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パパ・チャビーが盟友たちとギター・バトルで火花を散らすフレディ・キング・トリビュート作を発表

パパ・チャビーが盟友たちとギター・バトルで火花を散らすフレディ・キング・トリビュート作を発表

アタックの強いロッキンなブルースとその分厚いサウンド(とボディ)。パパ・チャビーがフレディ・キングをプレイするというのは、多くのブルース・ファンが納得の組み合わせだろう。2025年に発表された『I Love Freddie King』は、パパが現代ブルース・シーンを代表するギタリスト達とバトルで火花を散らすオールスター・コラボレーション・アルバムだ。

グイグイ前のめりに弾きたおすパワー・ブルース

フレディ(1934-1976)は“テキサス・キャノンボール”の異名を取るブルース・ギタリスト兼シンガーで、B.B.、アルバートと共に“3大キング”に挙げられる名手だ。強力な歌声に加えて、数々のインストゥルメンタル・ナンバーも今日に聴き継がれてきた。その表現力豊かでパワフルなギターは、20年ちょっとの決して長くない活動期間ながら、多くのギタリスト達に影響を与えている。エリック・クラプトンやピーター・グリーンなども彼のインスト曲をカヴァーしてきたし、パパもまた彼から触発されてきたひとりだ。

パパ・チャビー(本名シアドア・ホロウィッツ)は1960年、ニューヨークのブロンクス地区出身。ジミ・ヘンドリックスやクリームを経由してブルースに目覚め、ギターを手にするが、当時のニューヨークではそれで生計を立てることは難しく、セッション・ギタリストして活動する。リチャード・ヘルやスクリーミング・マッド・ジョージ(『ソサエティ』など映画の特殊メイクで有名)のバンドでパンク・ロックをプレイしたことは彼のスタイルにエッジを加えることになった。

自主制作盤のブルース・アルバムを2枚発表したパパに、大きな転機が訪れる。戦前ブルースの伝説的レーベル“オーケー・レコーズ”を再興させる(“ソニー”傘下)にあたってGラヴ&スペシャル・ソース、ケヴ・モ、そして彼がブルースの新時代を担うアーティストとして白羽の矢が立ったのである。アルバム『ブーティ・アンド・ザ・ビースト』(1995)はアレサ・フランクリンやデレク・アンド・ザ・ドミノズなどで知られるトム・ダウドをプロデューサーに迎え、日本盤CDもリリースされるなどプッシュを受けたが、それ1枚で離脱。その後は日本編集の初期ベスト『イッツ・チャビー・タイム!ザ・ベスト・オブ・パパ・チャビー』(1998)が発売され、ハゲ頭&巨漢のクラッシャー・バンバン・ビガロをイメージしたとおぼしきマッチョバディポーズとパンクラス風のロゴマークという日本側スタッフの悪ノリぶりが如何なものかと思われたものの、1998年の来日延期を得て1999年には日本公演も実現した。

パパはそれからも順調にスタジオ・アルバムとライヴ作品(アルバム、映像作)を順調に発表。グイグイ前のめりに弾きたおすパワー・ブルースで魅了してきた。そんな彼の最新アルバムが『I Love Freddie King』だ。

フレディの代表曲の数々をプレイ

『Electric Chubbyland』(2007)ではCD3枚すべてをジミ・ヘンドリックスのレパートリーで固め、前作『Emotional Gangster』(2022)でもマディ・ウォーターズの『フーチー・クーチー・マン』やエルモア・ジェイムズの『ダスト・マイ・ブルーム』など知名度の高いブルース・スタンダードを取り上げてきたパパだが、今回もフレディの代表曲の数々をプレイしている。

“パパ・チャビー&フレンズ”名義でのリリースとなる本作。現代ブルース/ブルース・ロックで活躍する実力派ギタリスト達がパパと火を噴くギター・バトルを繰り広げている。ジョー・ボナマッサが『ゴーイング・ダウン』、クリストーン“キングフィッシュ”イングラムが『ビッグ・レゲッド・ウーマン』、エリック・ゲイルズが『マイ・クレディット・ディドゥント・ゴー・スルー』などで思う存分弾きまくり。シャメキア・コープランドとの活動でも知られるアーサー・ニールスンとの『ハイダウェイ』『サン=ホ=ゼイ』、アルバート・カスティリアとの『ザ・スタンブル』など、フレディの必殺インストゥルメンタルも聴く者の血を滾らせるものだ。

マイク・ジトーとの『シーズ・ア・バーグラー』、V.D.キングとの『セイム・オールド・ブルース』でのギターも極上の味わいで全11曲、どこから聴いても満足度の高いアルバムとなっている。

2024年には腰部脊柱管狭窄症、脊椎不安定、腰椎椎間板ヘルニア、糖尿病などで体調を崩し、クラウドファンディングで治療費を募ってファンを心配させたパパだが、“パパ・チャビー&ザ・ビースト・バンド”を率いて『I Love Freddie King』に伴うツアーを北米からスタート。ヨーロッパを含む大規模なツアーを行うことが発表されている。メジャー・デビューから30年、太く長いキャリアを経てきたパパだが、これからも健康に気を付けながら、末永くその極太ギター・プレイを世界に響かせて欲しい。

■アルバム『I Love Freddie King』

アルバム『I Love Freddie King』ジャケット写真

発売元:Gulf Coast Records
現在発売中

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公式サイト

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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