今月の音遊人
今月の音遊人:佐渡裕さん「音楽は、“不要不急”ではない。人と人とがつながり、ともに生きる喜びを感じるためにある」
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ブラームスは雨に合う?雨の日に聴きたくなるおすすめクラシック3枚
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2015.7.8
tagged: クラリネット, ピアニスト, アンドレアス・オッテンザマー, 鈴木雅明, バッハ・コレギウム・ジャパン, グリゴリー・ソコロフ, ザルツブルク音楽祭
クラリネット界の若きスター、アンドレアス・オッテンザマーは、ベルリン・フィルの首席クラリネット奏者であると同時にソロ活動も積極的に展開しており、来日も多い。父も兄もウィーン・フィルのクラリネット奏者という一家の次男として、正統派でありつつ、21世紀に生きるクラシックの演奏家として、より柔軟で型にはまらないあり方も模索しているようにみえる。『ブラームス:ハンガリアン・コネクション』と題された彼の新譜もこうした方向性を反映している。自らハンガリー人の血をひく彼が、ブラームスとハンガリー音楽のつながりをテーマに、硬軟取り混ぜたアルバムである。メインにはブラームスの晩年の傑作「クラリネット五重奏曲」を据え、後半は「ハンガリー舞曲」やワルツなどを民族調にアレンジしたものをノリよく演奏。共演仲間も豪華で、レオニダス・カヴァコス(バイオリン)、アントワーヌ・タメスティ(ビオラ)、クリストフ(バイオリン)とシュテファン(チェロ)の多芸なコンツ兄弟ら名手が揃い、洗練された仕上がりになっている。
バッハのカンタータ全曲録音プロジェクトで国際的に高い評価を得た鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が、こんどはモーツァルト『レクイエム』のディスクをリリースした。周知のとおり、『レクイエム』は未完のまま残され、弟子のジュスマイヤーがのちに補完したのだが、その版の問題点も指摘されてきた。今回はBCJのチェンバロ/オルガン奏者であり、作曲家でもある鈴木優人が、モーツァルトのスケッチや他の資料を改めて検討し、新しい補筆版を用意した。ここでは細かい点は述べないが、モーツァルト・ファンの方はぜひ現行版と聴きくらべてみてほしい。古楽器によるモーツァルトはぬくもりのある響きで、合唱も暖かみに満ち、特にソプラノ独唱のキャロリン・サンプソンの伸びやかな歌声は天上の美しさだ。
ロシアの実力派ピアニスト、グリゴリー・ソコロフは久しく来日がなく、録音も出ていないため、日本ではなかば伝説化した存在だが、ここ数年ヨーロッパではかなり精力的にリサイタルを開いており、筆者も2年前にザルツブルク音楽祭での公演を聴き、自在な音のコントロールと解釈の深い精神性に強い感銘を受けた。その彼が、このたび2008年のザルツブルク音楽祭のライブ録音をリリースしたことは、ファンにとっては大きな朗報だ。モーツァルトのピアノ・ソナタ2曲とショパン『24の前奏曲』に加え、彼のリサイタルの醍醐味であるアンコール祭りもすべて収録されており、ロシア・ピアニズムの伝統を汲んだ骨太かつ精緻な演奏がたっぷり味わえる。