Web音遊人(みゅーじん)

心に響く「短調クラシック」入門

泣けて癒される、作曲家が選ぶセンチメンタルな短調クラシック

「日本人は短調の曲を好む」という説がある。この説に明確な裏付けはないが、日本の伝統音楽(邦楽)は短調を基本としており、歌謡曲や演歌のヒットソングには短調が多いと聞いて、思わず納得してしまうのは私だけではないだろう。

よくよく考えると、私達が音楽を聴くとき「この曲は長調か、短調か」などと考えないものだ。だが楽曲の印象は「調」に左右されるところが大きく、長調=明るく楽しい、短調=暗く悲しい、と感じる人が多いという。こう感じるのは音階の特徴にあるとする説が有力で、長調の基本となる音階(ハ長調)が「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」なのに対し、短調の音階(ハ短調)は「ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭」とミ・ラ・シに♭が付き半音下がることで、暗く、悲しい響きが生まれるとされている。

しかし、本書の著者である作曲家の壺井一歩(つぼいいっぽ)は「音自体に意味はない。短調が『暗い/悲しい』ことの理由もはっきりとはわからない」(本書より)という。事実、長調・短調とは西洋音楽の概念で、大半の民族音楽には存在しないほか、明暗の判断は各自の感覚によるところが大きい。また楽曲を通してずっと同じ調であるとは限らず、途中で転調したり、長調なのか短調なのかどちらともつかない部分があったり。つまり、短調の曲が暗く悲しいとは言い切れない。

では、私達が短調の曲に惹かれるのはなぜだろう。壺井によると、主な理由は2つあるようだ。ひとつ目は、先に短調の音階(ハ短調)ではミ・ラ・シが半音下がると言ったが、ラとシは半音下がらないパターンもあることから、長調に比べて使える音の数が多く表現の幅が広いこと。ふたつ目は、短調の曲は転調が多い傾向にあり、長調の曲より音楽の性格が曖昧になりやすいこと。これらによって、短調の曲には人間の複雑な感情を投影するような深み、ドラマ性が生まれるというわけだ。

本書では交響曲、協奏曲、器楽・声楽曲、ピアノ曲のジャンル別に、有名曲から知られざる小品、現代曲まで、壺井が「センチメンタル(感傷的)」と感じる短調の名曲が紹介されている。各曲の解説は壺井の作曲家としての視点をベースに語られるが、時代背景や作曲家の人生、裏話なども織り交ぜられており、音楽の専門知識がなくても楽しく読み進めることができる。さらに、おすすめディスクや聴きどころ(センチメンタルを感じるポイント)も教えてくれるので、「どうセンチメンタルなのだろう?」と、実際に曲が聴きたくなること請け合いだ。

ときに激しく、ときに優しく私達の心に働きかけ、癒してくれる短調の名曲。本書で多彩な作品を紐解きながら、お気に入りの一曲をみつけてみてはどうだろう。

■作品紹介

心に響く「短調クラシック」入門』
著者:壺井一歩
発売元:廣済堂出版
発売日:2015年2月24日
価格:800円(税抜)

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:マキタスポーツさん「オトネタ作りも、音楽に関わるようになったのも、佐野元春さんに出会ったことから始まっています」

8469views

サルヴァトーレ・リチートラ

音楽ライターの眼

3大テノールを受け継ぐ情熱的な歌声を聴かせたサルヴァトーレ・リチートラを偲ぶ Vol.2

3952views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

9383views

エレキギター

楽器のあれこれQ&A

エレキギターのサウンドメイクについて教えて!

1061views

今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】今、注目の若き才能 ピアニスト實川風が ドラム体験レッスン!

8861views

オトノ仕事人

コンサートの音の責任者/サウンドデザイナーの仕事

12744views

HAKUJU HALL(白寿ホール)

ホール自慢を聞きましょう

心身ともにリラックスできる贅沢な音楽空間/Hakuju Hall(ハクジュホール)

23234views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

3300views

ギター文化館

楽器博物館探訪

19世紀スペインの至宝級ギターを所蔵する「ギター文化館」

15186views

われら音遊人

われら音遊人:ママ友同士で結成し、はや30年!音楽の楽しさをわかちあう

5650views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

8076views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

10373views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

12908views

浜松市楽器博物館

楽器博物館探訪

世界中の珍しい楽器が一堂に集まった「浜松市楽器博物館」

31419views

J・シュトラウス2世の《美しく青きドナウ》は、オーストリアの第2国歌のような存在

音楽ライターの眼

J・シュトラウス2世の《美しく青きドナウ》は、オーストリアの第2国歌のような存在

21052views

オトノ仕事人

リスナーとの絆を大切にする番組作り/クラシック専門のインターネットラジオを制作・発信する仕事

5687views

AOSABA

われら音遊人

われら音遊人:大所帯で人も音も自由、そこが面白い!

11819views

楽器探訪 Anothertake

奏者の思いどおりに音色が変化する、豊かな表現力を持ったグランドピアノ「C3X espressivo(エスプレッシーヴォ)」

9383views

紀尾井ホール

ホール自慢を聞きましょう

専属の室内オーケストラをもつ日本屈指の音楽ホール/紀尾井ホール

14741views

パイドパイパー・ダイアリー Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

あれから40年、おかげさまで「音」をはずさなくなりました

4755views

EZ-310

楽器のあれこれQ&A

初めての鍵盤楽器を楽しく演奏して上達する方法

812views

こどもと楽しむMusicナビ

オルガンの仕組みを遊びながら学ぶ「それいけ!オルガン探検隊」/サントリーホールでオルガンZANMAI!

9056views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

30897views