Web音遊人(みゅーじん)

牛田智大インタビュー - Web音遊人

2年の歳月をかけて仕上げた『展覧会の絵』牛田智大オリジナル版

12歳で日本人ピアニストとして史上最年少デビューを果たし、注目を集めた牛田智大。今や高校生となり、当時143cmだった身長も173cmにまで伸びた。
デビュー5年目を迎えた2016年9月には、通算7枚目のアルバム『展覧会の絵』をリリース。着実に成長を遂げてきた牛田の現在が映し出された渾身の作品が、聴き手の心を揺さぶる。

アルバムタイトルに掲げられているメイン曲『展覧会の絵』は、ムソルグスキーが1874年、友人で建築家・画家だったハルトマンの遺作から受けた印象をもとに作曲したピアノ組曲だ。ムソルグスキー代表作であり、難曲としても知られる。
「実はこの曲にはあまり興味がなかったのですが、高校生になったあるとき、アシュケナージがオーケストラ用に編曲した版を聴いて印象が変わったんです。それで、今までとは違う、自分なりの『展覧会の絵』が作れたらと思うようになりました」

多くの音楽家によって編曲されてきた『展覧会の絵』のなかで、このころ牛田はホロヴィッツ版を弾いていたという。
「ホロヴィッツ版はとてもすばらしいのですが、僕にとっては何か所か気になる部分があって、原典版に戻したいと思っていました。そんなとき、師事しているモスクワの先生から自分の版をつくってみたらどうか?と薦められたんです」
2年間という歳月をかけ、さまざまな版を研究して勉強を重ね、仕上げたのが今回レコーディングした牛田だけのオリジナル版だ。『展覧会の絵』が牛田によって新たな魅力を放つ。

また、アルバムには牛田が近年傾注しているロシアの作曲家からもうひとり、チャイコフスキーの小品も収録されている。国民楽派でロシア独自の音楽を追求したムソルグスキーと西洋的な色彩が強いチャイコフスキー。対照的なふたりの作品を繊細なニュアンスで豊かに表現した。
「チャイコフスキーの作品は、たとえピアノ曲であっても常にオーケストラの発想があるんです。それだけピアノで演奏するのが難しい作曲家ですが、ピアノだけでオーケストラのような多彩な音色が聴こえるように演奏してみたいと思いました」

ロシア・ピアニズムの大きな特徴でもある弱音の美しさにもさらなる磨きがかかっている。「それは、調律師やエンジニアの方の技術がすばらしいので」と笑って謙遜しながらも、「もし僕が関わるところがあるとすれば、2015年にミハイル・プレトニョフ指揮でチャイコフスキー『ピアノ協奏曲第1番』を弾かせていただいた経験が演奏に活きているのかなと思います。プレトニョフにアドバイスやレッスンをしていただく機会があり、2,000席を超えるホールの一番後ろまでピアニッシモの音を響かせる打鍵など、演奏の基礎を一から教えていただいたんです」

牛田智大インタビュー - Web音遊人

2017年も各地でのリサイタルが予定されているが、注目のひとつは1月28日(土)に開催される横浜みなとみらいホールでの公演だ。
「『展覧会の絵』をメインに演奏しますが、アルバムとはまた版が変わるので新たに楽しんでいただけたら嬉しいですね。ほかにベートーヴェンとバッハも僕がずっと憧れて勉強したかった作品で、それを発表できる場になると思います」
また、5月31日(水)の東京オペラシティ コンサートホールでのリサイタルでは、ゲーテの『ファウスト』を題材に作曲したといわれるリストの『ピアノソナタロ短調』をメインに据える予定だ。作曲家リストの集大成ともいえるこの大曲を、高度なテクニックと音楽性で壮大なドラマに仕上げ、披露してくれるに違いない。

「演奏会ならではの緊張感を大切にしたい」と語る一方、「子どものころ、家でピアノを弾いているときに、いつもインコが肩に止まっていたんです。だから、今も本番前には過度な緊張を和らげるために癒し系グッズをそばに置いています」とキュートな素顔も見せる。プライベートでは昔からフィギュア・スケートの羽生結弦選手が好きで会ったこともあるそうだが、羽生選手のスケートに対する真摯な姿勢や精神は、牛田が音楽に向き合うそれと共通するものがあるのではないだろうか。

常に高みを目指し、進化を遂げる牛田智大。その“今”をアルバムで、リサイタルでぜひ堪能してほしい。

■アルバムインフォメーション

『展覧会の絵』
展覧会の絵 - Web音遊人v
発売元:ユニバーサル ミュージック ジャパン
発売日:2016年9月14日
価格:3,240円(税込)
詳細はこちら

■牛田智大 ピアノ・リサイタル

日時:2017年1月28日(土)14:00開演(13:00開場)
会場:横浜みなとみらいホール
料金:4,000円(税込)

日時:2017年5月31日(水)13:30開演(13:00開場)
会場:東京オペラシティ コンサートホール
料金:4,800円(税込)
※チケットは2017年1月29日(日)より発売開始

上記を含む公演情報の詳細はオフィシャルサイトでご確認ください。
オフィシャルサイトはこちら

 

特集

武田真治インタビュー

今月の音遊人

今月の音遊人:武田真治さん「人生を変えた、忌野清志郎さんとの出会い」

15617views

音楽ライターの眼

緑豊かな古都のホールで上質なクラシックのコンサートに耳を傾ける

2912views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11260views

楽器のあれこれQ&A

目的別に選ぼう電子ピアノ「クラビノーバ」3シリーズ

2546views

大人の楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:クラシック・サクソフォン界の若き偉才、上野耕平がチェロの体験レッスンに挑戦

11177views

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

オトノ仕事人

出演アーティストの発掘からライブ制作までを一手に担う/ジャズクラブのブッキング・制作の仕事 (前編)

16279views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11236views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

2893views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22010views

if~

われら音遊人

われら音遊人:まだまだ現在進行形!多くの人に曲を届けたい

936views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

5329views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24780views

おとなの楽器練習記:岩崎洵奈

おとなの楽器練習記

【動画公開中】将来を嘱望される実力派ピアニスト、岩崎洵奈がアルトサクソフォンに初挑戦!

11356views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

歴史的価値の高い鍵盤楽器が並ぶ「民音音楽博物館」

23501views

音楽ライターの眼

英国ハード・ロックの“正統”を受け継ぐFMが新作『サーティーン』を発表

2102views

オトノ仕事人

芸術をとおして社会にイノベーションを起こす/インクルーシブアーツ研究の仕事

6424views

スイング・ビーズ・ジャズ・オーケストラのメンバー

われら音遊人

われら音遊人:震災の年に結成したビッグバンド、ボランティア演奏もおまかせあれ!

5551views

Venova(ヴェノーヴァ)

楽器探訪 Anothertake

やさしい指使いと豊かな音色を両立させた、「分岐管」と「蛇行管」

1views

ホール自慢を聞きましょう

地域に愛される豊かな音楽体験の場として京葉エリアに誕生した室内楽ホール/浦安音楽ホール

10081views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

7943views

楽器のあれこれQ&A

いまさら聞けない!?エレクトーン初心者が知っておきたいこと

25972views

こどもと楽しむMusicナビ

親子で参加!“アートで話そう”をテーマにしたオーケストラコンサート&ワークショップ/第16回 子どもたちと芸術家の出あう街

5218views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24780views