今月の音遊人
今月の音遊人:林英哲さん「感情までを揺り動かす太鼓の力は、民族や国が違っても通じるものなんです」
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2017年にデビュー25周年を迎えた広瀬香美さん。3月には、現在の拠点であるロサンゼルスでの公演を満員で成功させるなど、活躍の場を広げています。気持ちよく伸びていくハイトーンボイスを維持し続けるその源は、日々の鍛錬と新たな課題に果敢にチャレンジしていく姿勢にあるようです。
小さい頃から音楽はたくさん聴いてきていて、どれが一番というと思い出せないくらい。その中で最近、一番よく聴いていたのが、2017年のオータムツアーで初めて歌ったマライア・キャリーの『Forever』です。4月にセットリストが決まって以来、7月までずーっと練習していましたから。驚くほど難しい曲で、こんなに大変な“お題”はここ最近なかったので、同じところを何度も聴いては練習をくり返しました。
この曲はマライアのデビューアルバムに入っているのですが、そんなに有名な曲ではないんですよね。私もこのアルバムは持っていましたが、『Forever』はあまり記憶になくて。でも、今回あらためて聴いてみて、ちょっと地味ともいえるこの曲を、こんなに感極まるまで歌えるマライア・キャリーは、なんてすごい歌手なんだと。身をもって知りました。遅ればせながら私の中では、今、マライアがブームなんです(笑)。
毎日4時間ほど歌の練習をするのですが、そのうちの1時間半はこの曲にかけていました。まだ、納得はいっていないけれど、彼女の技術や気持ちの持っていき方などを多少は盗めたかな、と思います。とても実り多きツアーになり、マライアが私のことを少し、上手にしてくれたんじゃないかなって。彼女に感謝です。それでも、まだまだ課題は残っています。到達しないまま終わるのは悔しいので、できれば来年も歌いたい、練習したい。そして、「このくらい上手になりました」って、皆さんにご披露できたらいいですね。
小さい頃にピアノを習い始めてからずーっと音楽を続けています。好き嫌いを意識する前に音楽の中にいた。例えて言うと、私は音楽というロールプレイング・ゲーム(RPG)のゲームソフトの中にいるキャラクターだと思っています。このRPGの中には、お客様やスタッフという、私を応援してくれるキャラクターもいて、私にも努力する素質はあって、第1ステージ、第2ステージと進むうちに、運良く売れたりもして、またステージが進んでいく。さらに先へ行くと、およそ倒せないようなマライア・キャリーというモンスターも現れてくる(笑)。こうやってステージが変わるからこそ、飽きることなく続けていけるんですね。
失恋したときに音楽で癒されたという話をよく聞きますが、私にはそういう曲がないんです。感情的に浸れる曲があればいいなぁとは思うのですが……。自分が創作をする身なので、音楽を聴くときは学術的になってしまい、「あー、このCでこの音を使うのね」とか、分析しちゃうんです。ただ、声がいい方の歌を聴いて、それに癒されることはあります。今だとブルーノ・マーズとか。「いい声だなぁ、いい声帯だなぁ」って。
私にとっては音楽を辞めたときに振り返って思う、究極の言葉かもしれません。マラソン選手も同じではないかなと思うんです。選手として走っているときはマラソンを楽しんではいない、遊んではいないんじゃないかなって。闘っていますよね。私も今は、音楽というものの中で闘っていて、苦しんでいるし、もがいているんです。「ヒット曲が書けていいな」「あんなに歌えていいな」と思ってくださる方もいらっしゃいますが、私は自分を全然うらやましいと思わない。なりたい理想の姿や、こんなふうに歌いたいという音は自分の中にあるのですが、現実ではそれを表現できないときもありますから。
いつかは音楽をやめるときがくる。そのときに、私は究極のところ、音と遊んだんだなって、最後、思うのだろうなと。今はまだ「音で遊ぶ人」じゃないですね。「音と闘う人」かな。
広瀬香美〔ひろせ・こうみ〕
4歳でピアノを始め、5 歳から作曲を習い始める。国立音楽大学在学中にロサンゼルスに行き、ボビー・ブラウンやBABYFACEのコンサートを見て、ポップスに開眼。1992年、アルバム『Bingo!』でデビュー。1993年、シングル『ロマンスの神様』が175万枚のヒットを記録。その後、ドラマ、ミュージカル、映画の音楽監督、アーティストへの楽曲提供及び、プロデュースなどを、幅広く手がける。1999年、初のベストアルバム『The Best LOVE WINTER』が203万枚のビッグヒット。現在はロサンゼルスを拠点に音楽活動を行い、日本でもコンサートツアーを開催している。
広瀬香美オフィシャルサイト http://hirose-kohmi.jp/