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大西順子さん - Web音遊人

ジャズピアニスト、大西順子の復帰第一作はリズムへのアプローチが新鮮!2017年はライブツアーも満載

ジャズピアニストとしてトップクラスの活躍を続けるも、2012年に突然引退していた大西順子が、再び日本のジャズシーンに帰ってきた。2015年9月に日野皓正の呼びかけにより「東京JAZZ」に出演。そして、2016年6月に復帰後第一作となるアルバム『Tea Times』をリリース。現在は精力的にツアーを行っている。

ニューヨークで活動した後、1993年にデビューアルバム『ワウ WOW』を発表するや、一躍日本のジャズシーンに躍り出た大西。力強いリズムと疾走感、そしてオリジナル曲の洗練されたメロディでジャズファンのみならず人気を博した。日本人の女性ジャズプレイヤーがまだ数少なかった当時、アメリカのブルーノートからのアルバムリリース、ニューヨーク老舗ジャズクラブへの出演など、ワールドワイドな活躍は大きな話題を呼んだ。

これだけの輝かしい実績をもつプレイヤーだけに、彼女の引退は多くのファンに惜しまれた。引退を表明した後のあるライブで、指揮者の小澤征爾が「引退反対!」と声をあげたというエピソードもあるほどだ。
だが、その時間は大西にとって決して無駄ではなかった。復帰後の最新作『Tea Times』は、ジャズミュージシャン・菊地成孔のプロデュースによるもの。これまでのアルバムはすべて自身でプロデュースしてきた大西にとって初めてのチャレンジだった。
「今のジャズがわからなくなったところがあって、勉強したいと思って菊地さんにお願いをしました。以前テレビで拝見して、音楽の好みが合うのではと感じていましたから」
“今のジャズ”とは……?
「最近は純粋な4ビートを耳にすることはほとんどなくなっていて、だいたいがヒップホップのリズムですよね。そこにトライしていくのか、あくまでも4ビートだけを追求していくべきか」と考える中、あえて楽曲もプロデュースも他者に委ねたのが今回の作品だ。1曲目から強烈なビートが刻まれ、さらには変拍子を含め、リズムが変化してゆく。また、ホーンセクションが入ったり、ラップが入ったりする楽曲もある。確かに今までの作品とは趣を異にしてはいる。
「4ビートではないアプローチもありますから、ロックなどを聴いてきた人にも楽しんでもらえると思います。リズムに関しては菊地さんもこだわられていたところで、例えば4拍子と5拍子を混在させるようなリズムは、知ってはいても演奏することがなかったので新鮮でした。やはりヒップホップのリズムはおもしろいですね。純粋な4ビートでヒップホップのようなグルーヴを出していくのはむずかしいことですが、だからこそ、そこ(グルーヴを出すこと)は譲らないでいきたいなともあらためて思えたんです」

新しい経験により音楽に対するスタンスを広げつつ、追求すべき道も見えてきた。加えて、復帰後は人気アニメ映画の音楽にも参加するなどメディアでも活躍。ファンには意外かもしれないが、「呼ばれれば、何でもやりますよ(笑)」と、本人の姿勢はいたって柔軟だ。

最近は自分の中での音楽に対する興味の変化も意識しているという。
「今だと、バラードがイケてるなって。以前はワンセットに1曲は入れなくてはという感じでしたけれど、今は全部バラードでもいいんじゃないっていうくらい(笑)」
さらに今回のアルバムでリズムへのアプローチを徹底したことから「逆にリズムをなくすとどうなるんだろう、という考えが浮かんだりも」と、新しいアイデアもわいてきた。
一つのチャレンジはこのようにまた違う音の扉へとつながってゆくのだろう。
もちろん、大西順子ファンが期待する“弾きっぷり”は健在で「それはもう、隠しても隠しきれないものがありますから」というだけに、ライブでの演奏が楽しみなところ。

大西順子さん - Web音遊人

2017年2月17日にヤマハ銀座ビルで開催されたトークショー「ジャズピアニスト大西順子が語る~Tea Times~」での一枚(左:小川隆夫/右:大西順子)

2017年は復帰後、一緒にツアーを行っている、井上陽介(ベース)、山田玲(ドラムス)とのトリオで全国各地を回る予定だ。
「井上陽介さんは私よりちょっと年上で頼りになるベーシスト。山田玲君は1年間一緒にツアーをしてきて、どんどん演奏も変わってきているので、いろいろなことを試したいと思っています」
これまで以上に活躍が楽しみな大西順子の生音を、ぜひ堪能してほしい。

■アルバムインフォメーション

『Tea Times』
Tea Times
発売元:TABOO
発売日:2016年6月22日
価格:3,100円(税込)
詳細はこちら

■公演インフォメーション

大西順子トリオ・ツアー/大西順子トリオ・クラブツアー2017
詳細はこちら

 

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