今月の音遊人
今月の音遊人:渡辺真知子さん「幼稚園のころ、歌詞の意味もわからず涙を流しながら歌っていたのを覚えています」
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「その学び方で本当にいいの?」楽器を学ぶ姿勢に一石を投じる書/自分の音で奏でよう!~ベルリン・フィルのホルン奏者が語る異端のアンチ・メソッド演奏論~
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2017.2.9
tagged: ブックレビュー, 自分の音で奏でよう!
「教えられること」と「実際の演奏に必要なこと」が違う。一流のプロ奏者が、自分では実際にやっていないことを教えている……。そんなことを言われたら、楽器を勉強している人は青ざめてしまうかもしれない。ベルリン・フィルで30年以上にわたりホルン奏者を務め、世界各国の若手音楽家の育成に尽力してきた本書の著者、ファーガス・マクウィリアム氏はこうした矛盾を感じ、演奏家としての活動と並行して後進の指導にも携わるなかで「本当に効果的なホルンの学習法」を実現するための戦略と、いろいろな練習法や考え方を比較するための視点を伝えている。そして、伝統的なホルン教授法を再検証する機運を高めたいと本書を著した。
著者はまず、「そもそもホルンを教える必要などないのではないか」と問いかける。子どもが言語を習得していくとき、イントネーションや文法を感覚的につかみ、コミュニケーション能力を身につけていくのと同じように、教師が演奏するのをじっと観察し、その響きに耳を傾け、真似をすればいいというのだ。師の奏でる音から必要な情報はすべて得られるはずだというのだ。
しかし、楽器を習得しようとする人のほとんどは、習うことに疑いを持たない。著者はそのことを「自分の耳で聴くことを封印し、教わるという不利な立場からスタートすることを自分で選択してしまう」と指摘する。
なぜ教わることが不利なのか。教える側は生徒に対して最善を尽くすものだが、それはあくまで個人的、主観的だから限界がある。そこを考えないと、生徒自身が自分をだめにしてしまう、と断ずる。生徒は「自分の進歩に最終的な責任を持たねばならない」という提言は、ホルンに限らず、すべてに通じることでもある。
楽器に向かう姿勢に続き、「相対性ホルン論」というひねりのあるタイトルの第3章では「音楽的な選択と決定は、状況に応じて相対的になされるべき」と力説。たとえば、ホルンらしい魅力ある音色を奏でるうえでの「正しい右手の位置」。「どんな音が必要かによって右手の位置は変わる」が答えであり、「ひとつの正しい右手の位置は存在しない」という。そのうえで、楽器の構え方、いろいろな手の形を試してみる方法などを提示して、心躍る音をつくるのは演奏者の判断だと伝える。
こうした俯瞰的な立場で、アンブシュアや呼吸法、そして「毎日のトレーニングに組み込めば、間違いなく上達が速く、堅実なテクニックを維持できる」という効果的なエクササイズにも触れる。また、現役のベルリン・フィルの団員による「オーディション」の戦術など(第6章)も興味をそそられる。
「自分らしいホルンを吹こう!」と呼びかける著者が、音楽の本質に迫る数々の言葉を通して、音楽を学ぶ、あるいは教える人たちに勇気を与えてくれる1冊だ。
『自分の音で奏でよう!〜ベルリン・フィルのホルン奏者が語る異端のアンチ・メソッド演奏論〜』
著者:ファーガス・マクウィリアム
発売元:ヤマハミュージックメディア
発売日:2016年1月21日
価格:2,700円(税抜)
詳細、ご購入はヤマハミュージックメディアの本書のページをご覧ください。