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ピアノを弾いていることが、なにより楽しい/「左手のピアニスト」舘野泉インタビュー
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2018.3.2
tagged: ピアノ, ヤマハホール, ピアニスト, 舘野泉, ユヴァル・ゴトリボヴィチ
左手だけのピアノと聞いて、多くのクラシック音楽ファンはモーリス・ラヴェルの名作ピアノ協奏曲を思い出すであろうし、その曲を献呈されたパウル・ウィトゲンシュタインという、戦争で右腕を失ったピアニストのことも広く知られてきた。しかし21世紀となった今、左手のピアノといえば多くの人が舘野泉の名前を思い浮かべることだろう。
2002年にステージ上で倒れた舘野が、右手の麻痺によって「左手のピアニスト」となり、復活を果たしたのが2004年のこと。途方に暮れていた中で左手のみで演奏する曲を知り、さらに自ら新曲を依頼するなどして希望をふくらませた。 「最初に書いてくださったのは間宮芳生さんでしたが、とても難しいとおっしゃっていました。やはり左手のみだから制約があるのかと思っていましたが、いまでは多くの作曲家たちが『既存のルールに縛られることなく自由に作曲できるし、両手のための曲はもう書き尽くされているので新しい挑戦ができる』と言ってくれます」
まったく知らない作曲家から突然、「書いてみたので弾いてくれないか」と楽譜が送られてくることも多いらしく、委嘱作も含めて100曲近くの新曲が舘野のもとに集まった。 「池辺晋一郎さんや吉松隆さん、アコーディオン奏者のcobaさんほか、本当にたくさんの方へ新曲をお願いしましたが、ピアノ・ソロの曲だけではなくコンチェルトや室内楽曲まで、バラエティも豊かになりました。一般の方から支援をいただいて委嘱をする『左手の文庫』という基金も大切な存在であり、むこう2年間であと10曲は新作が生まれるでしょう。楽譜もいろいろな曲が出版されていますので、アマチュアのピアニストにも弾いていただけます。いまは演奏することが楽しくて仕方がありません」
著書『絶望している暇はない 「左手のピアニスト」の超前向き思考』(小学館・新書)には、「右手を奪われたんじゃない。左手の音楽を与えられたのです」という舘野自身の言葉が記されている。それこそが積極的な活動の原点にして理由であり、現在の偽らざる純粋な気持ちなのだろう。 「ピアノを弾くことが生きがいといいますか、生活そのものですね。必要以上に使命感ももちませんし、無理をせずに演奏活動を楽しんでいるのです。生徒をもつことも40年ほどしていませんし、コンクールの審査員などもしたくありません。自分でピアノを弾いていることが、なにより楽しいのですよ。そういえば高校2年生のとき、それまではアップライトピアノを弾いていましたけれど、ヤマハの小さなグランドピアノを買ってもらったのです。もううれしくてねえ。学校に行っても昼休みには電車で自宅へ戻ってきて、ピアノを弾いていたくらい。『楽しまないと、なんの人生か!』と思いますよ」
多くの曲を初演するだけでなく、繰り返し演奏するケースも増えてきた。それゆえ、コンサートの数も多くなるのだという。ときには息子さんでバイオリニストのヤンネ舘野と、小さなライブハウスでタンゴなどを弾くこともあるとか。 「吉松隆さんの『タピオラ幻景』は、もう200回くらい弾きました。cobaさんの『記憶樹』もかなり多いですね。光永浩一郎さんの『サムライ』という作品も名曲ですし、『オルフェウスの涙』という曲も素敵です。彼のことはまったく知りませんでしたが、楽譜を送ってくれて演奏するようになりました。世界にはきっと彼のような、未知の素晴らしい作曲家がたくさんいらっしゃるに違いありません」
図らずも(と言っていいだろうか)、新しいジャンルの開拓者となってしまった舘野泉。「左手ピアノ」の世界は、まだまだ広がりをみせるはずだ。
ビオラ奏者であり作曲家でもあるユヴァル・ゴトリボヴィチをゲストに迎え、彼自身のビオラ・ソナタや、アイスランドの作曲家マグヌッソンの左手ピアノ曲、谷川賢作の新作初演ほか、意欲的なプログラムでリサイタルを行う。
日時:2018年5月24日(木)19:00開演(18:30開場)
場所:ヤマハホール(東京都中央区銀座7-9-14 ヤマハ銀座ビル7F)
料金:6,000円(税込)
曲目:池辺晋一郎/1枚の紙と5本のペン~左手ピアノのために、Y.ゴトリボヴィチ/ビオラと左手のピアノのためのソナタ、谷川賢作/スケッチ・オブ・ジャズ3(ビオラと左手ピアノのために)※委嘱初演 ほか
文/ オヤマダアツシ
photo/ 阿部雄介
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