今月の音遊人
今月の音遊人:菅野祐悟さん「音楽は、自分が美しいと思うものを作り上げるために必要なもの」
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音楽と真摯に向き合う姿に胸が熱くなる!大江千里のニューヨークジャズ留学奮闘記
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2016.2.3
tagged: ジャズ, ニューヨーク, 大江千里, 9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学
大江千里(おおえせんり)と聞くと、人懐っこそうな笑顔がまぶたに浮かぶ。ヒットソングを多く生み出したシンガーソングライターであり、テレビドラマに俳優としても出演していたが、現在はニューヨークを拠点に、ジャズピアニストとして活動しているという。
「大江千里」「ニューヨーク」「ジャズピアノ」のつながりにピンと来ない人もいるだろうが、実は大江は10代のころから大のジャズファン。40代に入ると、「ジャズっぽいアルバムを作ってみたり(この「っぽい」がくせものだけれど)、それっぽいジャズクラブを廻ってツアーをしてみたりもした」(本著より)のだそうだ。そして47歳のとき、ジャズを学ぶために日本での音楽活動を休業し、ジャズの専門教育で有名なアメリカのThe New School for Jazz and Contemporary Musicに留学。卒業後は現地で個人レーベルを立ち上げ、アメリカ国内を中心とするライブ活動や、アルバム制作、多彩なアーティストとの共演、若手の発掘などを行っている。
本著は『カドカワ・ミニッツブック』の連載に修正を加え単行本化したもので、350ページを越すボリュームかつ二段組み。手に取ったときは「読み応えがありそうだな」と思ったが、読みはじめるとページをめくる手が止まらない。ニューヨークに旅立つ前のいわば序章の段階から、まるで一緒に留学するかのように大江の世界に引き込まれる。そして、大江が相棒の「ぴーす」(愛犬のダックスフント)とともにニューヨークに降り立ってからは、次が気になってページをめくるスピードが加速していく。
大学のレベル分けテストで落ちこぼれの烙印を押され、アンサンブルで組んだ年下の同級生に「ジャズができていない」と冷たい態度を取られ、ジャズの理論やボイシング(コードの重ね方)が理解できずひたすら鍵盤に向かう日々。毎日が戦いのなか、大江は並々ならぬ努力と探究心、そして持ち前の前向きさでいくつもの壁を乗り越え、卒業を迎えるころには“ジャズっぽい”音楽から脱皮し、ジャズアルバムをリリースするまでになる。
大江はいかなるときも自分の置かれた状況を客観的に見つめ、次にすべきことを冷静に判断し、最後は自分の感性を信じて生きている。自分の軸をしっかり持っている人は、どんな環境下にあっても困難を乗り越え、ベストの結果に辿り着く……。大江の留学奮闘記は、音楽のすばらしさを改めて教えてくれるとともに、人生を楽しくサバイブするための大きなヒントを与えてくれそうだ。
『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』
著者:大江千里
発売元:KADOKAWA
発売日:2015年4月17日
価格:1,800円(税抜)