今月の音遊人
今月の音遊人:甲田まひるさん「すべての活動の土台は音楽。それなしでは表現にはなりません」
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スペインといえばギター、ギターといえばスペインというほど、この国とギターは切っても切れない間柄である。
そのスペインに、「ギター界の女王」と称されるギタリストがいる。1967年スペインのセビーリャ生まれのマリア・エステル・グスマンである。彼女は8歳からセビーリャ音楽院でアメリカ・マルティネスに師事し、12歳のときにスペイン国営放送局主催のコンクールで優勝している。翌年から演奏活動を開始し、1986年アンドレス・セゴビア国際コンクールで優勝の栄冠に輝き、一躍世界に名を知られるようになった。その後も、世界各地の主要な国際コンクールで優勝を果たしている。
そんなグスマンの「アランフェス協奏曲」を聴いた作曲家のホアキン・ロドリーゴは、「セゴビアの後継者が誕生した」と、その完璧なテクニックと豊かな音楽性を称賛している。彼女は1992年のセビーリャ万博の際に行われたコンサートに出演し、また日本でもデビューしてギターファンの心をつかんでいる(初来日は1990年)。
ファン待望の新譜は『アンダルーサ』。グラナドス、アルベニス、タレガ、リョベート、モンポウというスペインの作曲家の作品を集めた濃密な1枚。アルバムは、グラナドスの「スペイン舞曲」で幕を開ける。華麗な舞曲やスペインの情熱と哀愁を内包した作品、また、民族色あふれるリズムに彩られたアンダルシア地方やカタルーニャ地方の地域色も顔をのぞかせ、乾いた空気をまとい、輝かしい陽光と濃い影も映し出しながら、聴き手をかの地へといざなっていく。最後はモンポウの素朴な「歌と踊り」で幕を閉じ、スペイン各地の音の旅路は終わりを告げる。
スペイン作品は、力強さと柔らかさ、光と影、躍動するリズムと静けさあふれる歌、明朗さと悲哀、情熱と静謐など、相反する表情が混然一体となったところがえもいわれぬ魅力を放っている。それらの複雑な情感をグスマンはこまやかに、ひとつひとつの音をじっくりと紡ぎ、聴き手の心の奥に訴えかけるように奏でていく。それはあたかも弦をつまびきながら、心の歌をうたっているような様相を呈している。
マリア・エステル・グスマンのギターを聴く――それは音でスペインを旅すること。脳裏にスペインの風景が浮かび、空気がただよい、心は自然にスペインへと飛翔していく。目を閉じて、ゆっくりギターに身を委ねたい。
『アンダルーサ』
発売元:マイスター・ミュージック
発売日:2018年5月25日
料金:3,240円(税込)
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー
文/ 伊熊よし子
photo/ Yasuhisa Yoneda
tagged: ギター, マリア・エステル・グスマン, スペイン, アンダルーサ
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