今月の音遊人
今月の音遊人:村松崇継さん「音・音楽は親友、そしてピアノは人生をともに歩む相棒なのかもしれません」
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一度は忘れ去られたミュージシャンたちが見事に復活し、ニューヨークのカーネギーホールでのコンサートを成功させるまでのドキュメントである。彼らの歌の、演奏の、たたずまいの、なんと艶っぽいことか!
ローリング・ストーンズのアルバムにも参加し、たびたび来日もしているロサンゼルス生まれのギタリスト、ライ・クーダーが初めてハバナを訪ねたのは1970年代のこと。以来、キューバの音楽に魅せられた彼は、人々の記憶に、またレコードとなって残されていた歌手や演奏家を探すことに情熱を傾けた。
そうして集められた十数人のミュージシャンでバンドが結成された。その名は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。40年代にハバナの人々が歌に酔い、踊り明かしたクラブの名称をそっくり頂戴した。
映画は、アムステルダムでの彼らのコンサートの模様をセピアがかった色調で映し出す。その合間合間にスクリーンは一転、明るいキューバの日射しのもとで、老ミュージシャンたちがそれぞれの人生をカメラに向かって語るのである。
ライ・クーダーによって、「キューバのナット・キング・コール」と讃えられたイブライム・フェレールは、1927年の生まれ。一時は海外公演もこなしていたが、「生きて行くなかで、耐えることが多過ぎた」と歌うことを諦め、靴磨きをしていたときにブエナ・ビスタへの参加の声がかかった。
「10年間、ピアノのない生活だった」と振り返るルベーン・ゴンサレスは、誰もいない宮殿のような広間で見事な演奏を披露してみせる。
歌手であり、ギタリストでもあるコンパイ・セグンドは撮影当時90歳を越えていたが、いつもシガーを手放さない「生涯現役」。
メンバーの紹介と共に流れるハバナ旧市街の映像が美しい。ひどく古めかしいけれど典雅な窓の建物が並び、人々は半世紀も昔にアメリカでつくられた自動車をキャンディーカラーで飾り立てて今も乗りまわしている。
映画の後半は、カーネギーホールで開かれた彼らのラスト・コンサート。キューバの国旗が振られる満員の会場に拍手が鳴りやまない。メンバーの一人が「ああ、人生!」と呟く。
彼らのアルバムは1997年のグラミー賞を獲得した。
<作品紹介>
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ Film Telecine Version』
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:ライ・クーダー、イブライム・フェレール、ルベーン・ゴンザレス、エリアデス・オチョア、オマーラ・ポルトゥオンド
1999年 キューバ、フランス、ドイツ、アメリカ作品