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ジョン・メイオール

ジョン・メイオール(1933 – 2024)/ブリティッシュ・ブルースのゴッドファ−ザー、去る

2024年7月22日、ジョン・メイオールがカリフォルニア州の自宅で亡くなった。死因は公表されていないが、90年を駆け抜けた太く長い人生だった。

“ゴッドファーザー・オブ・ブリティッシュ・ブルース”と呼ばれたメイオールは1960年代、ブルース音楽をイギリスに普及させることに貢献。それまでザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズなど、アメリカ黒人音楽のイディオムをポップ・ミュージックに取り入れてきたアーティストはいたものの、彼は“本場”に近いブルースをイギリスのメインストリームに浸透させた立役者だった。アルバム『ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』(1966)は全英チャート6位というヒットを記録している。

さらにメイオールを“ゴッドファーザー”たらしめたのは、若手ミュージシャンの育成だった。彼は1963年にブルースブレイカーズを結成して精力的にライヴ活動を行うが、このバンドからはエリック・クラプトン、ピーター・グリーン、ミック・テイラー、ミック・フリートウッド、ジョン・マクヴィー、キーフ・ハートレイ、ココ・モントーヤ、バディ・ウィッティントンなど数多くのミュージシャンが巣立っている。

彼らがブルースブレイカーズ“卒業”後にそれぞれの活動で成功を収め、さらに多くのフォロワーを生んだことで、メイオールは直接的・間接的にブルース界に多大な影響を及ぼすことになった。

ブリティッシュ・ブルースを代表する名盤

メイオールの代表作として真っ先に挙がるのが『ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』だろう。元ヤードバーズのギタリストだったクラプトンを迎えて作られたこのアルバム(ジャケットでクラプトンが読んでいるコミック雑誌から“ビーノ・アルバム”とも呼ばれる)は、新時代を切り開くアルバムだった。オーティス・ラッシュの『オール・ユア・ラヴ』やフレディ・キングの『ハイダウェイ』、ロバート・ジョンソンの『ランブリン・オン・マイ・マインド』などのカヴァー曲を含みながら、アメリカのブルースを模倣するのでなくイギリス人ならではのブルース観を提示した。

メイオールの甲高いヴォーカルはJ.B.ルノワーからの影響を感じさせ、好みが分かれるが、感情をストレートに露わにした歌声でグイグイと引き込んでいく。そして本作が名盤と評価される要因となったのがクラプトンのギターだ。ヤードバーズのポップ化を嫌って「ブルースを弾きたい」とブルースブレイカーズに身を投じた彼ゆえ、全編ブルースに没入したプレイで魅了してくれる。

続いてピーター・グリーンが加入した『ハード・ロード』、ミック・テイラーがプレイする『クルセイド』(共に1967)など、ブルースブレイカーズの代表作はメイオール自身よりもギタリストが目立っているが、これはむしろ彼が意図したもの。彼は自分が目立つことよりも、プロデューサー的な視点からギタリスト達を前面に押し出し、彼らの才能を引き出すことを選んだ。

筆者(山﨑)とのインタビューで、メイオールはこう語っている。

「彼らは素晴らしい個性を持っていたし、自分のエゴより、自由に弾かせたんだ。私が彼らのプレイに貢献したとしたら、環境を与えたことだろう。毎日ライヴをやることで鍛えられたことは間違いない。もうひとつ大事だったのは、私が膨大な数のブルースのレコードを持っていたことだった。彼らがそれをむさぼるように聴いて知識を得ることで、プレイの幅を広げていったんだ」

彼はまたアルバムごとに1曲、フレディ・キングのインストゥルメンタルを収録して、各ギタリストをフィーチュア。1997年の『ブルース・フォー・ザ・ロスト・デイズ』でもバディ・ウィッティントンが『セン・セイ・シュン』を弾いている。それがまたブルースブレイカーズのトレードマークとなった。

1969年にブルースブレイカーズを解散させてから、メイオールはソロ・アーティストとして1970年12月に初来日公演を行っている(初めて日本を訪れたのは音楽と関係なく1950年代前半、朝鮮戦争への従軍だった)。それから何度かブルースブレイカーズ名義を復活させ、1993年にも来日、2003年にはフジ・ロック・フェスティバルに出演した。

彼は人生の多くをツアーとレコーディングに捧げてきた。2021年には最後のツアーを行うと発表、2022年2月には疲労と脱水症状でライヴを中断するという事件もあったがすぐに再開し、同年3月に無事ラスト・ライヴを行っていた。

ゴッドファーザーとの対話

筆者は1997年と2015年の2回、メイオールとインタビューで話すことが出来たが、膨大な音楽知識と豊富な経験を温かみのある人柄とユーモアで包んだ話しぶりは楽しく、スリリングなものだった。

しばしば研究書などでは「イギリスのブルース・ファンはアメリカからレコードを輸入していた」といわれ、実際にそういう層もいたかも知れないが、興味深いのは相当なマニアだったメイオールが自分はそうでなかったと語っていることだ。

「13歳の頃から78回転のSPレコードを買っていたけど、国内盤だけでも欲しいものが山ほどあったから、輸入盤までは手が届かなかったよ。ビッグ・ビル・ブルーンジー、ジョシュ・ホワイト、ブラインド・レモン・ジェファースン……どれも国内盤で買い揃えたよ。それから45回転のEPが登場して、マディ・ウォーターズ、フレディ・キングのレコードを買えるようになった」

もうひとつ、メイオールが世界的なアダルト図書のコレクターだという“伝説”についても訊いてみたことがある。そのコレクションの中には数百年前の稀覯書や日本の春画もあったが、1979年の自宅の火事で焼失してしまった。

「亡くなった父から受け継いだものもあった。思い出は金で買い戻せるものではないんだ」と語るメイオールの寂しげな口調が印象的だった。これからは我々が彼の音楽を思い出として受け継いでいくことになる。

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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