今月の音遊人
今月の音遊人:新妻聖子さん「あの歌声を聴いたとき、私がなりたいのはこれだ!と確信しました」
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外国曲145曲、日本人の作詞・作曲による141曲の愛唱歌・抒情歌をまとめた『世界と日本の愛唱歌・抒情歌事典』の著者、長田暁二を訪ね、力作誕生の経緯を聞いた。本書は二冊のハンドブックを改訂、合本化したもので、歌詞つきのメロディ譜と1000字ほどにまとめられた曲解説を見開きに構成。〈世界編〉には曲名索引、〈日本編〉には歌い出し索引がついた、600ページにもおよぶ「歌の事典」だ。
本書が他の類書と大きく異なる点は、「音楽ジャンルや流行年代などの枠を外して、あえて雑然と歌を並べた」(まえがきより)ということ。『證城寺の狸囃子』『少年時代』『知床旅情』という具合に、世界編、日本編とも題名の「あいうえお順」に歌が並んでいる。特定の歌の背景や情報などを調べるのはもちろん、ページをめくりながら思いのままに読んでみると、新たな出会いや発見があって実に楽しい。歌にまつわる読者それぞれの思い出も蘇るだろう。
著者は、レコード会社で長年制作に携わり、著名な作詞・作曲家、歌手、女優、マスコミ関係者などに幅広い人脈をもつ長田暁二。幼い頃、母親と離れ寂しい思いをしている息子の慰めにと、父が買ってくれた蓄音機で音楽と出会う。父からの注文で、レコード店から新譜のほとんどが家に届いたため、幼くして浪曲や民謡、流行歌からクラシックまで、あらゆるジャンルの音楽を聴き込んだ。自然と歌も上手になり、学校の先生も一目置くように。しかし「歌うことよりもレコードを作るほうに関心があった」という長田は、大学入学と同時に上京してレコード会社に通い詰め、門前払いにも必死に食い下がって、バンドボーイの仕事をもらう。レコーディングといえば生バンドの伴奏で、いわゆる「一発録り」をしていた時代。「そこでもまた、いろいろな音楽と出会うことになりました」
ジャンルも年代も分けずに雑然と歌を並べるという自由な発想の背景には、こうした著者と歌との出会いがあった。曲解説には、レコード会社時代の制作秘話や著名人との出会い、現場での生々しい体験談などが随所に織り込まれ、本書でなければ知り得ない逸話に思わず引き込まれていく。
昭和の日本の世相や人々の暮らしがリアルに浮かび上がり、日本の音楽文化史としても貴重な「歌の事典」。音楽関係の指導者や施設での訪問演奏をする人、コンサートのプロデューサーなど、歌に関わる仕事をする人には実用面でもおすすめ。いつも身近に置きたくなる一冊だ。
『世界と日本の愛唱歌・抒情歌事典』
著者:長田暁二
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2015年11月27日
価格:5,500円(税抜)
詳細、ご購入はヤマハミュージックメディアの本書のページをご覧ください。
文/ 芹澤一美
photo/ 柏弘一郎
tagged: 長田暁二, 世界と日本の愛唱歌・抒情歌事典, ブックレビュー
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