Web音遊人(みゅーじん)

ボズ・スキャッグス、ソウル&ブルースと都会派AORを兼ね備えた2019年5月の来日公演

ボズ・スキャッグスの来日公演が2019年5月に行われる。

洗練された都会派ポップ・サウンドで知られ、アダルト・コンテンポラリーを代表するアーティストと呼ばれてきたボズは『シルク・ディグリーズ』(1976)『ダウン・トゥー・ゼン・レフト』(1977)『ミドル・マン』(1980)などのヒット・アルバムを発表。「ウィ・アー・オール・アローン」「リド・シャッフル」「ロウダウン」「ジョジョ」「トワイライト・ハイウェイ」などの名曲を生み出してきた。

ボズは1970年代から“大人志向”のアーティストとして認知されてきた。抑えの効いた曲調とソウルフルなヴォイス、『シルク・ディグリーズ』の海沿いのベンチでの後ろ姿や『ミドル・マン』で膝枕をしながら煙草をくゆらすスーツ姿など、ボズといえばダンディな伊達男というイメージがあった。

1980年に発売された彼のベスト・アルバム『ヒッツ!』のジャケット写真はピンク/パープルの上着を袖まくりという、現代の感覚でいう“オシャレ”とはズレがあるものだが、当時はそれがファッショナブルだったのである(2006年の再発時にはより穏やかなジャケットに変更された)。

日本の“シティ・ポップ”に多大な影響を与えるなど、摩天楼の夜景が似合いそうな都会派アーティストと見做されてきたボズだが、実はそれは本人の意図したことではなかった。2018年のインタビューで、ボズは筆者(山崎)にこう語っている。

「音楽を始めて半世紀以上が経つけど、やってきたことはそれほど変わらない。ずっとソウルを歌ってきたんだよ。アプローチは常に同じだった」

ボズ・スキャッグス

ボズの音楽人生のバックグラウンドも、必ずしも“都会派”ではなかった。1944年、オハイオ州の工業都市カントンに生まれた彼は少年時代をテキサス州ダラス郊外で過ごし、レイ・チャールズやジミー・リード、Tボーン・ウォーカーなどから影響を受けて、ミュージシャンを志す。ソウルやブルースを愛する彼は「イギリスでブルースがウケているらしい」と聞きつけ、ロンドンへと向かっている。イギリスのブルースは予想以上にレベルが高く、ボズのバンド、ウィッグスは成功を収めることができず、彼はアメリカに帰国することに。彼は旧友スティーヴ・ミラー率いるスティーヴ・ミラー・バンドの一員として再デビュー。サイケとブルースをクロスオーヴァーさせた音楽性で人気を得ている。

その後ボズはソロ・アーティストに転向して成功を収めるが、ソウルとブルースを忘れたわけではなかった。『カム・オン・ホーム』(1997)ではサニー・ボーイ・ウィリアムスンI世、ジミー・リード、Tボーン・ウォーカーなどのブルース・カヴァーを取り上げている。

そんなボズの近年の活動における主軸となったのが“ソウル&ブルース三部作”である。『メンフィス』(2013)『ア・フール・トゥ・ケア』(2015)そして現時点での最新作である『アウト・オブ・ザ・ブルース』(2018)はボビー“ブルー”ブランドやジミー・リード、マジック・サムらのカヴァー曲とオリジナルを混在させた作品で、ソウル・シンガーとしてのボズの姿を浮き彫りにしている。

“ソウル&ブルース三部作”を完結させたボズが今回のツアーでどんな曲を歌うか、非常に気になるところだが、2018年に行われた北米ツアーでは、『アウト・オブ・ザ・ブルース』からはボビー“ブルー”ブランドの「ザ・フィーリング・イズ・ゴーン」とオリジナル曲の「ロック・アンド・スティック」のみで、なんと『シルク・ディグリーズ』から「何て言えばいいんだろう」「ジョージア」「ハーバー・ライト」「ロウダウン」「リド・シャッフル」と5曲を披露するサービスぶり。“AORの帝王”としてのボズのショーを堪能できるセットリストとなっている。

ちょっと驚くのは、北米では「ウィ・アー・オール・アローン」が演奏されていないこと。アメリカではこの曲はリタ・クーリッジによるヴァージョンが大ヒットしており、ボズのオリジナルは必ずしも知名度が高くないのだという。ただ、これまでの来日公演でも「ウィ・アー・オール・アローン」はオイシイところで披露されており、日本のファンへのスペシャル・プレゼントとして歌われる可能性は十分以上にあるだろう。

ソウル&ブルースの生のエモーションと、『シルク・ディグリーズ』の都会派AORを兼ね備えたボズの2019年5月の来日公演は、1回で2回分楽しむことができる贅沢なライヴとなる。

■ボズ・スキャッグス Out Of The Blues Tour 2019

Out Of The Blues Tour 2019
5月5日(日・祝):仙台サンプラザホール
5月7日(火)/8日(水)/9日(木):東京Bunkamuraオーチャードホール
5月11日(土):大阪 オリックス劇場
5月13日(月):広島 JMSアステールプラザ 大ホール
5月14日(火):名古屋市公会堂
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に850以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

 

特集

今月の音遊人 大貫妙子さん

今月の音遊人

今月の音遊人:大貫妙子さん「言葉で説明できないことのなかに本当に素晴らしいものがいっぱいある。それが音楽ですよね」

19748views

音楽ライターの眼

早熟の天才ギタリスト、ティボー・ガルシアのアランフェス協奏曲

11932views

“音を使って音楽を作る”音楽の冒険を「ELC-02」で

楽器探訪 Anothertake

音楽を楽しむ気持ちに届ける「ELC-02」のデザインと機能

9571views

SE ArtistModel

楽器のあれこれQ&A

クラリネット入門!始める前に知りたい5つの基本

738views

コハーン・イシュトヴァーンさん Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ハンガリー出身のクラリネット奏者コハーン・イシュトヴァーンがバイオリンを体験レッスン!

11746views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

見えないところこそ気を付けて心を配る/弦楽器の調整や修理をする職人(後編)

9215views

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

ホール自慢を聞きましょう

弦楽四重奏を聴くことが人生の糧となるように/第一生命ホール

11475views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8095views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

26497views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

6766views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

5289views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28221views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

9044views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

27480views

音楽ライターの眼

2人の名手だからこそなしえた“大人の音楽”/マイケル・コリンズ クラリネット・リサイタル -小川典子(ピアノ)とともに-

2573views

一瀬忍

オトノ仕事人

ピアノとピアニストの絆を築く、アーティストリレーションの仕事

6280views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

2170views

楽器探訪 Anothertake

26年ぶりにラインアップを一新!「長く持っても疲れにくい」を実現し、フラッグシップモデルが加わったバリトンサクソフォン

4622views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

10836views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

5289views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

32148views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11227views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

28221views