Web音遊人(みゅーじん)

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

稽古から本番まで指揮者や歌手をフォローし、オペラの音楽を作り上げる/オペラ劇場の音楽スタッフの仕事(前編)

オペラは、歌手の歌と演技、オーケストラによる演奏、そして舞台装置や衣裳などが一体となって、ひとつの物語を作り上げる総合芸術である。ゆえに、舞台作りを支えるスタッフの役割も多種多様だ。そのなかで、稽古から本番にいたるまで、指揮者や歌手のサポートを担い、オペラの音楽作り全般に携わっているのが「音楽スタッフ」だ。稽古の立ち会いや、舞台上で指揮者が見えない位置にいる歌手へのフォローをする副指揮者、オーケストラと合流するまでの稽古で演奏を行うピアニスト、そして本番の舞台で歌手に対して歌詞や歌い出しのタイミング出しをするプロンプターなどがおもな役割。
新国立劇場のオペラ音楽チーフとして、長年にわたり、同劇場のオペラを支えてきた指揮者の城谷(じょうや)正博さんに、音楽スタッフの仕事についてうかがった。

「新国立劇場では年間約12演目のオペラを上演しています。常に、異なる演目の立ち稽古と舞台稽古、それに本番が並行しています」。城谷さんも演目ごとに指揮者、副指揮者、プロンプターなど、さまざまな役割を担っている。
初めて上演する作品や新たな演出を行う新制作の舞台では、本番の4週間前から、再演の場合はおよそ2週間前から、劇場内のリハーサル室で立ち稽古が始まる。指揮者やゲスト歌手も入ったうえでの稽古だ。ピアニストによる伴奏のもと、演出家が稽古を主導する。歌に不安がある歌手に対しては、城谷さんたち音楽スタッフが事前に個人練習を見ることもある。本番の歌手に不測の事態が起きたときに代役を務めるカバー歌手の稽古も行う。
次が実際のステージでの稽古となる。最初の3日間ほどはピアニストの伴奏で稽古をする。歌手はステージの上で実際の立ち位置や動き方、演技などを確認するのだ。「僕たち音楽スタッフは、歌手が正確に歌えているかどうか、動きや位置によって指揮者が見えなくなる場合はどのように合図を出すかなど、細かい点を確認します」
舞台での動きを把握したら、オーケストラと歌手との合同稽古となる。

演目によって指揮者も歌手も変わるなかで、新国立劇場のオペラの音楽作りを支える。それは、劇場の専任スタッフによる“チーム”だからこそなせるものと、城谷さんは自負する。新国立劇場で音楽スタッフの専任制度を取るようになったのは、三代目オペラ芸術監督のノヴォラツスキー氏の提案があったからだそうだ。「音楽スタッフ全員が劇場の音楽的な特徴を共有しているのはとても重要なことです。劇場の音響を把握することで、全体のバランスが取れるようになるし、サポートもしやすくなるのです」

オペラ劇場の音楽スタッフの仕事 - Web音遊人

(写真左)オーケストラが入るオーケストラピット。指揮台からはオーケストラと舞台の両方が見える。
(写真右)指揮者もモニターも見えない場所にいる歌手には、舞台袖から副指揮者がモニターを見ながらペンライトで指揮をして、タイミングを指示する。

城谷さんは、東京藝術大学の作曲科卒業後、指揮科に再入学。佐藤功太郎氏に師事し、佐藤氏が指揮をするオペラの現場で、譜面直しなどの手伝いからオペラを学び始めた。
「1996年の二期会『ワルキューレ』の上演で、指揮者の大野和士さんとご一緒して、その仕事ぶりに感嘆しました。そして、ワーグナーの作品世界に触れ、なんて偉大な音楽なんだろうと感激。もっと知識や感性を深めたいと、オペラの世界にグイグイとのめりこんでいきました」
いくつかのオペラ団体の公演に音楽スタッフとして携わり、2000年には指揮者としてオペラデビュー。その後も、定期的に新国立劇場で上演するオペラに参加し、2004年から新国立劇場の専任スタッフとなった。

音楽スタッフの仕事の中で、具体的な仕事ぶりがあまり知られていないのが、プロンプターではないだろうか。舞台中央に設置された小さなボックス(プロンプターボックス)の中から出演者に歌詞を教える仕事というのが、大方のイメージだろう。「確かにその通りではあるのですが、オペラの場合は音楽が演奏されているなかで歌に入っていくので、歌詞はもちろん、タイミングを指示してあげるのも非常に重要なんです」
歌手によって歌い出しのタイミングも違うので、それぞれの特徴をつかんでおかなければならない。プロンプターは立ち稽古からすべて参加し、歌手全員の特徴を把握する。「歌いぐせや苦手な箇所などもインプットします」。

続きをみる

 

特集

今月の音遊人:新妻聖子さん「セリーヌ・ディオンの歌声を聴いたとき、私がなりたいのはこれだ!と確信しました」

今月の音遊人

今月の音遊人:新妻聖子さん「あの歌声を聴いたとき、私がなりたいのはこれだ!と確信しました」

20932views

音楽ライターの眼

連載34[ジャズ事始め]自分だからこそ表現できるジャズをやるしかないと気づいた佐藤允彦が渡米するまで

2728views

ギター文化館

楽器探訪 Anothertake

歴史的ギターの音を生で聴けるコンサートも開催!

7729views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

1778views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

14030views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

14527views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

23838views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

7337views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

25501views

われら音遊人

われら音遊人:大学時代の仲間と再結成大人が楽しむカントリー・ポップ

4863views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

楽器は、いつ買うのが正解なのだろうか?

8874views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

26756views

世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】世界各地で活躍するギタリスト朴葵姫がフルートのレッスンを体験!

8225views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10758views

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase27)バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」、エスノの抽象化とトーキング・ヘッズ

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase27)バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」、エスノの抽象化とトーキング・ヘッズ

1961views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

楽器のデモンストレーション、解説、管理までをこなすマルチプレイヤー/楽器博物館の学芸員の仕事(前編)

12356views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

6377views

楽器探訪 Anothertake

おしゃれで弾きやすい!新感覚のアコースティックギター「STORIA」

50274views

サントリーホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

クラシック音楽の殿堂として憧れのホールであり続ける/サントリーホール 大ホール

23838views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

泣いているのはどっちだ!?サクソフォン、それとも自分?

6320views

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法 - Web音遊人

楽器のあれこれQ&A

金管楽器のパーツごとのお手入れ方法

16588views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7999views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

32168views