Web音遊人(みゅーじん)

ピアニストとして30年を迎えあらためて思う、曲の本質に迫るために必要なこと/小川典子インタビュー

ピアニストとして30年を迎えあらためて思う、曲の本質に迫るために必要なこと/小川典子インタビュー

イギリスのロンドンを拠点に、欧米やアジア諸国も含めた各国で演奏活動を行うピアニスト・小川典子。1987年、権威ある「リーズ国際ピアノコンクール」で第3位を獲得し、国際的なピアニストとして活動を始めてから2017年でちょうど30年。コンサートを行うのはもちろん、ギルドホール音楽院(ロンドン)や東京音楽大学で多くの生徒たちを教えている。また2018年に開催される「第10回浜松国際ピアノコンクール」では審査委員長を務めることが決定しており、その実力はもちろん人気も相まって、高い信頼を獲得しているピアニストだ。
「これまで自分の中に蓄積されてきたことを生徒たちに伝えていますが、音楽をより深く読み込む姿勢や能力が大切だということを、あらためて実感しています。曲の本質に迫るためには、自分が得た作曲家や曲についての知識も含め、すべてを音楽にして表現しなくてはなりません。自分の中にあるものを出し切るため演奏のテクニックを磨く必要もありますし、そうしたすべてのことを常に忘れないこと、それがプロとしてのあるべき姿だと思います」

こうした心得が根底にあるからこそ、多彩なレパートリーを有し、幅広く活動をする上でもブレがないのだろう。小川の評価はCDにおいても高く、日本でも多くの聴き手が注目してきたスウェーデンのレコードレーベル「BISレコード」からは、ドビュッシーのピアノ曲全集やラフマニノフのピアノ協奏曲集、武満徹といった日本人作曲家の作品など、30枚以上がリリースされている。最近では、エラール社製のヒストリカル・ピアノで弾いたエリック・サティの作品集が、高い評価を得た。
「サティの作品集も1枚目の評判が良かったので、2枚目以降も安心してリリースできますし、私が希望した菅野由弘さんの作品集なども発売することができました。いろいろな作品を録音させていただく機会があるのは、大変にありがたいことだと思っています」

ピアニストとして30年を迎えあらためて思う、曲の本質に迫るために必要なこと/小川典子インタビュー

さらにもうひとつ、小川にとって大切な活動となっている「ジェイミーのコンサート」も紹介しておこう。これは、かつて出会った自閉症児〔ジェイミー君〕と彼の家族の存在が発端となり、「気軽にコンサートへ出かけることができない家族や周囲の人たちに、音楽でひとときの安らぎを」という気遣いからスタートしたもの。
「日本では2004年に始まり、2017年で15回目を迎えました。イギリスでは『ジェイミーのコンサート』が私の代名詞になっているほど注目されていて、社会活動としての発展が期待されています」

多忙を極める小川だが、自身も楽しみにしていると語るのは、2017年7月7日に銀座のヤマハホールで行われるリサイタルだ。実は旧ヤマハホールには忘れがたい思い出があるという。
「小学1年生から、桐朋学園の『子供のための音楽教室』に通っていましたが、そこでは小学3年生以上の優秀な人だけが選ばれ、ヤマハホールで演奏をすることができたのです。ですから私にとっては憧れのステージであり、育ててもらった場所でした。幸運にも試験やコンクールなどで何度か演奏する機会に恵まれましたので、記憶が鮮明に残っています。新しいホールは以前より響きが豊かになりましたので、演奏当日が待ち遠しいですね」

ピアニストとして30年を迎えあらためて思う、曲の本質に迫るために必要なこと/小川典子インタビュー

旧ヤマハホール

リサイタルでは、思い出の曲であるモーツァルトのピアノ・ソナタ第3番とリストの『ラ・カンパネラ』を筆頭に、モーツァルトの『トルコ行進曲付き』ソナタやブラームスの『間奏曲』(作品118の2)、そして久しぶりに弾くというシューマンの『幻想曲』をプログラミング。豪快な和音から繊細な節回しまで、小川ならではの多彩なピアニズムを333席の贅沢な空間で堪能できるだろう。

■小川典子 ピアノ・リサイタル

日時:2017年7月7日(金)19:00開演(18:30開場)
場所:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14 ヤマハ銀座ビル7F)
料金:5,000円(税込)
曲目:W.A.モーツァルト/ピアノ・ソナタ 第3番 変ロ長調 K.281、W.A.モーツァルト/ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 「トルコ行進曲付き」 K.331、F.リスト/パガニーニ大練習曲 第3番 嬰ト短調 「ラ・カンパネッラ(鐘)」 S.141/R.3b、J.ブラームス/6つの小品 第2番 間奏曲 イ長調 Op.118、R.シューマン/幻想曲 ハ長調 Op.17

公演の詳細はこちら

 

特集

八神純子さん - 今月の音遊人

今月の音遊人

今月の音遊人:八神純子さん「意気込んでいる状態より、フワッと何かが浮かんだ時の方がいい曲になる」

15286views

音楽ライターの眼

連載46[ジャズ事始め]ジャズの枢軸を動かさんとするアジアン・チームはどのように膨張していったのか

2206views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」

1views

楽器のあれこれQ&A

エレクトーンについて、知っておきたいことや気をつけたいこと

28198views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

13226views

オトノ仕事人

プラスマイナス0.05ヘルツまで調整する熟練の技/音叉を作る仕事

39545views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

20360views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

4155views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

21780views

ONLYesterday

われら音遊人

われら音遊人:愛するカーペンターズをプレイヤーとして再現

2258views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

6164views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35012views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

9044views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

25157views

パパ・チャビーが盟友たちとギター・バトルで火花を散らすフレディ・キング・トリビュート作を発表

音楽ライターの眼

パパ・チャビーが盟友たちとギター・バトルで火花を散らすフレディ・キング・トリビュート作を発表

663views

オトノ仕事人

新たな音を生み出して音で空間を表現する/サウンド・スペース・コンポーザーの仕事

8455views

われら音遊人

われら音遊人:路上イベントで演奏を楽しみ地域活性にも貢献

4494views

楽器探訪 Anothertake

ピアニストの声となり歌い奏でる、コンサートグランドピアノ「CFX」の新モデル

6712views

秋田ミルハス

ホール自慢を聞きましょう

“秋田”の魅力が満載/あきた芸術劇場ミルハス

7830views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5487views

アコースティックギター

楽器のあれこれQ&A

アコースティックギターの保管方法やメンテナンスのコツ

9647views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7890views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35012views