ひとつの出会いがきっかけとなって、その後の人生が変わることもある。音楽もそうした力をもつものであり、読者の中にもかつて同じような体験をした方がおられるのではないだろうか。特に幼少時や児童・学生時代における出会いは強烈な記憶となって残り、その後の進路を決めたというケースも少なくないだろう。
世界的に活躍するバイオリニストの五嶋みどりが、コンサートなどの活動と並行して25年以上も続けている社会貢献型の音楽プログラムも、そうした音楽との貴重な出会いを多くの人にもたらすプロジェクトだ。五嶋自身が理事長を務める認定NPO法人「ミュージック・シェアリング」は、1992年に「みどり教育財団東京オフィス」としてスタート。活動10周年を迎えた2002年に現在の名称となり、開発途上国や日本国内の学校、児童養護施設、病院などへ音楽を届けている。 「特にこれといったきっかけもなく、自然な流れでスタートした活動でしたが、本当に多くのご支援やご協力をいただきながら続けてきました。現在は3つの音楽プログラムを活動の軸にしています。一つめは、毎年春と秋の2回、クラシック音楽と邦楽の演奏を日本各地の学校などに届ける『訪問プログラム』。二つめは障害をもつ子どもたちに楽器演奏の指導を行う『楽器指導支援プログラム』。そして三つめはオーディションで選ばれた3人の若い音楽家と私が弦楽四重奏団を組み、毎年12月には世界の開発途上地域を、6月には日本の小学校などを訪問する『ICEP（インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム）』です」

（写真左）楽器指導支援プログラム（写真右）ICEP（インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム）

こうした活動において、音楽との幸せな出会いを体験する子どもたちも多いだろうが、同時に音楽を届ける側に立つ音楽家や、活動をサポートする音楽大学の学生や卒業生達、さらには学校の教師たちも音楽の力を目の当たりにし、多くの豊かな経験を得ていることだろう。 「私もICEPカルテットの一員として演奏するほか、音大生などサポーティング・アーティストの協力で行っている『楽器指導支援プログラム』では、子どもたちの練習を見学に行ったり、スタッフが送ってくれるビデオを観たりしながら、子どもたちの成長を楽しんでいます。彼らの奏でる音を聴くと、音楽の原点に触れることができたような気持ちになり、あらためて『音楽』について考えさせられることが多いのです」 これからも、ますます活発な活動が期待できる「ミュージック・シェアリング」だが、その一端に触れることができる貴重なチャンスもある。ICEPカルテットと「楽器指導支援プログラム」に参加している子どもたち、サポーティング・アーティストたちによる「ミュージック・シェアリング合同コンサート」が、2018年6月13日（水）に大阪で、6月16日（土）に東京で行われ、どちらも入場無料で楽しむことができるのだ。「楽器指導支援プログラム」のテーマ曲といえる久石譲作曲の『MIDORI Song』をはじめ、心を揺さぶられるような演奏が聴けることだろう。

その一方、もちろん五嶋はバイオリニストとしての演奏活動も忘れていない。 「2018年はレナード・バーンスタインの生誕100年に当たりますので、彼が作曲した『セレナード』を何度か演奏します。なかなか演奏される機会が少ないのですけれど、多くの方にこの曲の素晴らしさが伝わればいいと思っています」
ますます深みが増したその音楽をお聴き逃しなく。

■ミュージック・シェアリング合同コンサート

●大阪公演
日時：2018年6月13日（水）17:30開演（17:00開場）
会場：時空（とき）の広場（大阪府大阪市北区梅田3-1-3 大阪ステーションシティ〈JR大阪駅構内〉5階）
出演：大阪府大阪南視覚支援学校、ICEPカルテット（五嶋みどり／バイオリン、エリーナ・ブクシャ／バイオリン、ベンジャミン・ベック／ビオラ、スタニスラス・キム／チェロ）

●東京公演
日時：2018年6月16日（土）16:00開演（15:30開場）
会場：東京芸術劇場5F コンサートホールエントランス（東京都豊島区西池袋1-8-1）
出演：神奈川県立高津養護学校生田東分教室 音楽部、川崎市立中央支援学校 器楽部、横浜国立大学教育学部附属特別支援学校、アンサンブル麻生OBOG会、リトルキャロル、EXPRESSION、Voces Tokyo、風南、ICEPカルテット

入場無料／事前申込不要
問い合わせ：認定NPO法人ミュージック・シェアリング
TEL 03-3261-1855