今月の音遊人
今月の音遊人:塩谷哲さん 「僕の作る音楽が“ポップ”なのは、二人の天才音楽家の影響かもしれませんね」
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3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.2
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2018.11.21
tagged: サルヴァトーレ・リチートラ, 3大テノール, サルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ
リチートラが次に師事したのは、偉大なるイタリアのテノール、カルロ・ベルゴンツィ(1924~2014)だった。ベルゴンツィの元でレッスンを受けたことで、ようやくデビューにつながる。
「ベルゴンツィには2年間レッスンを受けました。彼が私にいったのは、“いままで練習したことはすべて忘れ、習い始める前に戻りなさい”ということでした。ベルゴンツィは私に自分の自然な声で自由にうたい、人のまねをせず、本来の自分を取り戻すようにといったのです。だれかのまねをするのではなく、自分のもっている個性、声質で勝負するのが一番だということですね。その教えは、いまも忠実に守っています」
そして、ついに1998年1月、パルマ王立歌劇場におけるヴェルディ「仮面舞踏会」でデビューを果たす。その後、ミラノ・スカラ座で指揮者のリッカルド・ムーティのオーディションを受けて主役を得たり、プラシド・ドミンゴからアドヴァイスを受けるなどさまざまな経験を積み重ね、「運命の力」「アイーダ」「マクベス」をはじめ数々の主役をうたい、「次世代のテノール」の呼び声が高くなっていく。
「マエストロ・ムーティのオーディションを受けて主役をもらったときも、自分の声、自分の表現、自分の解釈を貫き通しました。ムーティはそんな私にオペラのあり方、演技の仕方など、こまやかな助言を与えてくれました。その後、偉大なテノール、プラシド・ドミンゴからもさまざまな助言をもらいました」
2002年5月、リチートラはニューヨークのメトロポリタン歌劇場でルチアーノ・パヴァロッティの代役としてプッチーニの「トスカ」のカヴァラドッシをうたい、大成功を収める。当日は、パヴァロッティが「METでの最後のオペラ出演」といわれていたため、世界中からファンが押し寄せていた。こうした状況下の緊急出演だった。そして客席の反応は、開演前と終演後では大きく違っていた。
「私は控えの歌手として準備をしていたのですが、当時のMETの総支配人、ジョセフ・ヴォルピ―から呼ばれ、パヴァロッティがキャンセルしたからと、急きょステージに立つようにと命じられたのです。本番の30分前でした。カヴァラドッシは長年勉強して完全に自分の手の内に入っている役でしたので、無我夢中でうたいました。観客はパヴァロッティの歌を聴きにきているわけです。私は1998年にイタリアでデビューしていましたが、当時アメリカでは無名に等しい存在です。私が代役を務めるということが会場にアナウンスされたときには、会場全体が落胆の色に包まれていました」
(続く)
▶「3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ」全編
伊熊 よし子〔いくま・よしこ〕
音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。著書に「クラシック貴人変人」(エー・ジー出版)、「ヴェンゲーロフの奇跡 百年にひとりのヴァイオリニスト」(共同通信社)、「ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語」(ヤマハミュージックメディア)、「魂のチェリスト ミッシャ・マイスキー《わが真実》」(小学館)、「イラストオペラブック トゥーランドット」(ショパン)、「北欧の音の詩人 グリーグを愛す」(ショパン)など。2010年のショパン生誕200年を記念し、2月に「図説 ショパン」(河出書房新社)を出版。近著「伊熊よし子のおいしい音楽案内 パリに魅せられ、グラナダに酔う」(PHP新書 電子書籍有り)、「リトル・ピアニスト 牛田智大」(扶桑社)、「クラシックはおいしい アーティスト・レシピ」(芸術新聞社)、「たどりつく力 フジコ・ヘミング」(幻冬舎)。共著多数。
伊熊よし子の ークラシックはおいしいー
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