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管楽器設計者がつづる「楽器学」が演奏への意識を高めてくれる一冊
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2019.8.26
tagged: ブックレビュー, こうして管楽器はつくられる ~設計者が語る「楽器学のすすめ」~, 竹内明彦
「楽器って設計するものなのですか?」
これは、かつて管楽器の設計に携わっていた著者が、名刺交換をするたびに相手からしばしばかけられた言葉だった ──。そこには「昔から決まった形のものを作るのに、いまさら設計が必要なのか?」という疑問が見え隠れしていたという。そんな疑問に答えをだしてくれるのが、『こうして管楽器はつくられる ~設計者が語る「楽器学のすすめ」~』だ。
著者の竹内明彦は、1970年に日本楽器製造株式会社(現ヤマハ株式会社)に入社し、一貫して管楽器の設計・開発に携わった技術者だ。楽器製造技術の伝承に危機感を抱いていたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団からの委託を受け、ウィンナホルンやウィンナオーボエなどの復元・開発にも尽力した。
管楽器設計の豊かな経験をもとに、管楽器専門月刊誌『パイパーズ』 に「管楽器が鳴っているとき楽器の中では何が起こっているか」「楽器学のすすめ」などのコラムを連載していたが、2014年に急逝。改めてその連載をまとめ、カジュアル管楽器「VenovaTM」(2017年発売)の開発物語を加筆し構成されたのが本書だ。
「管楽器は現在も少しずつ形を変え、進化し続けている」と著者は言う。ホールが広くなって大音量化し、演奏技術も高速化した19世紀には、管楽器も大きく改革された。その流れは現在も続いており、管楽器にとって設計はなくてはならないものになっていったのだという。私たちが普段知ることのできない管楽器設計についての考え方やその特殊な製造工程、ロータリーバルブやピストンバルブの特徴などを深く知ることができる本書は、管楽器奏者はもちろん、指導者や管楽器に興味のある音楽ファンにもお勧めの希少な書と言えるだろう。
管楽器設計を掘り下げるには、「音とは何か」「音によって生みだされる空気が作る波とは何か」を科学的に知る必要がある。それをわかりやすく説明するユニークな事例も紹介されている。そのひとつが、「寒冷地でクラリネットを演奏するとき、楽器への雪の付着を防ぐために、楽器と両手をビニールカバーですっぽり覆っているが、はたして演奏音はちゃんと聴こえるのか」というもの(第2章「波の正体 その1」)。結果はぜひ本書で確認してほしいが、こうした読者のイメージしやすい事例によって、管楽器の構造と音との関係を解き明かしていく過程がとても面白い。
また第5章「管楽器の発音2 金管楽器の発音に影響するもの」では、トランペット奏者にとって「第8倍音のC」(3オクターブ上のC音)がなぜ外れやすいのか、金管楽器のへこみがどのように鳴りのバランスに影響を与えるのか、演奏後の水抜きや定期的なメンテナンスが必要な理由、といった具体例にも言及。管楽器の仕様を知ることは、実は演奏面でも大いに役に立つのだということを実感する。ほかにも、タンポの開きの調整と音の関係、木管楽器が組み立て式である理由など、木管楽器の発音についても詳しく解説されている。
さらには、楽器の伝統は「それぞれの地域で入手できる材料、伝えられてきた技法や音楽スタイルが有機的に組み合わさって、地域ごとのカラーが生まれたのだろう」と述べ、管楽器の伝統にも踏み込む。フランスの伝統的なトランペットやドイツ式ロータリートランペットなどの貴重な写真からも、楽器製作の伝統を感じとることができる。
世界のオーケストラやブラスバンドが、それぞれの土地の個性を強烈にもっていた頃の演奏を懐かしむ「コメント」(随所に挿入されている)からは、設計者であると同時に一人の音楽ファンとしても楽器の変遷を見つめていた姿が伝わってくる。
楽器の構造や設計の知識を得ることは、演奏のイメージをつくるうえで必ず助けになるはず。そんな思いを強く抱かせてくれる、楽器設計者による「楽器学」。管楽器の歴史と奥深さを読み解くことで、楽器への愛着や演奏への意識を高めてくれる1冊だ。
『こうして管楽器はつくられる ~設計者が語る「楽器学のすすめ」~』
著者:竹内 明彦
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
発売日:2019年7月22日
価格:2,000円(税抜)
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応募締切:2019年9月24日(火)23:59
当選発表:本の発送をもって代えさせていただきます。
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