今月の音遊人
今月の音遊人:八神純子さん「意気込んでいる状態より、フワッと何かが浮かんだ時の方がいい曲になる」
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ピアノは誰もが知るポピュラーな楽器だが、想像以上にやっかいな楽器だと思う。鍵盤を押せば音が鳴り、熱心に練習すれば指が動くようにはなるが、音楽的に優れた演奏をするのはとてつもなく難しく、多くの人が楽譜通りに弾くことさえままならない。でもだからこそ、修練を積んだ一流のピアニストが奏でる音楽に心を動かされるのだろう。
『ピアニストが語る!』は、台湾出身の音楽ジャーナリストがいわば“個人的に”行ったピアニストへのインタビューをまとめたもので、イーヴォ・ポゴレリチを筆頭に14名分が収められている。
インタビューを開始したとき著者は20代の学生で、音楽の専門的な勉強をしていたわけでもないが、音楽好きが高じてピアニストに直接質問を投げかけたいと思い立ったのだそう。インタビューが実現したのは著者の音楽への情熱、豊かな音楽知識があってのことだろうが、ピアニスト側も主体的に質問の内容を考えて著者と向き合ったといい、単なるQ&Aではない対等な議論が生まれている。このポイントが、他のインタビュー本とは一線を画するところだ。
プロの演奏家として成功するには「天賦の才能」「努力し続ける情熱」「運」などの要素が必要で、どういう教育を受けたかによっても未来は大きく変わってくる。本書に登場するピアニストの家庭環境や受けた教育はさまざまだが、印象的なのはロシアの教育を受けたピアニスト達で、ロシア・ピアニズム(ピアノの奏法)の伝統や、伝統を継承するピアニスト・教育者の指導などについて語られている。世界的なピアニストが自ら語る体験談はドラマティックであり、ロシア内の異なる流派、またロシアと他の国の教育、ピアニズムを比較しながら読み進めてみると面白いだろう。
コンクール偏重主義や商業主義に傾いた音楽ビジネスなど、現代の音楽界はさまざまな問題を抱えているが、本書に登場するピアニストは、時代や環境が変わっても作曲家の創作意図と真摯に向き合い、信念を持って自分の音楽を追究し続けている。プロの音楽家になる道は厳しく、プロになってからもいばらの道が待っているが、それでもなお音楽の道を突き進む人のみがピアニストでいられる、ということなのかもしれない。
文/ 武田京子
tagged: イーヴォ・ポゴレリチ, インタビュー, ピアニスト, ピアノ
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