Web音遊人(みゅーじん)

カスタム・ウィンズ木管五重奏団

アルファ波で満たされた、心温まる冬の一夜/カスタム・ウィンズ木管五重奏団 Vol.4

概して「五重奏」をナマで聴く機会は限られる。木管五重奏は、楽曲も少ないからなおさらだが、フルート、オーボエ、ホルン、ファゴット、クラリネットそれぞれがバランスよく絡んで、アンサンブルの妙が醸し出されると、実に心癒やされる。気鳴楽器ならではの、心地よさや安堵感に自ずと浸れる。

「カスタム・ウィンズ木管五重奏団」は、名称変更やメンバー交代を乗り越えて、すでに四半世紀あまり、そんな「知る人ぞ知る名曲」を演奏し続けている。ヤマハホールのコンサート・シリーズ出演も、4回目!

この日のプログラムは、18世紀後期から20世紀にかけての4曲。始まりと終わりはドイツの五重奏曲、あいだの2曲はフランスのピアノ曲を五重奏用にアレンジしたもので、モーリス・ラヴェル(1875~1937)の「クープランの墓」とクロード・ドビュッシー(1862~1918)の「小組曲」という興味深い選曲である。

まず、モーツァルトやベートーヴェンらと同時代の作曲家、フランツ・ダンツィ(1763~1826)の「木管五重奏曲ト短調」。ト短調→変ホ長調→変ロ長調→ト短調と進行するが、5人の音色が明瞭で温和なせいか、ト短調特有のストレス感や哀愁に引きずられたりせず、リラックスモードで聴けた。随所に現れる陽旋律を大切に届けるような演奏だ。まるで雲の切れ間から顔をのぞかせる太陽のように、暖かく心安らぐ。また、例えば第2楽章で丸山勉のホルン、鈴木一志のファゴット、タラス・デムチシンのクラリネットが、絶妙な田園詩的サウンドを醸すなど、「楽器の組み合わせ」の変化も面白い。

同様のことは、20世紀に活躍したテオドール・プルーメル(1881~1964)の「木管五重奏」にもいえる。ただしこの曲は全編スクリーン・ミュージック的で、聴き手が自由に物語を想像しながら聴ける楽しさがあった。登場人物の心情や状況、背景などが浮かんでくるような楽器使い。ホルンが幸福感や安心感、明るい展開などに効果的に使われているのも特徴。しかも、ハーモニーはまぎれもなく現代の色彩であった。

一方フランスものは、アレンジの面白さに自ずと五感が反応した。ラヴェルが、第一次大戦で戦死した友人たちに捧げた全6曲からなるピアノ独奏曲「クープランの墓」は、4楽章の五重奏に。もともと悲壮な曲ではないが、5管の旋律の受け渡しや和音の美などを超えたバイブレーションが魔法のように機能して、天国にいるかのような気分に。編曲者はアメリカで活躍したホルンの名手、メイソン・ジョーンズのようだが、ホールをアルファ波で満たす奥義が、譜面に潜んでいるのではないかと思えた。

ドビュッシーの4手用「小組曲」は、身を寄せ合うような連弾パフォーマンスを見ながら聴いても退屈に思えるほど、心象風のフレーズが多い。そんな長調4曲を、5管が相手を変えながら呼応したり、ソロを受け渡したりしながら進む。NHK交響楽団首席フルート奏者、神田寛明の編曲だが、絶妙のコンビネーションを展開し続ける岩佐和弘のフルートと広田智之のオーボエはもとより、丸山のホルンが絡んで躍動感が増したりして、連弾とはかなり趣(おもむき)が違って新鮮に思えた。

5人の名手が本音で語り合うかのように、互いを思いやりながら品のいい音色を交わす、温かなひとときを堪能できた。

原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍『200DVD 映像で聴くクラシック』『200CD クラシック音楽の聴き方上手』、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子

 

特集

今月の音遊人 木根尚登さん

今月の音遊人

今月の音遊人:木根尚登さん「やっぱりバンドがやりたい!理想は『あまちゃんスペシャルビッグバンド』」

18472views

豊かな響きのバーチャル空間を創造する「音場支援システム」を体験

音楽ライターの眼

バーチャルな音の空間をつくりだす「音場支援システム」とは?

6927views

Pacifica

楽器探訪 Anothertake

「自分の音」に向かって没入できる演奏性と表現力/エレキギター「Pacifica」

1886views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

48545views

大人の楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:バイオリニスト岡部磨知がエレキギターを体験レッスン

20203views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

15096views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

18826views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9396views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

20623views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

12165views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

贅沢な、サクソフォン初期設定講習会

5783views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26650views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

9143views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

23499views

音楽ライターの眼

ドイツのプログレッシヴ/ポスト・メタル最重要バンド、ジ・オーシャンが2019年10月に初来日

4691views

ステージマネージャーの仕事 - Web音遊人

オトノ仕事人

オーケストラのステージの“演奏以外のすべて”を支える/オーケストラのステージマネージャーの仕事(前編)

44415views

われら音遊人

われら音遊人:ただ今、バンド活動リハビリ中!

8381views

【楽器探訪 Another Take】演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

楽器探訪 Anothertake

演奏に集中できるストレスフリーのキイメカニズム

6595views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

20140views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

いまやサクソフォンは趣味となったが、最初は映画音楽だった

7057views

大人のピアニカ

楽器のあれこれQ&A

「大人のピアニカ」の“大人”な特徴を教えて!

4098views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

7268views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

31990views