Web音遊人(みゅーじん)

コロナ禍あってこそ生まれた、エレクトロミュージックとお経のコラボレーション

お経と音楽、舞台照明を融合させ、配信早々に海外で注目を浴びたミュージックビデオ『Devotions~般若心経~』。コロナ禍の世の中に安穏を!そして心に高揚と元気を──そんな思いからこの作品を制作した僧侶、千葉兼如さんにお話を伺った。

『Devotions~般若心経~』の配信をスタート

2020年2月28日から3月10日までの期間、伊豆急沿線の4カ所に設置され、好評を博したヤマハのストリート・ピアノ「LovePiano」。設置期間中に撮影され、のちに大きな話題を呼んだ動画がある。大塚 愛さんによるLovePianoの演奏とお経のコラボ動画だ。(期間限定のため、公開は終了しました)

大塚 愛さんInstagramより(期間限定のため、公開は終了しました)

舞台となったのは、河津桜でも有名な静岡県伊豆半島の河津町にある栖足寺せいそくじ。約700年の歴史を持つこの禅寺には『まんが日本昔話』にもなったかっぱの伝承があり、“かっぱの寺”の名でも親しまれている。境内のいたるところにかっぱの置物が置かれていたり、かっぱのギャラリーを備えていたり。アートな御朱印帳も人気だ。
大塚 愛さんと共演したのは、この栖足寺の住職である千葉兼如ちばけんじょさん。33代目を継ぐまでは、プロのサクソフォン奏者として活躍していたという異色の経歴の持ち主だ。
2020年8月にはミュージックビデオ『Devotions~般若心経~』の配信をスタート。千葉さんが唱える般若心経とエレクトロなジャズを融合させ、舞台照明やプロジェクションマッピングを駆使したその作品は、海外の人々の間で「クール!」とたちまち話題に。日本でも「ビートに乗せたお経はまるでラップのよう」「宇宙的!」などと、仏教とは縁がなかった若い世代の心もつかんでいる。

仏教の光やお経を現代の解釈と技術で表現

33歳で仏門に入る際、「中途半端な気持ちでお勤めはできない」と音楽活動をきっぱり止めた千葉さん。3年間山に籠って修行したのち、妻の実家である栖足寺で再び修行を積んだ。
「その後、自分の得意な音楽を活かして布教ができるのではないかという思いが湧いてきました。そこで取り組み始めたのが音楽法話です。音楽にはイマジネーションをかき立てる力があると思っています。話だけでは心に留まらずに流れてしまうのでは?と思っていたので、仏教の話をさせていただいた後にその話がイメージできるような曲を演奏しました」
さらに、仏教や禅と絡めた舞台照明やプロジェクションマッピングなどのイベントにも力を注いできた。
「仏教では、光は仏の智慧や慈悲の心の象徴です。また、光には人の心を元気にしたり高揚させたりする効果があります。昔はその光を表現すべく、お寺を金襴で装飾したりしていました。その光をプロジェクションマッピングや舞台装置という現代の最新技術を使ってあらわそうと考えたんです」

常にユニークで先進的な取り組みを行ってきた千葉さんだが、『Devotions~般若心経~』誕生のヒントとなったのは、前述の大塚 愛さんとの共演だったそう。
「その場で突然、お経とコラボしたいと言われたんですね。驚きましたが、その感性は本当にすばらしいと思いました」
『Devotions~般若心経~』でビートに乗ってリズミカルに展開していくお経は、和訳された般若心経をさらに千葉さんが今の状況に沿った形で解釈し、詩的に訳したものだ。
「たとえば般若心経には、『照見五蘊皆空(しょうけんごうんかいくう)』というところがあるのですが、直訳すると『五蘊(ごうん)』はすべて『空(くう)』であるとなります。でも『五蘊』といっても、みなさんわかりませんよね。ですから、『心に体に突き刺さる思い』と訳したり、『空』を『幻想』としたり。詩的、比喩的な表現で想像をかき立てるように訳しています」
一方で、意味がわからずとも、お経が持つ響きは心に届くともいう。
「サンスクリット語でそのままお唱えされているお経もあります。意味に執着せず、そのまま命に響かせろという教えがあるからです。お経は、いわゆる音楽だと私は思っています。今回もビートやリズム、ハーモニーが直接心に響くように制作しました」

実はこの作品は、コロナ禍あってこそ生まれたものだ。そこには、千葉さんの強い思いが込められている。コロナ禍の世の中に安穏を!そして心に高揚を与え、元気にしたい──そんな思いに賛同し、参加したのは一流のスタジオミュージシャンたちだった。
作曲、シンセサイザー、トロンボーンを務めたのはT-SQUAREのレコーディング、ライブサポートにも参加する湯浅佳代子。ドラムは矢野顕子、山崎まさよしなど数々の有名アーティストのバックを務める宮川剛。バイオリンはALIAKEを結成、Nu-folkを掲げした、日本のトラッドミュージックにも精通する土屋雄作だ。

『Devotions~般若心経~』の制作メンバーは、左側:湯浅佳代子さん(トロンボーン、シンセサイザー、作曲編曲)、中央上:宮川剛さん(ドラム、パーカッション)、右側:土屋雄作さん(バイオリン)、中央下:千葉兼如さん(お経、サクソフォン、インディアンフルート、シンセサイザー)。写真はないが箸本智さん(レコーディングエンジニア)も参加している。リリース予定のフルアルバムも同じメンバーで制作中。

渾身のフルアルバムも発売予定

現在は、同メンバーによるお経とエレクトロミュージックを融合したフルアルバムも制作中だ。
「シンセサイザー・アーティストの冨田勲さんの言葉で『アナログシンセサイザーの音は電気の音であり、雷がゴロゴロと鳴るのと同じ自然の音だ』といった言葉があるんですね。その言葉に共感して。私どもは禅宗ですから、自然との調和や協調をとても大事にするんです。そこで、自然の音を使って何かできないかと考えたとき、そのひとつがエレクトロミュージックを使った表現だと思いました」
お経をモチーフにした作品あり、仏教にインスパイアされて生まれた楽曲あり。さまざまなシチュエーションで心安らかに元気になってもらいたいという思いを、伝統と新しさが融合する全10曲に込めた。ミュージシャンたちのそれぞれの解釈が重なり、かつてないチャレンジングな音楽に仕上がっているという。
「今回はシンセサイザーの使用をメインにしているのですが、アナログシンセサイザーという古い機種で表現するために緻密な作業を重ねてかなりつくり込んでいます。そこが聴きどころのひとつだと思います
アルバムは2021年春発売予定で、歌詞カードも付くというからじっくりと楽しむことができそう。
「生で体験していただいて、音楽と仏教の融合を体で感じてもらいたいという思いがあります。今は厳しいですが、いつかライブを開催したいですね」
音楽と仏教との融合の可能性は、まだまだ広がりそうだ。


Devotions ~般若心経現代語訳詩入~

KenjyoChiba&YUASA 経文と電子楽器の融合 Fusion of sutras and electronic musical instruments

■インフォメーション

『Devotions~般若心経~』(配信限定)

配信開始日:2020年8月14日
ストリーミング・ダウンロード
栖足寺オフィシャルサイト

オフィシャルFacebook YouTube公式チャンネル

特集

今月の音遊人 横山剣

今月の音遊人

今月の音遊人:横山剣さん「音楽には、癒やしよりも刺激や興奮を求めているのかも」

4941views

音楽ライターの眼

連載22[ジャズ事始め]上海というアジアの拠点を失った“日本のジャズ”が次に求めたスタイル

722views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

自宅で一流アーティストのライブが楽しめる自動演奏ピアノ「ディスクラビア エンスパイア」

37472views

楽器のあれこれQ&A

いつも清潔にしておきたい!ピアニカのお手入れ、お掃除方法

113627views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

5356views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

4121views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

15103views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

3155views

上野学園大学 楽器展示室

楽器博物館探訪

日本に一台しかない初期のピアノ、タンゲンテンフリューゲルを所有する「上野学園 楽器展示室」

13548views

われら音遊人

われら音遊人

われら音遊人:音楽は和!ひとつになったときの達成感がいい

3727views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

3297views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

20717views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目のピアノデュオ鍵盤男子の二人がチェロに挑戦!

4722views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

6394views

音楽ライターの眼

弛まぬ進化を続ける、3人のAKIRAによるスーパーサウンド/AKIRA’S Special Live Vol.5

967views

オトノ仕事人

大好きな音楽を自由な発想で探求し、確かな技術を磨き続ける/ピアニストYouTuberの仕事

23480views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

1951views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

ピアノのエレガントなフォルムを大切にしたデザイン

4337views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

12548views

山口正介さん Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォン教室の新しいクラスメイト、勝手に募集中!

2993views

フルート

楽器のあれこれQ&A

初心者にもよくわかる!フルートの種類と選び方

15629views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

3905views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

20717views