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モーターヘッド『ザ・マンティコア・テープス』発表。爆走ロックンロールの黄金トライアングルはここから始まった

モーターヘッド『ザ・マンティコア・テープス』発表。爆走ロックンロールの黄金トライアングルはここから始まった

モーターヘッドの総帥レミー・キルミスターが2015年12月28日に亡くなって、早くも10年の月日が経とうとする。

70年の人生をロックンロールに捧げたレミーの功績はとてつもなく大きい。1981年にライヴ・アルバム『ノー・スリープ・ティル・ハマースミス(極悪ライヴ)』がイギリスのナショナル・チャートで1位を獲得。メタリカを始め数々のトップ・バンドが彼らから影響を受け、『エース・オブ・スペイズ』『オーヴァーキル』『ボマー』などは時代を超えてファンが首を振り、拳を突き上げるクラシックスだ。

レミーが去っても、その音楽は鳴り響き続ける。彼が生前に発表したモーターヘッドの音楽は新しい世代のリスナーのハートを揺さぶっているし、それに加えて毎年恒例のレコード・ストア・デイではしばしば未発表スタジオ・トラックやライヴ・アルバムがリリースされ、音楽配信サービスで検索すると、こんな音源があったのか!と驚愕するタイトルがズラリと並んでいる。

『ノー・スリープ・ティル・ハマースミス』の5時間近くに及ぶ“完全盤”、最後のスタジオ・アルバム『バッド・マジック』(2015)に同年のフジ・ロック・フェスティバルでのライヴを加えた『Seriously Bad Magic』、レア・ライヴ集『The Lost Tapes』シリーズなど、モーターヘッドの熱心なファンならずとも“激しく、うるさく、汚い”ロックンロールと共に燃え上がることができる。

さらに数々の映像作品も公開・リリースされ、2025年12月末にはそれらを一気に上映するイベント“24時間モーターヘッド”が新宿シネマートで行われるなど、我々はモーターヘッドに囲まれながら日々を過ごすことが可能なのだ。

レミーのアーカイヴ音源への想い

ただ、存命時のレミーが過去のアーカイヴ音源のリリースを必ずしも喜んでいなかったことも事実だった。

モーターヘッドの本来デビュー・アルバムとなる筈だった『On Parole』は1975年から76年にかけてレコーディングされながらレコード会社の判断でお蔵入りとなっていたが、バンドが『オーヴァーキル』『ボマー』で成功を収めた1979年、それに便乗して発売されている。また、彼らが“ブロンズ・レコーズ”に残した別テイクやアウトテイクもレーベル離脱後にコンピレーションなどでバラ売りされることになった。どちらもレミーの知らないところでリリースされたもので、彼は筆者(山﨑)とのインタビューで不満を漏らしていた。

「勝手に古い音源を出されても、俺にはどうにもできないんだ。それよりも新しい音楽を出していきたいね」

もちろん、そんな過去音源が世に出るのは、需要があるからだ。純然たる未発表曲でも、既発曲の別テイクであっても、いずれもモーターヘッドならではの過剰なまでの魂が込められている。もはや彼らの新作を聴くことができない今、我々はレミー達が遺したロックンロールに聴き浸るしかないのだ。

1976年夏の音源が初登場

『ザ・マンティコア・テープス』は、純正モーターヘッド印のロックンロールを堪能することができるのと同時に、バンドの歴史における重要なターニングポイントを捉えたドキュメントだ。

1975年に結成、同年から翌年にかけて『On Parole』をレコーディングしたモーターヘッドはバンドを4人編成にすることを考える。当時のギタリストはラリー・ウォリスだったが、セカンド・ギタリストとして迎えられたのが“ファスト”エディ・クラークだった。ドラマーのフィルシー“アニマル”テイラーのバイト仲間だったエディはそれまでもカーティス・ナイトとレコーディングするなどしてきたが、モーターヘッドで実力を開花。あるときラリーがリハーサルに来なかったことから、トリオ編成で活動を続けていくことになる。彼らは未発表だった『On Parole』の楽曲を現行ラインアップで録音するべく1976年8月、エマーソン、レイク&パーマーのマネージメント“マンティコア・レコーズ”社屋に併設された“マンティコア・スタジオ”に入った。このとき録音された3人のファースト・レコーディング音源は49年間ずっと聴かれることなく眠ってきたが2025年、ついに封印が解かれたのだ。

『モーターヘッド』『キープ・アス・オン・ザ・ロード』『ザ・ウォッチャー』など初期のファン・フェイヴァリットに加えて、モータウン・ソング(レミーは英国のザ・バーズによるヴァージョンを下敷きに)『リーヴィング・ヒア』そしてジョン・メイオールズ・ブルースブレイカーズの『アイム・ユア・ウィッチドクター』というカヴァー曲を収録。後者そして『アイアン・ホース/ボーン・トゥ・ルーズ』はインストゥルメンタル・ヴァージョンが入っている(ヴォーカル・マイクはオフになっていたようだが、うっすらと声が聞こえたりもする)。その一方で『On Parole』に収録されていたラリー主導の『オン・パロール』『シティ・キッズ』は演奏されていない。

初期モーターヘッドが経た変化

『On Parole』→『ザ・マンティコア・テープス』→1977年4月にレコーディングされ、現在では公式にファースト・アルバムと見做される『モーターヘッド』という順番で作られた3作だが、収録曲が似通っていても、サウンド面での変化を楽しむことができる。最初期はインディーズ・パンク的な音の隙間があったのが、徐々にヘヴィで分厚く密度が増して、ヴォーカルのメロディやギターのフレーズも徐々にインスピレーションに満ちたものへと進化していく。それでいて丸くなったり牙を抜かれることなく、生々しい獣性を感じさせるロックンロールは、その後のグローバルな活躍を予見させるものだ。

『ザ・マンティコア・テープス』は日本ではCD、海外ではCDとアナログ盤レコードとしてリリースされる。海外アナログ盤はアルバム本編LPに加えて1977年6月3日、バーミンガムのタウン・ホールでのライヴを収録したLP(これまで『爆裂ライヴ!』『ライヴ1977』などのタイトルで日本盤CD化されてきた)、そして1977年10月12日、バーミンガムのバーバレラズ公演から『モーターヘッド』『キープ・アス・オン・ザ・ロード』を収録した初登場7インチ・シングルが付けられた2LP+7”仕様だ。

「隣の家にモーターヘッドが引っ越してきたら、庭の芝生がすべて枯れる」といわれたレミー/エディ/フィルシーという黄金トライアングルの爆走ロックンロール伝説は、『ザ・マンティコア・テープス』から始まったのである。


Motörhead – Motörhead (The Manticore Tapes)

■アルバム『ザ・マンティコア・テープス』

アルバム『ザ・マンティコア・テープス』ジャケット写真

発売元:ユニバーサル ミュージック合同会社
発売日:2025年6月27日
価格:3,300円(税込)

詳細はこちら

公式サイト

山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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