Web音遊人(みゅーじん)

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが2020年、復活/トム・モレロのギターの原点を探る

レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが2020年3月に復活、ワールド・ツアーを行う。

1990年代を代表するロック・バンドのひとつであるレイジは、大地を揺るがすヘヴィ・サウンドとアジテーションに近いラップ・ヴォーカルで音楽シーンを席巻。『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』(1992)、『イーヴル・エンパイア』(1996)、『ザ・バトル・オブ・ロサンゼルス』(1999)と、たった3枚のスタジオ・アルバムしか発表していないにも拘わらず、その存在は今日でも神格化されている。

現代社会の抑圧・欺瞞・冤罪などを直視したメッセージ性が時代の共感を得たのと同時に、ロック・ファンの心を捉えたのは、トム・モレロのギターだった。ヘヴィなリフ・ワークに加えて、DJのスクラッチに似たプレイを筆頭に、トリッキーなフレーズの数々によって、彼は“1990年代以降、最も革新的なギタリストの1人”と呼ばれるに至った。

筆者(山崎)がトム本人から聞いた一例を挙げると、レイジの最初の解散後に結成したオーディオスレイヴの「オリジナル・ファイアー」でのプレイについて、彼はこう説明していた。

「スクラッチというよりも、猿の笑い声を出そうとしたんだ。左手でアーム・バーを押しこんで、右手の指で緩くなった弦をピックアップにタップさせながら、アームを動かすんだよ」

そんなトムのプレイを“ギミック”とそしるギタリストがいたことも事実だったが、ギミックをギミックで終わらせることなく、それを自らの音楽性の一部として効果的に表現したことで、レイジは唯一無二の存在となった。

その斬新なフレージングが話題になることの多いトムのギター・プレイの原点は、かなりオーソドックスなものだったりする。彼がフェイヴァリットに挙げているギタリストは、ジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)とアンディ・ギル(ギャング・オブ・フォー)。彼らのプレイが“人間性の根源から湧き出るもの”と評している。

トムが少年時代に影響を受けたギタリストはスティーヴ・ヴァイ、ランディ・ローズ、イングヴェイ・マルムスティーン、アラン・ホールズワース、アル・ディ・メオラだった。1980年代のギター・キッズの少なくない割合が通る(そして挫折する)ギター・ヒーロー達だが、“あのレイジの”トムを思い浮かべると意外かも知れない。だが彼は自分の必殺技のひとつであるトグル・スイッチをON/OFFするテクニックの元ネタがKISSのエース・フレーリー、そしてオジー・オズボーンの「自殺志願」でのランディ・ローズのソロだということを、自ら認めている。

そしてもう1人。トムは1982年から1986年まで名門ハーバード大学に通っていたが、そのとき彼が多大な影響を受けたのが、当時ボストンのローカル・バンドだったエクストリームのヌーノ・ベッテンコートだった。彼は何度もエクストリームのライヴを見に行って、ヌーノのプレイを練習していたという。ヌーノ自身も「エクストリームの『キッド・イーゴ』のリフを聴けば、レイジの元ネタが判るよ」と笑っている。

大学を卒業して西海岸に向かったトムが新バンドを結成するにあたって、エクストリームのゲイリー・シェローンを引き抜こうとしたという逸話もある。ゲイリーはそれを辞退、実現することはなかったが、ヌーノは後になってその事実を知ることになった。彼は筆者にこう語ってくれた。

「トムと知り合って15年ぐらいして、ロサンゼルスの“レインボー・バー&グリル”で俺とトム、それからプロデューサーのリック・ルービンの3人でテーブルを囲んでいたんだ。そのときトムが「実は言わなきゃならないことがある」と言い出した。彼がエージェントを通じてゲイリーを引き抜こうとしたってね。そのとき食べていたロブスター・テールを投げつけようかと思ったよ。「このユダ(裏切り者)め!」ってね」

幸い、この出来事でトムとヌーノの友情にヒビが入ることはなく、2人は近年もライヴ共演を果たしている。

さまざまなギタリストから影響を受けながらも、単なる模倣に終わっていないのが、トムの才能である。いや、模倣を“出来ない”のがトムなのだ。オーディオスレイヴの名曲のひとつ「ライク・ア・ストーン」について彼は「ポーティスヘッドを意識した」と話しているが、見事なまでにまったく似ていない。最高のオリジネイターがイミテーターとしてはまったく使えないという、良い見本だろう。

なお、“1990年代以降、最も革新的なギタリスト”と呼ばれたトムとパンテラのダイムバッグ・ダレルは、一度だけ会ったことがあるという。

「初対面なのに、いきなりイエーガーマイスターのリキュールを25杯ぐらい飲まされた。ダイムバッグには素晴らしい才能があった。いなくなってしまったのは残念でならないよ」

さて、本記事執筆の時点で発表されているレイジのツアー・スケジュールだが、日本の大手フェスが開催される日付は、まだ埋まっていないようだ。2008年以来となる来日ライヴが実現することを願ってやまない。

■アルバムインフォメーション

『レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン』

発売元:ソニーミュージック
発売日:発売中
料金:2,400円(税抜)
詳細はこちら

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログインタビューリスト

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:May J.さん「言葉で伝わらないことも『音』だったら素直に伝えられる」

12733views

Even Hell Has Its Heroes

音楽ライターの眼

伝説のドローン・バンド、アースを題材にした映画が海外公開。ニルヴァーナにも多大な影響

7235views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

すぐに音を出せて、自由に演奏できる。管楽器の楽しみを多くの人に

15594views

サクソフォンの選び方と扱い方について

楽器のあれこれQ&A

これからはじめる方必見!サクソフォンの選び方と扱い方について

61723views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

17058views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

7843views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

25801views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8751views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

専門家の解説と楽器の音色が楽しめるガイドツアー

9619views

われら音遊人

われら音遊人:オリジナルは30曲以上 大人に向けて奏でるフォークロックバンド

5487views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6773views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35012views

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ギタリスト木村大とピアニスト榊原大がトランペットに挑戦!

8470views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

14592views

音楽ライターの眼

マリアム・バタシヴィリが世界中の音楽ファンに向けて動画を配信

4897views

地代所悠/コントラバスヒーロー

オトノ仕事人

「コントラバスヒーロー」として音楽と三浦半島の魅力を伝える/音楽で活躍するご当地ヒーローの仕事

2734views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

9234views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

8473views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

13427views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5487views

楽器のあれこれQ&A

初心者必見!バイオリンの購入ポイントと練習のコツ

23699views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

8751views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35012views