今月の音遊人
今月の音遊人:松井秀太郎さん「言葉にできない感情や想いがあっても、音楽が関わることで向き合える」
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「自分の音」に向かって没入できる演奏性と表現力/エレキギター「Pacifica」
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2024.6.28
その登場から約30年、ヤマハのエレキギターの中核をなすシリーズ、Pacifica。「Pacifica Professional」と「Pacifica Standard Plus」は、プロユースにも対応する待望の上位モデルだ。
エレキギターほどその評価が難しい楽器はないかもしれない。楽器そのものの作りの精度(木工の技術)、弦をはじいた音を拾うマイク(ピックアップ)の性能、そしてボリュームやトーンなどのコントロール部の性能(電装部品に関する技術)、はてはアンプやエフェクターなどギター本体ではない周辺機材の選び方や組み合わせ方など、楽器の音を左右する要素があまりにも多いのだ。逆にいえば、それだけプレイヤーにとっては音づくりの幅が広い楽器ともいえる。
ヤマハは1960年代からエレキギターの製造・販売を開始し、SGシリーズを筆頭に、常に時代のニーズを感じ取り、それを反映させたモデルを世に送り出し続けている。現在ではREVSTARとPacifica、このふたつのシリーズが大きな柱だ。
2016年に登場したREVSTARは、強いて分類するならばロックに向いたギターで、エントリーモデルからプロユースに対応するハイエンドモデルまでがラインアップしている。対してPacificaは、演奏する音楽ジャンルを問わない汎用性の高いシリーズ。1990年に登場し、幾度かの変遷を経て、2011年にリニューアルされたものが現在のラインアップのベースになっている。
今回紹介する「Pacifica Professional」と「Pacifica Standard Plus」は、それまでエントリー~中級モデルで構成されていたPacificaシリーズの最後のピースともいえる、待望の最上級モデルなのである。
今回、話を聞いたのは、アメリカのギター事業子会社で製品全体の企画を担った太田裕介さん、浜松の本社で製品の詳細な仕様を決めたり、工場に出向いて生産のサポートをしたりするなど開発全般に関わった田代健樹さん、同じく本社でエレキギターの音色について研究を行った石坂健太さんの3人。まず、開発の背景について聞いた。
企画のスタートは2019年で、プロを含めたユーザーにインタビューを行い、彼らがエレキギターに求めるものを探るところから始めたという。
「その結果、みなさんそれぞれ使う言葉が違えども、“演奏に没入できる”ということを重要視していることがわかりました」(太田さん)
余計なことを考えずに、目の前の演奏に集中できる。つまり、意図した音が瞬時に出せたり、演奏にストレスを感じたりしないギター、ということだろう。このコンセプトを前提として開発された「Pacifica Professional」と「Pacifica Standard Plus」の特徴を紹介していこう。
まず音に関しては、新たに開発したピックアップ「Reflectone」(リフレクトーン)が採用された。ナチュラルなクリーントーンから、パワフルかつクリアなサウンドまで、とにかくレンジが広い。まさに演奏者の意図に忠実な音を出せるピックアップで、これはマイクプリアンプやミキサーなどをはじめとするオーディオ機器で知られるルパート・ニーヴ・デザインズ社との共同開発によるものである。
「オーディオ機器で使うトランス(変圧器)とピックアップの原理に共通部分があるんです。ルパート・ニーヴ・デザインズ社には趣味でギター用のピックアップを手づくりしている方もいて、試作を見せていただく機会があったのですが、それがPacificaに合いそうなものだったんです」(石坂さん)
また、弦をはじく音をピックアップが拾うとはいえ、いい音を出すにはギター本体の“鳴り”も重要な要素。今回のPacificaでは、REVSTARの開発に用いた設計プロセス「アコースティック・デザイン」により、3Dモデリングを駆使したシミュレーションを重ねることでボディの鳴りを最大限に高める形状と構造を模索していった。こうした部分はエレキギターの世界でも職人の勘に頼るメーカーが多いなか、ヤマハの科学的なアプローチは総合楽器メーカーならではの多岐にわたるデータの集積が可能にするもので、特筆に値する。
ボディやネックの形状も、従来のPacificaから大幅に進化した。もともと弾きやすいと評判の高かったボディ形状からさらに改良を重ね、コンターの削り具合やネックとボディの接合部を滑らかにすることで、さらなる演奏性の高さを実現した。
「“演奏に没入できる”というコンセプトの実現に向けて、アコースティック・デザインによる鳴りの良さと、演奏性の高さを両立できるようにバランスを取りながら設計したことに加え、ネックに関してはプロのアーティストに試奏・評価をしていただきながらシェイプを絞り込んでいきました」(田代さん)
現在は音楽ジャンルの多様化により、ギタリストも多彩なプレイスタイルが求められたり、ライブやスタジオのみならず、DTMなどギターを使う場が多くなったりしている。
「どんなジャンルでも、どんな場所でも、プレイヤーの理想とする音、そしてピッキングの微妙なニュアンスまで再現できるギターが完成しました。プロのアーティストが“道具”として使えるこの2本がPacificaのラインアップに加わって、ようやくPacificaシリーズとしてのスタートラインに立てたと思います。そして、これらのギターを手にとった方々によって新しい音楽が生み出された瞬間が、私たちの目的が達成されたときだと考えています」(太田さん)
「ここ10年のPacificaシリーズでは、初めてプロユースの価格帯の製品を生み出すことができました。これまでギター製作で培ってきたノウハウを注入し、みなさんが演奏に没入できるクオリティのギターになりました」(田代さん)
「ご存じのとおり、ヤマハはピアノをはじめとするさまざまな楽器の開発を行っています。その過程で蓄積された多くの知見を、このギターにも注ぎ込んでいます。長く使い込んでいけるギターなので、愛され続ける楽器になったらいいな、と思います」(石坂さん)
ふたつの新モデルがこれから音楽シーンの中でどのように使われていくのか。その可能性に期待が高まる。
プロフェッショナルなギタリストの自己表現を完璧にサポート。コンパウンドラディアス指板、そして個体ごとに最適の鳴りを実現するべくイニシャル・レスポンス・アクセラレーション(I.R.A.)処理を施したフラッグシップモデル。日本の工場で製造され、職人たちの技術もふんだんに取り入れられている。
Pacifica Professionalの詳細はこちら
モダンなサウンドメイキングを求めるギタリストのベストパートナー。リーズナブルな価格ながら「Pacifica Professional」とほぼ同等のスペックを実現した。ステンレスフレットの採用により、チョーキングもスムーズなうえ、フレット交換の手間も省けるのがうれしい。
Pacifica Standard Plusの詳細はこちら
文/ 山﨑隆一
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tagged: 楽器探訪, エレキギター, Pacifica
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