今月の音遊人
今月の音遊人:諏訪内晶子さん「音楽の素晴らしさは、人生が熟した時にそれを音で奏でられることです」
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ベートーヴェンとシューベルトのソナタをとおして描きだされる、永遠、音楽と言葉、生と死の間のゆらぎ/仲道郁代ピアノ・リサイタル「夢は何処へ」
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2024.4.9
tagged: CFX, 仲道郁代, ベートーヴェン, シューベルト, The Road to 2027
ベートーヴェンの没後200年と自身の演奏活動40年が重なる2027年に向けて10年間・全20回の大プロジェクト「The Road to 2027」が進行中の仲道郁代。2024年6月2日(日)には、東京のサントリーホールで春のプログラム「夢は何処(いずこ)へ」が開催される。
「The Road to 2027」には春と秋のシリーズがあり、春はベートーヴェンが核となり、自身が演奏活動の根幹に据えてきたこの作曲家のソナタの哲学的意味を他の作曲家と重ねて提示している。公演タイトル「夢は何処へ」の“夢”は、さまざまなものを内包しているという。
「このコンサートはシューベルトで締めくくられるのですが、特にシューベルトの第4楽章は、自分が心の強烈な痛みののち、“たましい”だけになったときに、こんな響きの世界に包まれたら幸せだと思えます。今回のタイトルの“夢”は、その響きの中にさめざめと泣き続けたくなるような“夢”。それは理想の世界かもしれないし、死の入口の世界の美しさかもしれません」
演奏曲は、ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第27番』『同第13番』『同第14番「月光」』、シューベルト『ピアノ・ソナタ第18番「幻想」』。
「今回のプログラムには3つのポイントがあります。ひとつ目は“永遠”。どの曲にも出てくる同音連打が永遠を表しています。永遠というのは時間のない世界。同音連打はリズムを刻んでいるのに、それによって表出される世界には時間の感覚がありません。
ふたつ目は“音楽と言葉”です。たとえばベートーヴェンの第27番には、ドイツ語で指示が書かれていたり、ベートーヴェンの連作歌曲『遥かなる恋人に』とのつながりを感じさせる部分があったり(第2楽章冒頭のモティーフ)と、歌、つまり言葉と音楽が往還しているようにも思えます。また、その種が見出せる第13番と、同じ作品番号を持つ第14番では、さまざまな意味を持つモティーフが埋め込まれており、直接の“言葉”ではないのですが、その向こう側にある意味が展開していく。これも言葉と音楽の往還だと思います。そして、シューベルトは歌曲の作曲家。彼が歌曲の中で、どんな言葉にどんな音楽をつけていたかを見ると、彼の音を探るヒントにもなります。
3つ目は“生と死の間のゆらぎ”。たとえば、同じ音形を繰り返している中に、半音だけが異なるハーモニーがゆらぎながら入ってきます。それはまるで生と死のボーダーはほんの一歩の違いであるかのようにも感じられるのです。死の世界があるから、生の世界がより意味を持つ。そんな考え方がどの曲にも反映されていると思います」
こうした考察のもとでプログラムを組むうちに、作品の解釈も変わってきたという。
「『月光』の終楽章は、苦悩を乗り越える人間の力の素晴らしさを描いているとよく評されます。以前は私もそう思っていましたが、今回のタイトルのもとで取り組む過程で、より心の奥底に入り込んでいく音楽なのではないかと思えてきました。今回の公演では、また異なるアプローチの『月光』をお聴きいただけると思います」
本公演で使用するのは、ヤマハのコンサートグランドピアノCFX。この楽器を高く評価する彼女の思いがあふれる。
「今回のシューベルトでいえば、高音での軽やかな音と、言うなれば“あの世”で聴こえるかのような鐘の響きと、そのヴァイブレーションを、CFXで表現することができます。それから、ものすごい弱音の透明感。p×3(ピアニッシシモ:できるだけ弱く)などの弱音がたくさん出てくるのですが、色にたとえると透明な音が出せます。楽器の音質の個性を“味わい”と呼ぶ人もいますが、私は音質や音の色付けは自分がコントロールしたいので、あらかじめ色付けされた味わいは必要ないと思っています。
また、音というのは立体的であり、宇宙的なもの。音の制約がなく、音がいろいろな形で空間を飛びまわるように響くCFXは本当に素晴らしい楽器です」
ピアノの開発に携わるヤマハのスタッフにもエールを贈る。
「“完成された楽器”といわれるピアノですが、ヤマハでは楽器の表現の可能性を追求するために試行錯誤を重ねています。音質のことを言葉で説明するのは難しいのですが、新しいCFXにはこの楽器だからこそ表現が可能になる音質があります。ヤマハの皆さんには心から拍手を贈りたいです」
仲道は「The Road to 2027」と並行して、「ベートーヴェン“ピアノ室内楽”全曲演奏会」のシリーズ公演も展開している。2024年6月30日(日)には、ヤマハホール(東京・銀座)でバイオリニストの岡本誠司とバイオリン・ソナタ5曲(第4~8番)を演奏する。この公演についてたずねると、「とてもおもしろいです!」と即答。
「若手の演奏家たちを共演に迎え、リハーサルもたっぷり取ってもらっているので、毎回とても密度の濃い演奏になっています。岡本君は研究に基づいたアイデアをたくさん持っていて、本当に素晴らしいです。
このシリーズでは、編成にピアノを含む室内楽作品を作品番号順に演奏していくのですが、今回はちょうど『夢は何処へ』で弾く第13番、第14番と同時期の作品によるプログラムです。両方聴いていただくと、それぞれがより楽しめると思います」
2027年をひとつの終着点とする長い旅路の中で、絶えず進化と深化を続ける仲道。その演奏の中で彼女が見出していくものに注目したい。
日時:2024年6月2日(日)14:00開演(13:20開場)
会場:サントリーホール(東京都港区)
料金(税込):S席 6,000円 A席 5,000円 B席 4,000円 ※学生・シニア割引有
詳細はこちら
日時:2024年6月30日(日)15:00開演(14:30開場)
会場:ヤマハホール(東京都中央区)
料金(税込):6,000円
詳細はこちら
文/ 音遊人編集部
photo/ 宮地たか子
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