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気を付けないと病みつきに!?三浦一馬率いる「東京グランド・ソロイスツ」が待望のライブ盤『ブエノスアイレス午前零時』をリリース
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2021.4.22
tagged: 三浦一馬, バンドネオン, ブエノスアイレス午前零時, 東京グランド・ソロイスツ, ピアソラ
傑出した才能を持つ若手バンドネオン奏者、三浦一馬。2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の本編後に放送される『大河紀行』の演奏でも注目を集めている。
「自分にとって神様」というピアソラ生誕100年にあたる2021年、その三浦率いる世界初のピアソラ室内オーケストラ「東京グランド・ソロイスツ(TGS)」の新アルバム『ブエノスアイレス午前零時』がリリースされた。
結成から5年目に入ったTGS。「そのひとつの集大成が発信できた」と三浦は胸を張る。
三浦が初めてバンドネオンと出合ったのは10歳のとき。たまたま観ていたNHKの『N響アワー』で、ピアソラが取り上げられていた。
「不思議、そしてかっこいい!という印象でした。僕はメカ大好き少年で、家にあるものをすべて分解していたんです。そんなメカ好きの心をくすぐったんでしょう。そして、何より大人びたその音色にも惹かれました」
それがきっかけとなりバンドネオンを始めた少年は、その後アルゼンチンへと渡ってバンドネオンの世界的権威ネストル・マルコーニに師事し、華やかな経歴を積み上げることになる。既成概念にとらわれず、バンドネオンの可能性を追求する真摯かつ精力的な活動ぶりも話題を呼んできた。
「ピアソラが、いろいろな編成を経てたどり着いたのはキンテート(五重奏)です。僕もだいぶキンテートで弾いてきました。唯一無二のその編成のすばらしさを十二分にわかった上なのですが、ジャンルを超えたいろいろな活動をするなか、新しいサウンドでピアソラを突き詰めたらどうなるのだろうという思いをずっと抱いていたんです」
その構想から5〜6年の歳月を経た2017年、満を持して立ち上げたのがTGS。小さなオーケストラのサウンドで、ピアソラの音楽を新たにアップデートすることを目指した。
メンバーは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の首席ソロ・コンサートマスターであり、注目を集めているバイオリニストの石田泰尚と、彼がプロデュースする硬派弦楽アンサンブル「石田組」の“構成員”たち。さらに、山田武彦(ピアノ)、黒木岩寿(コントラバス)、大坪純平(ギター)ら日本のクラシック界をリードする豪華な顔ぶれ。そして人気、実力ともに屈指のパーカッショニスト石川智など総勢17人だ。
“世界初”であり、前代未聞の編成のため、すべての楽譜はオーケストレーションを手がける三浦が一から書き起こす。
「まずはサウンドとして魅力的に成り立つ音の積み方をしないといけないし、それが各楽器にとって無理なく弾けるものじゃないといけない。さらに、ソロイスツという名前通り、僕のバンドネオンが主役でみなさんが伴奏ということでは決してないので、それぞれが個性を発揮できるようにもしたい。そして、何より大切なのは、ピアソラらしさ、その真髄みたいなものを消すわけにはいかないということです。作業自体は頭をかきむしるような試行錯誤の時間ですが、リハーサルで第1音を出した瞬間から理想のはるか上を弾いてくださるのが本当にうれしいです」
タンゴを演奏しているのに、どこか違う世界やジャンルの香りを漂わせる。それがTGSサウンド。他にはない三浦アレンジのオリジナリティは、TGSの大きな魅力だ。
毎年夏に開催される定期演奏会は、「本場アルゼンチンでも体験できない感動」と評され、満場の客席を大いに沸かせている。
今回リリースされた新作『ブエノスアイレス午前零時』は、2018年と2020年の演奏を収録した待望のライブ盤だ。
「ザ・TGSサウンドがとくに感じられる曲が選曲しました」
アルバムタイトルでもある『ブエノスアイレス午前零時』は、ピアソラがかつてナイトクラブやキャバレーで演奏していたころの街の風景を表現した作品。ミッドナイトの静けさのなかに、不穏な空気が宿る。
「この曲は2020年に収録されたものですが、実はこのとき初めて弾いたんです。曲自体はずっと知っていて聴いていましたけれど、実際弾いてみるとこうも気持ちが高まってくるんだって。楽しかったですね」
『ブエノスアイレス午前零時』と「東京グランド・ソロイスツ」。それぞれに冠された2つの都市名は象徴的であり、アルバムタイトルにしたという。ピアソラが生きたブエノスアイレスの音楽であるタンゴを、真裏の国である極東のジパングで弾く──。
また、三浦がおすすめしたいという一曲が『ル・グラン・タンゴ』。原曲は、ピアソラがチェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチに捧げたピアノとチェロのための作品だ。2000年のライブでは、ゲストに迎えたチェリスト宮田大と三浦というふたりのソリストによって演奏された。
同曲の編曲を手がけたのは、三浦と同い年であり、絶大な信頼を置く作曲家、ピアニストの山中惇史。
「『ル・グラン・タンゴ』を壮大なスケールに昇華させてくれましたね。もともとは長いし暗いしよくわからない作品だと思っていたのですが、この編曲を書いてもらってから大好きになりましたね。宮田大さんの驚異的な存在感を兼ね備えた演奏もすばらしいです」
録音は、サウンドクリエーター、ミュージシャン、エンジニアなど幅広い分野で活躍し、坂本龍一ら名だたるアーティストを手がけてきたオノセイゲン。
「自分の演奏を客席で自分が聴いているような、すばらしい臨場感です」
ピアソラ生誕100年を迎え、盛り上がりを見せる2021年。タンゴやピアソラを聴いたことがない人も、難しい話なしに広く聴いてほしいと三浦は力を込める。
「でも、一度聴いたら、病みつきになってしまう。人間の本能にまで直接訴えかけてくる力、魅力がある音楽だと僕はずっと信じて活動しています。気を付けないと虜になってしまいます。僕なんか、コンサートでピアソラを嫌というほど弾いたのに、帰りの車ではやっぱりピアソラをかけてしまうぐらい(笑)」
危険な魅力(?)を孕むそのピアソラは、病気で倒れる少し前にこんな言葉を残している。
「私は、100年後に私の作品が人々に聴かれているという幻想を抱いている。時々それを確信するのは、私のつくる音楽が他とは違うものだからだ」。
もし彼がTGSを聴いたら、何というだろう。
「ピアソラの真骨頂だけはなくさないことを常に一番に考えているので、あんまり大目玉をくらうことにならないだろうと願っています。そして、ピアソラ作品はこの先もっともっと聴かれていくはずですから、そのひとつとしてTGSも自信を持って活動して、盛り上げていきたいと思っています」
“病みつき”は覚悟せよ!アルバムやコンサートで、ぜひTGSによる新しいピアソラを堪能してほしい。
アルバム『ブエノスアイレス午前零時 ピアソラ生誕100周年記念』
発売元:キングレコード
発売日:2021年3月10日
価格:3,300円(税込)
詳細はこちら
2021年公演情報
5月2日(日)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館(新潟県)
5月21日(金)東京芸術劇場(東京都)
5月22日(土)東京芸術劇場(東京都)
6月6日(日)霧島国際音楽ホール みやまコンセール(鹿児島県)
7月3日(土)第一生命ホール(東京都)
7月4日(日)芸術文化センター 神戸女学院小ホール(兵庫県)
7月6日(火)浜離宮朝日ホール(東京都)
7月15日(木)カノラホール 岡谷市文化会館(長野県)
9月2日(木)サントリーホール(東京都)
※公演は変更になる場合がありますので、オフィシャルサイトでご確認ください。
オフィシャルサイト
文/ 福田素子
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