Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとロックの関係性

ジャズ・ギターとビートルズの出逢い~『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』が生まれるまで

1964年に新境地を拓こうとレーベルを“移籍”したウェス・モンゴメリーだったが、その新天地ではまだビートルズに出逢うことができなかった。

彼はヴァーヴ・レコードに在籍した1964年から67年のあいだに10枚のアルバムをオンタイムでリリースしているが、その内訳はスタジオ録音の5枚にライヴ収録の5枚と、半々のバランスになっている。

特に1965年は、彼の死後に続々とライヴ盤が発掘されていることもあるから、精力的にワールド・クラスのツアーを実施して、レーベルの売上に貢献しようとしていたようすがうかがえる。

ライヴ盤ではこのなかの『スモーキン・アット・ザ・ハーフ・ノート』の人気が高く、ジャズ・ギタリストとしての彼の代表作に推す人も多いが、本稿の趣旨から逸れるので触れない(厳密に言えば、このアルバムにはスタジオ録音の音源も収録されているのだが)。

注目したいのは、ヴァーヴ・レコード在籍時の10作品のうちの『バンピン』(1965年)、『ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド』(1966年)、『カリフォルニア・ドリーミン』(1966年)、『テキーラ』(1966年)の4作だ。

移籍第1作『ムーヴィン・ウェス』ではホーン・セクションを加えることにより、ジャズ・オーケストラの華やかさでウェス・モンゴメリーの独特なギターの音色を包むことに成功。そして、ミリオンセラーのヒットにつながったことが、“ウェス・モンゴメリー・ニュー・プロジェクト”に一定の方向性を示すことになったのだろう。

続く『バンピン』では、アレンジャーにドン・セベスキーを迎えて、ストリングス・オーケストラのサウンドで彼のギターを包んでいる。

ライヴ盤を2作挟んでから再びスタジオに戻ってリリースした『ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド』では、オリヴァー・ネルソンの指揮とアレンジによるサウンドに挑戦。

ライヴ盤を3作挟んだ次は、再びドン・セベスキーと組んだ『カリフォルニア・ドリーミン』。そして、クラウス・オガーマンによるストリングス・アレンジの『テキーラ』でヴァーヴでの活動を終えることになる。

マーケットの反応を見てみると、『バンピン』は総合ヒット・チャートの200位以内に入るという、地味ながら実はスゴイ記録を達成する。それに続いて『ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド』はR&Bというジャンル別のチャートで7位、『カリフォルニア・ドリーミン』は同4位(ジャズ部門では1位)という好結果を残した。

なかでも『カリフォルニア・ドリーミン』の成功事例は、ウェス・モンゴメリーと彼をプロデュースするクリード・テイラーにとって、このチャレンジを1回で終わらせるには惜しいと感じさせたことは想像に難くない。

タイトル曲の「カリフォルニア・ドリーミン(邦題:夢のカリフォルニア)」は、フォーク・グループとして活動していたジョン・フィリップスとミシェル・フィリップスによって作られた曲だった。彼らはフォーク・ロックのグループ“ママス&パパス”としてデビューし、この曲を1965年に発表。ビルボードの総合チャートで4位となったこの大ヒット・ナンバーを、ウェス・モンゴメリー(とクリード・テイラー)は“フィーヴァーも冷めやらぬ”1966年にカヴァーして、これまたヒットさせてしまったわけだ。

なぜウェス・モンゴメリー(とクリード・テイラー)が「夢のカリフォルニア」を選んだのかは、定かではない。想像するに、この曲がヴォーカル、つまりコーラスを重視する曲づくりだったことが、ロックとの接点を模索していたウェス・モンゴメリー(とクリード・テイラー)にとって“手始めとしてやりやすかった”のではなかろうか。

ヒット・チャートを振り返ると、1964年あたりからアメリカの音楽の流行が大幅に変化しており、ビートルズの台頭に見られるような“ロック旋風”に巻き込まれていたことがうかがえる。

こうしたムーヴメントを好機ととらえたウェス・モンゴメリー(とクリード・テイラー)が、例によってまずリサーチしてみたのが、「夢のカリフォルニア」だったということだ。

そしてそのチャレンジは、想定以上の成功を収めた。

満を持して、ウェス・モンゴメリー(とクリード・テイラー)は再び動く決意をする。その後押しをするのがビートルズである、という論考を次に展開したい。

 

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

今月の音遊人:清塚信也さん

今月の音遊人

今月の音遊人:清塚信也さん「音楽はあやふやで不安定な世界。だからこそ、インテリジェンスを感じることもあります」

11493views

音楽ライターの眼

連載30[ジャズ事始め]渡辺貞夫『ジャズ&ボッサ』はA面とB面を別作品に仕立てた戦略的な意見表明だった

1387views

懐かしのピアニカを振り返る

楽器探訪 Anothertake

懐かしのピアニカを振り返る

16372views

楽器のあれこれQ&A

ウクレレを始めてみたい!初心者が知りたいあれこれ5つ

4177views

大人の楽器練習機

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:世界的ピアニスト上原彩子がチェロ1日体験レッスン

16735views

オトノ仕事人

テレビ番組の映像にBGMや効果音をつけて演出をする音の専門家/音響効果の仕事

1595views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11042views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6604views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

29540views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

5663views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8131views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24632views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

4491views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

8139views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.12

3266views

佐藤順

オトノ仕事人

劇伴制作の進行管理や演奏シーンの撮影をサポートする/映画等の劇伴制作をプロデュースする仕事

3032views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

7554views

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンに新風を吹き込んだ「ステージア」

22879views

グランツたけた

ホール自慢を聞きましょう

美しい歌声の響くホールで、瀧廉太郎愛にあふれる街が新しい時代を創造/グランツたけた(竹田市総合文化ホール)

6762views

パイドパイパー・ダイアリー Vol.8 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

初心者も経験者も関係ない、みんなで音を出しているだけで楽しいんです!

5022views

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンの取り扱いについて

楽器のあれこれQ&A

引っ越しのシーズン、電子ピアノやエレクトーンを安心して運ぶには?

105185views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

5763views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28813views