望」のように浮き立たせる。絶妙の強弱などから醸される「ゆらぎ」を時折感じるのも、心地よかった。
最後の「イギリス組曲第6番」は、全般に軽やかでソフトなタッチ。クレシェンドやデクレシェンド、そしてペダル操作などで千変万化する音色、ピアノがゆったり呼吸しているかのようなスケール表現、オルガンを連想する響きなど、見事というほかない。すっかり魅了され、あっという間にフィナーレを迎えた。
肉塊を豪快に盛りつけたような華々しいフルコースでなく、吟味した旬菜に細工を施した料亭料理を堪能できたときのような、とっておきの幸福感に包まれた。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子
文/ 原納暢子
photo/ Ayumi Kakamu
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