今月の音遊人
今月の音遊人:葉加瀬太郎さん「音楽は自分にとって《究極のひまつぶし》。それは、この世の中でいちばん面白いことだから」
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ハープ界のスター作曲家からリストやドビュッシーまで、魅力的な作品が並ぶショー・ウィンドウのような一枚/吉野直子『ハープ・リサイタル5~その多彩な響きと音楽Ⅱ』
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2020.5.18
CDをスタートさせると、いかにもハープらしい優雅さと麗しさに満ちた、爽快な朝の目覚めのような音楽が流れてくる。19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスのハーピスト・作曲家であるアルフォンス・アッセルマン作曲の『泉』は、おそらく世界中のハーピストおよびハープの音楽を愛するものにとって、マスターピースのような小品だろう。
ハープはその知名度と認知度に比して、この楽器のために書かれたオリジナル作品や作曲家の名前が、広くは知られていない楽器でもある。アッセルマン、マルセル・グランジャニー、アンリエット・ルニエ、マルセル・トゥルニエ……。このアルバムに収録されている作曲家を知る人は、日頃からハープに慣れ親しんでいる人であろう。彼らはすべて、自身がハープを演奏した作曲家たち、つまり楽器の魅力を熟知した作曲家たちだ。ピアノの名手だったショパンやリストが多くの魅力的なピアノ曲を残したように、ハープもまた名手たちが自ら演奏するために曲を書き、珠玉の名作として後世に弾き継がれているのである。
10代から脚光を浴び、世界の音楽シーンにおけるトップハーピストであり続けてきた吉野直子は、「素晴らしいハープの名曲たちをたくさんの方に知っていただきたいですし、コンサートを聴いていただいた後に『素敵な音楽に出会えました』と声をかけてくださる方もいらっしゃいます」という。そうしたこともあり、2015年には自主レーベル「grazioso」を始動。2016年から年に一枚のペースでアルバムをリリースしている。
『ハープ・リサイタル5』と題されたこのアルバム「grazioso」レーベルからの5枚目。前記したハープの作曲家たちをはじめ、リストの『ため息』やドビュッシーの『ロマンティックなワルツ』といったピアノ曲をハーピストたちが編曲したトラックも収録した。フランスの作曲家であるラ・プレールの『雨にぬれた庭』や、ドビュッシーの有名なピアノ組曲を想起させるグランジャニーの『子供の時間』組曲、トゥルニエの『妖精』といった作品は、その魅力的な題名に惹かれて聴きたくなる作品だ。
「活動歴が長いわりにソロのアルバムが少ないことに気がついたこともあり、これまでコンサートで演奏してきた多くの作品などから厳選して、皆さんに聴いていただきたい作品や自分の演奏を残しておきたい作品、名曲として後世へ伝えたい作品などを選んでいます」という吉野だが、これまでリリースしてきた4枚も含め、バロック音楽の時代から現代の作品までソロハープの名作を網羅したラインナップだ。もしあなたがハープの音楽を本格的に聴いてみたいと思ったら、吉野直子による最高級の演奏でそれらを味わうことができるだろう。
最近では、気軽にハープを習える機会も増えてきているという。手の届かないというイメージから身近に思えるような存在になれば、さらに愛好者や聴き手も増えることだろう。華麗なるハープ音楽への扉を開く一枚としても、この『ハープ・リサイタル5』はお薦めできる。
吉野直子『ハープ・リサイタル5~その多彩な響きと音楽Ⅱ』
発売元:KING INTERNATIONAL
発売日:2020年3月5日
料金:オープン価格
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