Web音遊人(みゅーじん)

岡崎市民会館 あおいホール - Web音遊人

天井を取り払って生まれた新たな音と響き、音響設計者が語るホール大改修への道

奏者の演奏を空間全体に響かせ、聴衆を包み込む心地良い音響。普段なかなか知る機会のない、ホールの音響がどのように決められているかについて、音響設計に長年携わるヤマハの宮崎秀生(ひでお)さんに詳しく伺った。

宮崎さんが直近で手掛けたホールのひとつが、3年にもおよぶ改修プロジェクトを終え、2016年10月1日にこけら落としを迎えた愛知県岡崎市の「岡崎市民会館 あおいホール(旧名称:大ホール)」。大規模なホールの改修としては、吊り金具で天井板を吊った天井(吊り天井)を取り払うという他にあまり類を見ない方法で、国が定める地震時の天井崩落対策の基準をクリアし、音響(残響時間)の改善も同時に実現させた。

岡崎市民会館 あおいホール - Web音遊人

吊り天井を取り払うことでむき出しになった梁や鉄骨は、落ち着いた色で塗装することで目立たなくする工夫が施されている。

ちなみに、同じ規模の音響が良いとされるホールの残響時間は2.0秒前後であることが多いが、昭和42年(1967年)の開館から半世紀が経つ岡崎市民会館大ホールは、近年のホールに比べると天井が低く、残響時間が1.5~1.6秒と短めだった。
「吊り天井を撤去すると室内空間が広がり、残響時間の改善に有効であることは明らかでした。ですが、天井に隠れていた梁(はり)や鉄骨がむき出しになるほか、屋根の軽量気泡コンクリートパネルが音を吸ってしまうなどのリスクが予測されました」

そこで活躍したのが3次元音響シミュレーション技術。どこをどう改修すると音響が改善するのか、コンピュータ上でベストな方法を解析していったという。
「その結果、天井を撤去した上で、舞台の反射板の隙間をふさいだり、内装に使われている吸音材を取り外したりすれば、残響時間を1.9秒近くまで伸ばせることがわかりました。また聴衆が音量感や音の拡がり感を得るには、舞台から天井や壁に当たり客席へ届く反射音が大切ですが、客席前方の上に反射板を設置し、両サイドと後方の壁に音が拡散しやすい形状の反射板を追加することで、全ての客席に十分なエネルギーの反射音を届けられることもわかりました」

岡崎市民会館 あおいホール

(写真左)ホールでの音響測定の様子。残響時間やその他の音響指標値の測定を行う。(写真右)シミュレーション結果の一例。寒色より暖色の方が反射音が大きいことを示している。

音響シミュレーションはリアルな空間でも行われ、ホールのなかで一番音を吸うとされる客席の椅子と聴衆の吸音力の測定などを実施。音がほとんど減衰しない残響室を使って、ホールの椅子をいくつか置いた状態や椅子に人が着席した状態で音がどのくらい吸われるかを測定し、音響設計に生かしたという。

岡崎市民会館 あおいホール

さらに今回の改修では、舞台空間の音響も改善されている。
「建築設計者(日建設計名古屋オフィス、日建設計コンストラクション・マネジメント)とも十二分に議論を重ね、客席を200席(※)ほど減らして舞台に奥行きを出し、舞台空間を広げました。舞台の大きさは使いやすさや用途の幅といった面で重要なだけでなく、ホール全体の音の響きにも影響しますので、音響の改善においても大きなポイントになったと思います」
(※)岡崎市民会館全体では、466席を減席

改修前の旧ホールで指揮をしたことがあり、新装したあおいホールでも2016年11月12日にコンサートを行った指揮者の井上道義氏も、音響の良さを実感しているそうだ。
「天井や舞台空間などが大きく変わり、改修してよかったと思います。響きのバランスに関してもどこかの楽器の音が聴こえにくいということもないし、オケのメンバーも満足していました。市民のみなさんにも、ぜひあおいホールを使ってもらいたいね」

岡崎市民会館 - Web音遊人

新生、岡崎市民会館では、井上道義氏率いる名古屋フィルハーモニー交響楽団による「第24回 岡崎市民クラシックコンサート」が開催された(2016年11月12日)。特別出演として、光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部、岡崎混声合唱団、岡崎高等学校コーラス部が加わり、ヴェルディ「アイーダ」などが披露された。(写真提供:名古屋フィルハーモニー交響楽団)

地域の行政機関やホール関係者、建築設計者、奏者など、立場の異なる人と協議を重ねながら、聴衆に最高の音楽を届けるための音響をつくり上げる音響設計者。今度コンサートに出掛ける際は、聴こえてくる音はもちろん、舞台や壁面のデザインなどにも注目してみてはどうだろうか。

■岡崎市民会館 あおいホール

所在地:愛知県岡崎市六供町出崎
TEL:0564-21-9121

オフィシャルサイトはこちら

 

特集

菅野祐悟

今月の音遊人

今月の音遊人:菅野祐悟さん「音楽は、自分が美しいと思うものを作り上げるために必要なもの」

7530views

音楽ライターの眼

フリートウッド・マックの初期未発表音源集『ビフォー・ザ・ビギニング 1968-1970 〜ライヴ&デモ・セッションズ〜』が発表

5055views

楽器探訪 Anothertake

空間を包み込む豊かな響き「フリューゲルホルン」

8370views

楽器のあれこれQ&A

ピアノ講師がアドバイス!練習の悩みを解決して、上達しよう

5826views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】注目の若手ピアニスト小林愛実がチェロのレッスンに挑戦!

11180views

アカネキカク akaneさん

オトノ仕事人

楽曲のイメージをもとに、ダンスの振りを考え、演出をする/振付師の仕事

3801views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

7762views

こどもと楽しむMusicナビ

サービス精神いっぱいの手作りフェスティバル/日本フィル 春休みオーケストラ探検「みる・きく・さわる オーケストラ!」

11187views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

36955views

みどりの森保育園ママさんブラス

われら音遊人

われら音遊人:子育て中のママさんたちの 音楽活動を応援!

7897views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

6408views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11759views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

9671views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

見るだけでなく、楽器の音を聴くこともできる!

15495views

音楽ライターの眼

人気と実力を誇る世界的なテノール、ヨナス・カウフマンの魅惑的なウィーンコンサート

4644views

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

舞台上の小さなボックスから指揮者や歌手に大きな安心を届ける/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(後編)

15583views

Red Pumps BIGBAND

われら音遊人

われら音遊人:出自がさまざまなメンバーと、誰もが楽しめる音楽をビッグバンドで

1973views

【楽器探訪 Another Take】ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

楽器探訪 Anothertake

ベルの彫刻デザインとマウスピースも一新

12361views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

30102views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

9608views

CLP-825WH

楽器のあれこれQ&A

はじめての電子ピアノを選ぶポイントや練習を続けるコツ

4821views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

6467views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

34885views