Web音遊人(みゅーじん)

「ビジネスにも役立つ世界の教養」とは?音楽史と世界史とを結んだ画期的な一冊/『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』

「クラシック音楽を、まずは読んで楽しんでもらいたい」。そんな視点から音楽史を捉えた「クラシック音楽全史」は、“世界共通のビジネスツール”としても役立つ書だ。音楽史というと音楽の専門家が学ぶものと思われがちだが、本書を読むと、音楽家や作品の背景と世界の歴史には密接な関わりがあることがわかる。

たとえばイギリスの市民革命やフランス革命。これらを機に市民の権利が生まれ、音楽家は貴族階級の使用人から脱して自由な創作活動で演奏会の入場料を得るようになる。それに呼応するかのように、ベートーヴェンは「われわれ市民も貴族も皆平等だ、という思いを強くし、王侯貴族のためでなく、国民のためですらなく、人類のために曲を書く」と宣言する(本書より)。作曲家が自分の感情を音楽に託した、初めての人がベートーヴェンだという。やがて自由に音楽を謳いあげる「ロマン派」の時代が訪れる。

また、イギリス産業革命も音楽のありように劇的な変革をもたらした。工業化によって管楽器の大量生産が可能となり、音律も平均律に標準化されていく。メカニズムの面でも進化し、トランペットやホルンにバルブがつけられると、半音階が演奏できるようになり、曲の作り方もより多様化して行く。さらに、産業革命によって増えた富裕な市民が娯楽を求め、豪華なオペラが人気となっていった。

こうして世界の動きと音楽史を並べて俯瞰してみると、作曲家の一人の人としての生き様がより生き生きと感じられてくる。逆に、世界史にも人の営みが見えてきて、現代とのつながりも具体的にイメージできるようになる。音楽史と世界史の両方を、より鮮明に浮かび上がらせた画期的な書といえるだろう。

ところで、本書を著したのは歴史家でも音楽家でもない。著者は東京フィルハーモニー交響楽団で広報渉外部長を務める松田亜有子さん。音楽を学び、卒業後に東京フィルに職を得るものの、一時期、音楽とは縁のない事業会社で「武者修行」をし、その間に「コンサートは業種や国を超えた人が集まる社交の場であり、同じ曲を聴き感動を共有することはとても大きなコミュニケーションの一つ」と気づいた。そして、クラシック音楽に詳しくない人にも楽しめる本をまとめようと考え、「音楽というフィルターを通じて、新たな世界史の見方もできるよう、意識的に社会的背景の解説を多く盛り込んだ」(まえがきより)本書が誕生した。

松本さんはこうも記す。「私はこの本で、薀蓄(うんちく)を語るつもりはなく、日々、お客さまと接するなかで、よく尋ねられることを思い出しながらまとめました。音楽は世界共通の言葉なので、地球上のすべての人たちと音楽について語り合うことができます。ビジネスの世界でテーブルについた時でも、きっと音楽の話が花を添え、新たなビジネスが生まれていくのではないでしょうか」(おわりにより)

「世界でよく演奏される作曲家ランキング」「イギリス産業革命と音楽史」「プッチーニの主なオペラ作品」など、ビジネスの場でも話題の種になりそうな資料をはじめ、作曲家の肖像や絵画、年表といったビジュアル素材も豊富なので、興味を広げながらテンポよく読み進めることができる。クラシック音楽に詳しい人も詳しくない人も、これまでクラシック音楽に興味のなかった人さえも、知ることが楽しくてワクワクする本書。ぜひご一読を。

■インフォメーション

『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』
著者:松田 亜有子
発売元:ダイヤモンド社
価格:1,600円(税抜)
詳細はこちら

 

特集

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

今月の音遊人

今月の音遊人:姿月あさとさん「自分が救われたり癒やされたりするのは、やはり音楽の力だと思います」

10633views

音楽ライターの眼

憧れが魅力に昇華するまで……その軌跡を辿る音楽旅/飯森範親と辿る芸術 Vol.4 ~ピアノの名手ベートーヴェンが描いた弦楽器の世界~

1401views

楽器探訪 Anothertake

ピアノならではのシンプルで美しいデザインと、最新のデジタル技術を両立

5983views

楽器のあれこれQ&A

エレキギター初心者を脱したい!ステップアップ練習法と2本目購入時のアドバイス

2015views

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】沖縄民謡アーティスト上間綾乃がバイオリンに挑戦!

7972views

佐藤順

オトノ仕事人

劇伴制作の進行管理や演奏シーンの撮影をサポートする/映画等の劇伴制作をプロデュースする仕事

1465views

札幌コンサートホールKitara - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

あたたかみのあるデザインと音響を両立した、北海道を代表する音楽の殿堂/札幌コンサートホールKitara 大ホール

15890views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

7441views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

19882views

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

われら音遊人

われら音遊人:ずっと続けられることがいちばん!“アツく、楽しい”吹奏楽団

8823views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

4717views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

8159views

おとなの 楽器練習記 須藤千晴さん

おとなの楽器練習記

【動画公開中】国内外で演奏活動を展開するピアニスト須藤千晴が初めてのギターに挑戦!

6723views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

11480views

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.4

音楽ライターの眼

なぜジャズのハードルは下がらないのか?vol.4

4653views

調律師 曽我紀之

オトノ仕事人

演奏者が望むことを的確に捉え、ピアノを最高のコンディションに整える/コンサートチューナーの仕事

1351views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

4101views

reface シリーズ

楽器探訪 Anothertake

ひざの上に乗せてその場で音が出せる!新感覚のシンセサイザー「reface」シリーズ

11594views

久留米シティプラザ - Web音遊人

ホール自慢を聞きましょう

世界的なマエストロが音響を絶賛!久留米の新たな文化発信施設/久留米シティプラザ ザ・グランドホール

16311views

山口正介さん

パイドパイパー・ダイアリー

「自転車を漕ぐように」。これが長時間の演奏に耐える秘訣らしい

4957views

知って得する!木製楽器の お手入れ方法

楽器のあれこれQ&A

木製楽器に起こりやすいトラブルは?保管やお手入れで気を付けること

19079views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

9207views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

26586views