Web音遊人(みゅーじん)

原田慶太楼

今月の音遊人:原田慶太楼さん「音楽によるコミュニケーションには、言葉では決して伝わらない『魔法』があるんです」

現在、日本で注目される指揮者のひとり、原田慶太楼さん。音楽人生の原点となった曲や、音楽家として心がけていることなどを語っていただきました。

Q1.これまでの人生の中で一番多く聴いた曲は何ですか?

レナード・バーンスタインの『ウエスト・サイド・ストーリー』です。小学生のとき、ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』を観て感動して、「この世界に入りたい!将来はミュージカル俳優になって、ブロードウェイの舞台で歌って踊りたい!」と思うようになりました。結果としてもうひとつの夢であったオーケストラ・ピットに入るミュージシャンを目指し、現在は指揮者として活動しているのですが、そんな私の人生の原点にあるのが『ウエスト・サイド・ストーリー』なんです。
音楽も心地よいですし、歌も最初から最後まで全部歌えます。ですから、この中からどれか1曲というより、ひとつの作品としての『ウエスト・サイド・ストーリー』を挙げたいと思います。

Q2.原田さんにとって「音」や「音楽」とは?

「世界の共通言語」ではないでしょうか。地球上にはいろいろな言語や文化がありますが、すべての人々が喜びや悲しみ、ワクワクするような気持ちや勇気などを表現したり、共有したりして、心をひとつにまとめることができるのが音楽だと思うんです。実際に私も、コンサートのリハーサルではオーケストラのメンバーと音楽で会話するように心がけています。そこには、言葉では決して伝わらない「魔法」があるんですよね。
また、日本語の「音楽」という2つの漢字が私は大好きです。「音を楽しむ」と書きますよね。日本語の「音楽」に近い言葉としてヨーロッパには「muse」がありますが、この言葉には「音を楽しむ」という意味合いはありませんから。「音楽」には何か隠れたメッセージがあるような気がして、とても素敵だと思います。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

いちばん当てはまるのは「作曲家」ではないでしょうか。私たち指揮者や演奏者は、作品を表現する人間ではあるけれど、音を選択して曲を作ったのは、文字どおり「作曲家」です。まるで真っ白なキャンバスに絵を描くかのごとく、そこにのせる音を選び、作品にしていく。
クラシックの曲のみならず、映画のサウンドトラック、テレビのBGM、お店で流れている曲、また時計のアラーム音であっても、誰かがその音を選んで作っているわけじゃないですか。その「誰か」はみんな作曲家だといえますよね。そして、曲を作っている人がいちばん「音で遊んでいる」と思います。対して私たちは、いわば「音を楽しむ人」なのではないでしょうか。

Q4.楽器や音楽をやっていてよかったことは何ですか?

私たちの音楽がきっかけで、音楽に興味を持ったり、楽器を始めたりした子どもがいると知ったときに「音楽をやっていてよかったな」と思います。「あなたのコンサートを聴いたのがきっかけで音楽家になりました」というお手紙をいただいたり、そのような声をコンサート会場で聞いたりすることがあるんです。
現在、私が音楽・芸術監督を務めるアメリカ・ジョージア州のサヴァンナ・フィルハーモニックでは、子どもたちのためのコンサートを行っています。毎年、何日もかけて1万人にものぼる子どもたちにオーケストラの演奏を観てもらうという大掛かりなものです。その場所で、生まれて初めてオーケストラを観る子どももたくさんいます。そうした中の、例えば1万人の中の1人でも、将来音楽家にならずとも、この体験をきっかけに人生が変わったりとか、何か良い影響を与えられたりしたのだとしたら、音楽家としてとてもうれしいことです。そうした体験を子どもたちができるよう、常に心がけています。

原田慶太楼〔はらだ・けいたろう〕
欧米やアジアを中心に活躍を続ける期待の俊英。2021年4月東京交響楽団正指揮者に就任。シンシナティ響、アリゾナ・オペラ、リッチモンド響のアソシエイト・コンダクターを経て、2020年シーズンからサヴァンナ・フィルハーモニックの音楽・芸術監督。オペラでもアリゾナやノースカロライナ、ブルガリア国立歌劇場等で活躍。2010年タングルウッド音楽祭で小澤征爾フェロー賞、13年ブルーノ・ワルター指揮者プレビュー賞、米国ショルティ財団キャリア支援賞6度、23年には日本人初となるトップのコンダクター賞を受賞。
オフィシャルサイト

photo/ Shin Yamagishi

本ウェブサイト上に掲載されている文章・画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

facebook

twitter

特集

今月の音遊人:清水ミチコさん「歌モノのネタができることは自分にとって強みです」

今月の音遊人

今月の音遊人:清水ミチコさん「ピアノをちょっと絶ってみると、どれだけ自分に必要かわかります」

20299views

ブルース・トラヴェラー

音楽ライターの眼

ブルース・トラヴェラー、ルーツ探訪アルバム『トラヴェラーズ・ソウル』発表

754views

トランスアコースティックピアノ™

楽器探訪 Anothertake

音量の問題を解決し、ピアノの楽しみを広げる「トランスアコースティックピアノ」

4005views

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ

楽器のあれこれQ&A

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ機種

27024views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:独特の世界観を表現する姉妹のピアノ連弾ボーカルユニットKitriがフルートに挑戦!

4539views

JTBロイヤルロード銀座

オトノ仕事人

日本では出逢えない海外の音楽体験ツアーを楽しんでいただく/海外への音楽旅行の企画の仕事

6946views

荘銀タクト鶴岡

ホール自慢を聞きましょう

ステージと客席の一体感と、自然で明快な音が味わえるホール/荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

11638views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

8650views

武蔵野音楽大学楽器博物館

楽器博物館探訪

世界に一台しかない貴重なピアノを所蔵「武蔵野音楽大学楽器博物館」

22413views

練馬だいこんず

われら音遊人

われら音遊人:好きな音楽を通じて人のためになることをしたい

5875views

サクソフォン、そろそろ「テイク・ファイブ」に挑戦しようか、なんて思ってはいるのですが

パイドパイパー・ダイアリー

サクソフォンをはじめて10年、目標の「テイク・ファイブ」は近いか、遠いのか……。

8146views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29858views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:若き天才ドラマー川口千里がエレキギターに挑戦!

11209views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

10041views

『しーそー』というアルバムに隠れていた“デュオの変化”というヒント

音楽ライターの眼

『しーそー』というアルバムに隠れていた“デュオの変化”というヒント

3400views

弦楽器の調整や修理をする職人インタビュー(前編)

オトノ仕事人

弦楽器の“健康診断”から“治療”、健康アドバイスまで/弦楽器の調整や修理をする職人(前編)

14513views

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

われら音遊人

われら音遊人:1年がかりでビッグバンドを結成、河内からラテンの楽しさを発信!

10796views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

11570views

メニコン シアターAoi

ホール自慢を聞きましょう

五感で“みる”ことの素晴らしさを多くの方と共感したい/メニコン シアターAoi

2661views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

大人の音楽レッスン、わたし、これでも10年つづけています!

7065views

楽器のメンテナンス

楽器のあれこれQ&A

大切に長く使うために、屋外で楽器を使うときに気をつけることは?

52472views

東京文化会館

こどもと楽しむMusicナビ

はじめの一歩。大人気の体験型プログラムで子どもと音楽を楽しもう/東京文化会館『ミュージック・ワークショップ』

7433views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

29858views