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ロンドン・ソウルの女王P・P・アーノルドが2025年10月、初の単独来日ライヴが実現
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2025.8.21
tagged: 音楽ライターの眼, P・P・アーノルド, P.P. Arnold
P・P・アーノルドが2025年10月、初の単独ジャパン・ツアーを行う。
出身地のアメリカでデビュー、1960年代にアイク&ティナ・ターナーのバック・シンガー&ダンサー“アイケッツ”の一員として活動していた彼女だが1966年、ザ・ローリング・ストーンズとの英国ツアーの後に活動拠点をロンドンに移し、『First Cut Is The Deepest』『Angel Of The Morning』、スモール・フェイセズとの『Tin Soldier』などがヒット。モッズやノーザン・ソウルなどをクロスオーヴァーするディーヴァ(歌姫)として支持を得ている。キース・エマースンが在籍したザ・ナイスが元々彼女のバック・バンドとして結成されたことも、知る人ぞ知る事実だ。
1970年代に入って人気に翳りが訪れ、さらに愛嬢が事故で亡くなるなどして音楽シーンから身を退いていた彼女だが、1980年代には復帰。ミュージカル『スターライトエクスプレス』のロンドン・キャストに参加している。また、バック・ヴォーカルを務めたピーター・ゲイブリエルの『So』(1986)が世界各国のチャートで1位を獲得するなど、その歌声は世界に響きわたっていた。
そして1990年代にはブリットポップ・ブームでシックスティーズ再評価の気運が高まり、ポール・ウェラー、オーシャン・カラー・シーン、プライマル・スクリームらとの共演も行われている。そして2025年7月、オアシスのロンドン・ウェンブリー・スタジアム公演ではオープニング・アクトCASTのステージに上がり、8万人を超える大観衆を前にその歌声を聴かせるなど、その存在は時代を超えて受け入れられてきた。
2025年10月3日には79歳を迎えながら現在でもツアー活動を続け、“ロンドンズ・ファースト・レディ・オブ・ソウル”として敬愛されるP・P・アーノルドの単独日本公演が遂に実現するのだ。
彼女が日本のステージに立つのは、実はこれが初めてではない。2002年、ロジャー・ウォーターズ(元ピンク・フロイド)の来日公演にも同行しているが、そのときはサポート・シンガー的役割であり、自らのレパートリーを歌うわけではなかった。彼女自身のヘッドライナー・ショーが本邦で行われるのは、その60年におよぶキャリアにおいて今回が初めてとなる。
どんな曲が歌われるかは当日のお楽しみ。彼女のオリジナル・スタジオ・アルバムは決して多くなく、『The First Lady Of Immediate』と『Kafunta』(共に1968)、1960〜70年代にかけて録音されながらいったんお蔵入りになった『The Turning Tide』(2017)、そして『The New Adventures of…』(2019)の4作のみなので、それらをじっくり聴き込んでおけばライヴの事前準備はおおよそバッチリなのであるが、さらに予習をしておきたい人はライヴ・アルバム『Live In Liverpool』を聴いておくべきだ。2019年10月18日、リヴァプール・グランド・セントラル・ホール公演をレコーディングした同作、5年前近くの音源となるが、2024年の英国ツアーのセット・リストも似通ったものだったため、参考になるだろう。また本作は来日公演が終わった後も何度でも繰り返して聴いて楽しめる、まさに一家に1枚必携の好盤だ。
さらに言えば彼女の音楽についてまったく予備知識がなくとも、そのライヴを十分堪能することができる。ザ・ビートルズの『Eleanor Rigby』やトラフィックの『Medicated Goo』など比較的知名度の高いカヴァー曲も披露されるし、映画『デッドプール』シリーズで再注目された『Angel Of The Morning』(作中でジュース・ニュートン、メリリー・ラッシュのヴァージョンが使われた)、そして彼女の十八番『First Cut Is The Deepest』と、いずれも彼女のソウルフルな歌声をフィーチュア、本能で感じるステージとなるだろう。
もちろん、彼女について知ることで、その音楽にさらなる深みと彩りをもたらすことも事実だ。十代で母親となり、子どもを置いてアイク&ティナ・ターナーのツアーに出た彼女はパワハラ上司のアイクを恐れてザ・ローリング・ストーンズとの英国ツアーの最終日、彼に知られないように荷物をまとめて離脱。“イミディエイト・レコーズ”のアンドリュー・オールダムに認められてソロ・シンガーとして新たなスタートを切ることになる。ロンドンでミック・ジャガー、スティーヴ・マリオット、ジミ・ヘンドリックス、ロッド・スチュワートらと浮名を流す彼女は「彼らがロック・スターだから付き合ったのではなくて、付き合った相手がたまたまロック・スターだっただけ」と後に語っているが、そんな人生経験が彼女の歌唱をより豊潤にしていることは間違いないだろう。
彼女の自伝『Soul Survivor: The Autobiography』は波瀾万丈の人生の前半を辿った名著だ。あまりに内容が盛り沢山のため、1980年までしか語られていないが、英語を読めるファンは日本公演前に読んでおくことをおすすめする(なお原書のハードカバーは2022年に刊行されたが、2023年に出たペーパーバックは亡くなったティナ・ターナーとの思い出が追加されている)。来日で盛り上がった後に邦訳にも期待したい。
今回の公演でバックアップを務めるのは彼女の音楽を心得た日本人ミュージシャン勢。
key. 伊東ミキオ(2025年10月20日、22日出演)
guitar. マツキ タイジロウ(SCOOBIE DO)
bass. ナガイケ ジョー (SCOOBIE DO)
drums. オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)
key. 丸山 桂(2025年10月17日出演)
という布陣となる。
2025年8月にはオーシャン・カラー・シーンの英国ツアーに同行。9月にはデビュー60周年記念アルバム制作を行うというP・P・アーノルド。まさに熱気に満ちた状態での日本上陸となる。“初めての傷が一番深い”と彼女は歌うが、初のジャパン・ツアーは我々の胸に深く刺さるものとなりそうだ。

2025年10月17日(金)東京・渋谷DIVE
2025年10月20日(月)名古屋CLUB QUATTRO
2025年10月22日(水)梅田CLUB QUATTRO
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
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文/ 山崎智之
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