今月の音遊人
今月の音遊人:小林愛実さん「理想の音を追い求め、一音一音紡いでいます」
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『15秒作曲入門』というタイトルがインパクトを与える本書。著者は、あみん『待つわ』をはじめとする多くのヒット曲を世に送り出した、作・編曲家、音楽プロデューサーの野口義修だ。数々の名曲を生み出した豊富な経験を基に、作曲の切り口から脳科学にまで踏み込み、記憶に残る曲作りのテクニックを伝授している。
本書最大の特徴は、印象に残る15秒のメロディの作り方を、著者制作の「Sound Example」とともに実践的に解説していること。掲載のQRコードを読み込むことで簡単に譜例の音源が聴ける(無料)という斬新な仕掛けによって、耳からも楽しみながら曲作りの醍醐味が味わえる。スマートフォン片手にまずは4小節8秒のモチーフ作りから始め、次にそれを組み合わせて15秒のメロディにしていく。長年「楽譜が読めなくても、楽器が演奏できなくても、誰でも曲は作れる」と言い続けてきた野口の、熱い思いが詰まった一冊だ。しかし、「音楽は聴くのが好き」という人に作曲はあまり身近ではないようにも思えるが……。
「いえいえ、決してそんなことはありません。例えば、泣いている赤ちゃんをあやすときなどに、無意識に言葉に抑揚をつけるのはごく自然なことで、それを曲作りとは意識していないだけです。また、作曲はメロディを作ることと思うかもしれませんが、詞の一節を作るだけでも立派な作曲です。曲の向こうには必ず聴いてくれる人がいて、そこにつながりが生まれるのですから、こんな素敵なことはありません。誰でも作れるのに作らないなんてもったいないです!」
なるほど、写真や動画をSNSにアップする際などにも短いオリジナル曲をつければ、より注目度もアップしそうだ。
ところで、音楽以外の分野からも読み物として高い評価を受けているという本書。その理由は、15秒のメロディに科学的な裏付けをしているからだ。「“15秒で作曲”をテーマに脳を研究していったら大きな発見があり、その必然性に行き着きました。15秒は、海馬という脳の記憶をつかさどる部位が情報分別のために記憶できる限界でもあるとわかったのです。テレビCMが15秒間に印象的なフレーズを入れるのもうなずけますね」
つまり、脳の働きや感動と記憶の仕組みを知れば、記憶に残るメロディも作りやすいというわけだ。「音楽理論を知らないと曲を作れないと思いがちですが、逆に知らないからこそ人の心に響く曲が生まれることもあります」と語る野口。もし、子どもと一緒に曲を作ってみたい、音楽の授業に作曲を取り入れたいという希望があれば、アドバイスもしてれくるとのこと。家族で曲の交換などをしてみるのも楽しそうだ。
『15秒作曲入門』
著者:野口義修
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
価格:1,800円(税抜)
野口義修(のぐち・よしのぶ)
作・編曲家、音楽プロデューサー。ヤマハ音楽院、昭和音楽大学などの講師を歴任し、多くの作曲家やアーティストを育成。これまでに、あみん『待つわ』、アラジン『完全無欠のロックンローラー』、雅夢『愛はかげろう』などのアーティスト、ヒット曲を世に送り出したほか、NHK『みんなのうた』『おかあさんといっしょ』などにも楽曲を提供。多数の音楽書の出版、通信教育システムや音楽講座の企画開発、教材制作、プロデュースも手がけている。
野口義修オフィシャルサイト:https://www.onoshinji.jp