今月の音遊人
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コロナ禍あってこそ生まれた、エレクトロミュージックとお経のコラボレーション
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2020.9.24
お経と音楽、舞台照明を融合させ、配信早々に海外で注目を浴びたミュージックビデオ『Devotions~般若心経~』。コロナ禍の世の中に安穏を!そして心に高揚と元気を──そんな思いからこの作品を制作した僧侶、千葉兼如さんにお話を伺った。
2020年2月28日から3月10日までの期間、伊豆急沿線の4カ所に設置され、好評を博したヤマハのストリート・ピアノ「LovePiano」。設置期間中に撮影され、のちに大きな話題を呼んだ動画がある。大塚 愛さんによるLovePianoの演奏とお経のコラボ動画だ。(期間限定のため、公開は終了しました)
舞台となったのは、河津桜でも有名な静岡県伊豆半島の河津町にある栖足寺。約700年の歴史を持つこの禅寺には『まんが日本昔話』にもなったかっぱの伝承があり、“かっぱの寺”の名でも親しまれている。境内のいたるところにかっぱの置物が置かれていたり、かっぱのギャラリーを備えていたり。アートな御朱印帳も人気だ。
大塚 愛さんと共演したのは、この栖足寺の住職である千葉兼如さん。33代目を継ぐまでは、プロのサクソフォン奏者として活躍していたという異色の経歴の持ち主だ。
2020年8月にはミュージックビデオ『Devotions~般若心経~』の配信をスタート。千葉さんが唱える般若心経とエレクトロなジャズを融合させ、舞台照明やプロジェクションマッピングを駆使したその作品は、海外の人々の間で「クール!」とたちまち話題に。日本でも「ビートに乗せたお経はまるでラップのよう」「宇宙的!」などと、仏教とは縁がなかった若い世代の心もつかんでいる。
33歳で仏門に入る際、「中途半端な気持ちでお勤めはできない」と音楽活動をきっぱり止めた千葉さん。3年間山に籠って修行したのち、妻の実家である栖足寺で再び修行を積んだ。
「その後、自分の得意な音楽を活かして布教ができるのではないかという思いが湧いてきました。そこで取り組み始めたのが音楽法話です。音楽にはイマジネーションをかき立てる力があると思っています。話だけでは心に留まらずに流れてしまうのでは?と思っていたので、仏教の話をさせていただいた後にその話がイメージできるような曲を演奏しました」
さらに、仏教や禅と絡めた舞台照明やプロジェクションマッピングなどのイベントにも力を注いできた。
「仏教では、光は仏の智慧や慈悲の心の象徴です。また、光には人の心を元気にしたり高揚させたりする効果があります。昔はその光を表現すべく、お寺を金襴で装飾したりしていました。その光をプロジェクションマッピングや舞台装置という現代の最新技術を使ってあらわそうと考えたんです」
常にユニークで先進的な取り組みを行ってきた千葉さんだが、『Devotions~般若心経~』誕生のヒントとなったのは、前述の大塚 愛さんとの共演だったそう。
「その場で突然、お経とコラボしたいと言われたんですね。驚きましたが、その感性は本当にすばらしいと思いました」
『Devotions~般若心経~』でビートに乗ってリズミカルに展開していくお経は、和訳された般若心経をさらに千葉さんが今の状況に沿った形で解釈し、詩的に訳したものだ。
「たとえば般若心経には、『照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)』というところがあるのですが、直訳すると『五蘊(ごうん)』はすべて『空(くう)』であるとなります。でも『五蘊』といっても、みなさんわかりませんよね。ですから、『心に体に突き刺さる思い』と訳したり、『空』を『幻想』としたり。詩的、比喩的な表現で想像をかき立てるように訳しています」
一方で、意味がわからずとも、お経が持つ響きは心に届くともいう。
「サンスクリット語でそのままお唱えされているお経もあります。意味に執着せず、そのまま命に響かせろという教えがあるからです。お経は、いわゆる音楽だと私は思っています。今回もビートやリズム、ハーモニーが直接心に響くように制作しました」
実はこの作品は、コロナ禍あってこそ生まれたものだ。そこには、千葉さんの強い思いが込められている。コロナ禍の世の中に安穏を!そして心に高揚を与え、元気にしたい──そんな思いに賛同し、参加したのは一流のスタジオミュージシャンたちだった。
作曲、シンセサイザー、トロンボーンを務めたのはT-SQUAREのレコーディング、ライブサポートにも参加する湯浅佳代子。ドラムは矢野顕子、山崎まさよしなど数々の有名アーティストのバックを務める宮川剛。バイオリンはALIAKEを結成、Nu-folkを掲げした、日本のトラッドミュージックにも精通する土屋雄作だ。
現在は、同メンバーによるお経とエレクトロミュージックを融合したフルアルバムも制作中だ。
「シンセサイザー・アーティストの冨田勲さんの言葉で『アナログシンセサイザーの音は電気の音であり、雷がゴロゴロと鳴るのと同じ自然の音だ』といった言葉があるんですね。その言葉に共感して。私どもは禅宗ですから、自然との調和や協調をとても大事にするんです。そこで、自然の音を使って何かできないかと考えたとき、そのひとつがエレクトロミュージックを使った表現だと思いました」
お経をモチーフにした作品あり、仏教にインスパイアされて生まれた楽曲あり。さまざまなシチュエーションで心安らかに元気になってもらいたいという思いを、伝統と新しさが融合する全10曲に込めた。ミュージシャンたちのそれぞれの解釈が重なり、かつてないチャレンジングな音楽に仕上がっているという。
「今回はシンセサイザーの使用をメインにしているのですが、アナログシンセサイザーという古い機種で表現するために緻密な作業を重ねてかなりつくり込んでいます。そこが聴きどころのひとつだと思います
アルバムは2021年春発売予定で、歌詞カードも付くというからじっくりと楽しむことができそう。
「生で体験していただいて、音楽と仏教の融合を体で感じてもらいたいという思いがあります。今は厳しいですが、いつかライブを開催したいですね」
音楽と仏教との融合の可能性は、まだまだ広がりそうだ。
『Devotions~般若心経~』(配信限定)
配信開始日:2020年8月14日
ストリーミング・ダウンロード
栖足寺オフィシャルサイト
文/ 福田素子
tagged: ピアノ, インタビュー, 栖足寺, 千葉兼如, 般若心経, エレクトロミュージック
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