Web音遊人(みゅーじん)

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

日本の代表的な大型音楽フェスであるサマーソニック。2000年から毎年開催され、20周年を迎える2019年は、10年ぶりに東京・大阪で3日間同時開催される。ところで音楽フェスにとって最も重要ともいえるのが、出演アーティストのラインアップだ。どんなアーティストが出演するのか、フェスに参加する際は誰もが気になるところ。そこで、音楽フェスを開催する際、アーティストのブッキングなどはどのように行われているのかを、サマーソニックの邦楽部門ディレクターを務める長嶋誠志(ながしませいじ)さんに伺った。

長嶋さんは、国内外アーティストのライブを企画制作する株式会社クリエイティブマンプロダクションの邦楽部部長として、音楽フェスのブッキングやタイムテーブルの作成を担当。サマーソニックでは主に邦楽アーティストのブッキングを行っている。
「サマーソニックは、まずはヘッドライナー、それから洋楽の主要アーティストが決まり、そのうえで邦楽アーティストへの交渉を行っていきます」
出演を依頼したいアーティストには直接連絡を取り、交渉する。それだけでなく、近年は年末の音楽フェスにも足を運び、今の音楽シーンのはやりや、来年はどのアーティストに人気が集まりそうかなど、現場でしか得られないリアルタイムな情報収集に力を入れているという。
「まずは年末に情報を仕入れ、年明けから具体的に動きだします。出演するアーティストを選定し、どのステージに出るかの調整や、出演料の交渉などを進めていきます」

交渉と同時進行で考えなければならないのが、各日のタイムテーブルの組み方だ。
「最近は各地で音楽フェスが増えてきているので、ほかのイベントへの出演スケジュールとの兼ね合いや演出面の希望のほか、野外ステージの猛暑の時間帯も考慮しています。また、具体的に何時の、どのステージでという希望をアーティスト側からいただくこともあります」

細かな調整をしつつも大切にしているのが、開催日によって特色を明確にすること。今年は、20周年にふさわしいロックバンドRED HOT CHILI PEPPERSをはじめ、THE CHAINSMOKERS、B’zに各日のヘッドライナーをオファー。1日は王道ロック、別日はダンスミュージックといった、ヘッドライナーに応じたカラーが出るようにスケジュールを組むことで、観客が参加しやすいフェスづくりを行っている。
「初の日本人ヘッドライナーとしてB’zにオファーした経緯としては、日本の大物アーティストの中でも、何度も出演していただき、我々とつながりの深いアーティストにお願いしたいという想いがあったからです。20周年の歴史の総括からしてやっぱりB’zしかいないと」

2019年はほかにも、これまでのつながりを大切にした出演者が選ばれている。新人の頃から出演し、サマーソニックとともに大きく育っていったアーティストも多く登場する。いまや国内外で人気のBABYMETALもそのうちのひとつだ。
「BABYMETALはいちばん小さなステージ出演からスタートして、2017年、いちばん大きなステージ出演まで上りつめたんです。今年はさらに、2017年に海外ツアーで共演したRED HOT CHILI PEPPERSと同じ日にオファーしました。サマソニの舞台で再会してもらいたくて。そうしたストーリーが実現するときはうれしいですね」
サカナクションも、新人の頃から出演している常連組。2019年は深夜枠で、サカナクションが主催するイベント「NF」とのコラボイベント「NF in MIDNIGHT SONIC」が行われる。これは彼らからのアイデアで実現することになった。
「コラボイベントは、こちらから提案して成立するものでもなくて。アーティスト側からリクエストをいただけるのもやはり信頼関係というか、長い付き合いの中で気軽に情報交換ができるようになった結果だと思います。そのうえで形になるのはうれしいこと。今年はそうした縁がたくさん集まっています」

(写真左)サマーソニック東京会場のメインとなるマリンステージ。2019年はブロック指定を廃止し、より強力な一体感が期待される。(写真右)ライブだけでなく、会場を飾るモニュメントやアート作品も見どころ。工夫を凝らしたフォトスポットも満載だ。

タイムテーブルが決まったあと、ステージ制作などの運営まわりの仕事は各担当スタッフに任せていく。そのなかで、現場や出演アーティストから出てくるリクエストは、長嶋さんが取りまとめて調整を行っている。

また、サマーソニックは都市型で東西同時開催されるのが大きな特徴だ。3日間開催となる2019年も、東京と大阪で日ごとにアーティストが入れ替わる基本スタイルは崩さない。
とはいえ、アーティスト自身のスケジュールとの兼ね合いで、イレギュラーな場合が出てくることも少なくない。1日目は大阪、2日目は東京で演奏することもあれば、1日目のあとに1日空けて3日目にも演奏することもある。開催当日はアーティストごとにどのような動きが必要になるのか、頭に入れておかなければならない。そうした細かな配慮や調整と、長年蓄積してきた信頼関係により、サマーソニックが出来上がっていくのだ。
「丸一年かけて音楽フェスを作る。大きなパズルを組み立てていくような感覚です。そうしてできた“サマーソニック”という完成形を見ることは、入社して以来15年間、僕にとってもいちばん大きなイベントになっています」

Q.今の仕事に就いていなかったらどんな仕事を?
A.文章を書く仕事に就きたいなと思っていました。若い頃ライブやクラブによく通っていたので、書く題材として、音楽というのは漠然と頭の中にあったんです。大学生の時には雑誌編集の手伝いをしていたこともありました。

Q.好きな音楽を教えてください。
A.ずっと好きなのは、ネタンダーズというバンドです。学生の頃、イベント企画のサークルに入っていて、その時に出てもらったバンドです。今もカフェやライブハウスで演奏しています。ギターがいいんですよね。世代的にはゆらゆら帝国とかそのあたりですね。

Q.学生の頃はどんな音楽を聴いていましたか?
A.レゲエ音楽を聴いていましたね。パンクも好きでバンドをやっていて、ギターとかベースを弾いてましたね。

Q.最近行ったライブは?
A.仕事以外ですよね?行こうと思っていても、行けなかったライブが多いんですけど……。今年はまだ行けてないので、まずいですね(笑)。とくにティーンエイジ・ファンクラブのライブに行きたかったんです。20代の頃から好きなロックバンドです。

Q.休日はどのように過ごしていますか?
A.家で過ごしたり、海の近くに住んでいるので、海に散歩に行ったりしています。あとは、お酒や料理が好きで、最近だと家でワインを飲むことも増えました。来年2020年は東京オリンピックが開催されることもあり、サマーソニックはお休みすることが決まっているので、久しぶりに日本の夏を楽しみたいなと(笑)。スタンドアップパドルなどのマリンスポーツに挑戦してみたいです。

 

■サマーソニック 2019

日時:2019年8月16日(金)~18(日)11:00開演

●東京

会場:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ(千葉市美浜区)
開場:9:00
料金:1DAY 15,000円、3DAY 39,000円、プラチナチケット(1DAY+プラチナ特典)25, 000円

●大阪

会場:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)(大阪市此花区)
開場:10:00
料金:1DAY 13,800円、3DAY 36, 000円、プラチナチケット(1DAY+プラチナ特典)25, 000円

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:荻野目洋子さん「引っ込み思案だった私は、音楽でならはじけることができたんです」

8079views

ムソルグスキー「展覧会の絵」、創作欲を刺激する余白、ELP版はプログレの大門

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase8)ムソルグスキー「展覧会の絵」、創作欲を刺激する余白、ELP版はプログレの大門

6068views

楽器探訪 Anothertake

存在感がありながら他の楽器となじむシンフォニックなサウンドが光る、Xeno(ゼノ)トロンボーンの最上位モデル

5681views

初心者におすすめのエレキギターとレッスンのコツ!

楽器のあれこれQ&A

初心者におすすめのエレキギターと知っておきたい練習のコツ

23154views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11669views

小林洋平

オトノ仕事人

感情や事象を音楽で描写し、映画の世界へと観る人を引き込む/フィルムコンポーザーの仕事

2349views

アクトシティ浜松 中ホール

ホール自慢を聞きましょう

生活の中に音楽がある町、浜松市民の音楽拠点となる音楽ホール/アクトシティ浜松 中ホール

14885views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5623views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

23478views

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う 結成30年のビッグバンド

われら音遊人

われら音遊人:年齢も職業も超えた仲間が集う、結成30年のビッグバンド

9866views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

だから続けられる!サクソフォンレッスン10年目

5029views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10382views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:和洋折衷のユニット竜馬四重奏がアルトヴェノーヴァのレッスンを初体験!

5422views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22920views

ジャズとデュオの新たな関係性を考える

音楽ライターの眼

ジャズとデュオの新たな関係性を考えるvol.8

3872views

オトノ仕事人

音楽フェスのブッキングや制作をディレクションする/イベントディレクターの仕事

13380views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

11206views

楽器探訪 Anothertake

世界の一流奏者が愛用するトランペット「Xeno Artist Model」がモデルチェンジ

26409views

ホール自慢を聞きましょう

歴史ある“不死鳥の街”から新時代の芸術文化を発信/フェニーチェ堺

8876views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5596views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

1073views

日生劇場ファミリーフェスティヴァル

こどもと楽しむMusicナビ

夏休みは、ダンス×人形劇やミュージカルなど心躍る舞台にドキドキ、ワクワクしよう!/日生劇場ファミリーフェスティヴァル2022

3226views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30926views