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「ショパンを演奏したい」「ショパン通になりたい」人の必携書/『[新装版]フレデリック・ショパン全仕事』

『子犬のワルツ』『革命のエチュード』『幻想即興曲』『英雄ポロネーズ』など、数多くの名曲によって世界中の音楽ファンから愛され続けているポーランドの作曲家、フレデリック・ショパン。クラシックファンならずとも、必ずどこかで美しく印象的なメロディの一節を耳にしているはずだ。
そんなショパンにスポットが当たったのが、生誕200年を迎えた2010年。ショパンをテーマにしたコンサートや出版物が企画されるなか、ショパンの全作品を楽譜つきで解説した「フレデリック・ショパン全仕事」が出版された。そして、日本とポーランドの国交樹立100周年の節目の年にあたる2019年、新装版が刊行され、改めてショパンの魅力が掘り起こされている。

音楽学が専門の著者、小坂裕子が着目したのは、「これほどエピソードが豊富な音楽家はいない」というショパンの人生。「作品ごとに作曲にまつわるエピソードなど、その時代のショパンに注目すると、おのずとショパンの人生がたちあらわれてくるのではないか。そして作品そのものがより深く理解できるのではないか」。そう考えた著者は、作品番号順に作曲の背景や楽曲の構造をまとめていく。ショパン自身によって作品番号がつけられた作品65までの曲のほか、楽譜編集者のフォンタナによってショパンの死後に編集された遺作も含め、ピアノ曲、協奏曲はもちろん、歌曲までの「全仕事」を網羅。譜例と作品解説つきの「ショパン伝」とも言える。

たとえば『革命のエチュード』として広く知られる「12の練習曲」第12番ハ短調『革命』(練習曲作品10-12)。この曲は、「ロシアによるワルシャワ陥落を知り、苦しみと怒りをぶつけて作ったと伝えられているが、(練習曲全体が)まずは4曲、翌年に4曲というように計画的に作られており、決して唐突な創造ではないのは確か」だという。そして、本作品がリストに献呈されたことから、リストとの関係にも触れる。演奏家としても作曲家としても高い評価を得ていたショパンを、リストが嫉妬していたというエピソードからは、当時の楽壇の人間模様までもが見えてくるようだ。
また、フィギュアスケートの音楽としても脚光を浴びた『バラード第1番』は、ショパンが久しぶりに両親と会い、同郷の女性に恋をしていた時期に作曲されたという。祖国の大詩人の詩に影響されたと言われる「バラード」について、著者は「さまざまな音楽要素を取り入れるダイナミックな音楽展開による新しい音響形式を、ショパンは『バラード』と呼ぶことにしたのではないか」と綴っている。ショパンにとっての「バラード」がどのようなものであったかは、演奏するうえで知っておくべき知識と言えるだろう。

作品の全体構造とともにショパンの創造の日々をも知ることができる本書は、「ショパン通になりたい人のための手引書」(本書「はじめに」より)でもある。小坂は「彼の作品のように完璧なほどの音響美学は、創造と生涯の整合性のなかで語られてこそ、はじめて理解できるのではないだろうか」と記している。
ショパンの作品を聴くとき、どの曲を弾こうかと選曲をするとき、本書をかたわらに置いて作品とショパンの生涯を深く紐解けば、ショパンによって生み出されたメロディやハーモニー、リズムが、鮮やかな生命力をもってよりいきいきと感じ取れるに違いない。

■インフォメーション

『[新装版]フレデリック・ショパン全仕事』
著者:小坂裕子
発売元:アルテスパブリッシング
発売日:2019年10月30日
価格:2,800円(税抜)
詳細はこちら

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