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今月の音遊人:藤井フミヤさん「音や音楽は心に栄養を与えてくれて、どんなときも味方になってくれるもの」
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ウィーン・フィルとヤマハによる「ウィンナモデル」開発秘話/こうして管楽器はつくられる【開発編】~ウィーン・フィルを支えた管楽器開発の舞台裏~
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2020.4.24
tagged: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団, ブックレビュー, こうして管楽器はつくられる, ウィンナモデル
「ヤマハの管楽器開発に多くの物語があり、そこにドラマがある。それをまとめて読めるようにしたい」。こうして誕生した本書は、管楽器専門誌『パイパーズ』に掲載されたインタビュー記事などをもとに編集されたもの。2019年に発売された『こうして管楽器はつくられる~設計者が語る「楽器学のすすめ」』、その【開発編】として第2弾は「ウィンナモデル」の開発秘話を綴った。それは同時に、伝統の音色に重きをおくウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の管楽器奏者を楽器供給という面で救った、という歴史的な物語でもある。
そもそも「ウィンナモデル」とは、「ウィーン地域だけで使われている管楽器」というような意味合い。「ウィンナモデル」という楽器の仕様があるわけではない。その「ウィンナモデル」管楽器が出す音の特長は、ウィーン・フィル奏者の言葉を借りると「フォルティッシモでも弦楽器の音をつぶさない、やわらかく、あたたかい音色」ということになる。そしてその音を得るために、彼らは音程調整の難しさや操作上の不便さを厭わず昔ながらの「ウィンナモデル」を使い続けてきた。しかし現地では、需要が限られる「ウィンナモデル」は商売にならないと製作から撤退する工房が続出。やがて自分たちが使う楽器が入手できなくなる、という音楽家たちの危機感は増すばかり。そこで白羽の矢が立ったのがヤマハだった。
時は1973年。ウィーン・フィル4度目の来日の折、トランペット奏者のワルター・ジンガーが、楽屋を訪れたヤマハの技術者に「自分の楽器を預けていくので、なんとか同じモデルを作ってほしい」と懇願する。ヤマハでは、「古い楽器の再現とはいえ、事実上は新モデルの開発と変わらない大仕事。莫大な費用と労力を要するうえ、成功してもウィーン以外では需要のない特殊モデル」と考えたが、楽器メーカーとしての強い使命感から、ジンガーの申し出を受け入れる。ジンガー32歳、中心となったヤマハの技術者たちも20代半ばという若いエネルギーが、無謀とも言えるプロジェクトをスタートさせた。
2年後、5度目のウィーン・フィル来日を機に、ジンガーは試作品を演奏。「良いものができた」と感心するが、やはり音色が課題に。すると後日、ウィーン・フィル首席奏者のヴォービッシュが「材質に問題があるのではないか。これで研究してほしい」と秘蔵のトランペットのベルの一部をいきなりハサミで切り取ってヤマハのスタッフに託したのだという。音楽家生命を賭ける必死の思いと、それに応えようとする技術者たちの信頼と絆はしだいに深まり、試作・試奏・改良が重ねられた。「音色を求めると音程が、音程を追うと音色が劣化するといういたちごっこ」を無数に繰り返すこと約5年。この間に、やはり伝統モデルの衰退を憂うホルン、トロンボーン、オーボエ、ファゴット奏者たちからも開発依頼が持ち込まれることになる。
一方で「日本人が作った楽器を吹くのは恥」というアンチ・ジャパニーズの逆風もあった。しかし、やがて楽器の品質の高さに気づき、その偏見を捨てて熱烈なヤマハファンになった演奏家も出てきた。「楽器の欠点をカバーしながら演奏しなければならず、音楽に没頭できなかった奏者たちが、楽器への不安が減って、音楽的に進歩できた」という事実が、このプロジェクトの成功を何よりも力強く物語っていた。
こうしてヤマハは、途切れかけていたウィーンの音の伝統をつなぐという大きな役割をまっとうした。ウィーン・フィルの当時の理事長は、1986年の同フィルのコンサートプログラムに「ヤマハに対し大いなる感謝をささげたい」と異例の謝辞を寄せ、労をねぎらったという。それは、音楽家たちと手を携え、未踏の領域を開拓した技術者たちへの、大きな贈り物となった。
本書には、当時ヤマハが欧州の一部に限定して販売していた「ウィンナモデル」のカタログが掲載されており、資料としての価値も高い。また、ウィンナモデルを開発する過程において元の楽器をどのように分析したのか、どのような調整を行っていったのかなどの情報も記されている。本書の後半では、ウィンナモデル開発がきっかけになって進展した技術や管楽器製造現場の実情なども知ることができる。
音楽家の情熱と感性、それを正確に理解して開発・設計に生かした技術者の経験とノウハウ、それらの掛け算が不可能を可能にした物語。共にひとつのことを成し遂げようとする登場人物たちの、誇り高い思いに胸が熱くなる。現代の管楽器開発へと続く道筋もわかり、すべての管楽器奏者、管楽器ファンはもちろん、音楽が好きな方ならば誰もが楽しく読める1冊だ。
『こうして管楽器はつくられる【開発編】〜ウィーン・フィルを支えた管楽器開発の舞台裏〜』
発売元:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
発売日:2020年2月21日
価格:1,800円(税抜)
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