今月の音遊人
今月の音遊人:西村由紀江さん「誰かに寄り添い、心の救いになる。音楽には“力”があります」
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がんばって指導しているのに、なぜ思うような結果が出ないんだろう? どう練習を進めたらいいんだろう?そんな指導者の悩みに対するヒントが詰まっているのが『トップ営業の手法に学ぶ 新時代の吹奏楽指導法』。本書の著者は、学生時代に吹奏楽・オーケストラでトロンボーンに熱中するも、病によって音楽の道へ進むことを断念。長いあいだ音楽から離れていたが、営業職としてキャリアを積むうち、ビジネスのノウハウは吹奏楽の指導に応用できると気づいたという。
ひとつは、近年ビジネス界の人材育成の主流となっているコーチングのテクニック。コーチングとは、対話によって相手の自発的な行動を促し、目標達成を支援するものだが、吹奏楽においても大切なのは指導者と奏者(部員)の対話。責任感の強い指導者ほど、弱みを見せまいと去勢を張りがちだが、わからないことは素直に認め、反対に奏者に質問したり、奏者と一緒に考えたりする姿勢が信頼関係の構築につながるという。
大きな課題を解決しようとするとき、細かいプロセスに分解して考える“因数分解”と呼ばれるビジネスの手法も役立つそうだ。例えば、自分の演奏の録音・録画をしている奏者は大勢いるだろうが、「これじゃだめだ」「下手だ」といったあいまいな評価ではなく、音程・リズム・強弱・緩急・音色の5つの要素に分解し、模範演奏と聴き比べながら、どの箇所がどう問題かを理解するところまで突き詰めることが重要だと著者はいう。時間と労力はかかるが、克服すべき課題がわからないまま無為に練習するより、問題点をはっきりさせた上で適切な練習をしたほうがモチベーションも上がり、結局は上達のための近道となるだろう。
さらに著者が念を押すのが、目標設定の重要性。ビジネスにおいても目標は不可欠なものだが、それは誰かに与えられた目標や、「できたらいいな」という願望レベルのものではなく、奏者側が自発的に強く望む目標でなければならない。そして全国大会出場を目標とするならば、指導者はスケジュール、段取りから不安材料まで全て書き出し、自分達が大会に出場する具体的なイメージを描くこと。また奏者側も、各自で課題を書き出し、どの順番でいつまでに克服するかを予定表に組み、「いつまでにどうなっていたいか」を個人目標として明確にすることが不可欠という。よく頭の中で夢や理想を描いても、文字にしようとするとうまく書けないというが、完璧な状態でなくても文字化しようとすることで考えが整理でき、課題がよりクリアになるため、目標に近づく大きな第一歩となる。
指導法にこれ!という正解はなく、指導の良し悪しを自分自身で客観的に判断するのは難しい。吹奏楽の指導者はもちろん、あらゆる世界で指導、教育に携わる人は、自身の指導法を見直すきっかけとして本著を手に取ってみてはいかがだろうか。
『トップ営業の手法に学ぶ新時代の吹奏楽指導法』
著者:石川聡
発売元:ヤマハミュージックメディア
価格:1,944円(税込)