Web音遊人(みゅーじん)

岩崎宏美

苦難を乗り越えてきたからこそ歌える人生讃歌。辛い出来事も笑顔に変えるアルバム『Hello! Hello!』/岩崎宏美インタビュー

喜びも、悲しみも、また人生。岩崎宏美のニューアルバム『Hello! Hello!』は、どんな人にも前向きに生きる力を与えてくれる一枚だ。高校生でデビューし、歌手人生の前半こそ順風満帆だったが、その後は離婚や子供との別れ、喉のポリープ手術など過酷な運命に翻弄されてきた。それでも今、「修行みたいなものですよね」と、カラッと振り返る彼女。さまざまな経験を経てきたからこその優しさにあふれ、芯の強さが感じられる作品となった。

歌手としての決意に満ちた壮大な40周年記念曲『光の軌跡』、病気と戦う身近な人たちのことを思って自ら詞を書いた『大切な人』など、ここ数年に発表した曲に加え、4つの新曲を収めた。中でも思い入れのある一曲が『シアワセ色』という歌だ。
バックバンドの演奏を収録するためのレコーディングの日、小林麻央さんが亡くなったというニュースを知った。「お会いしたことはないけれど、すごく応援していたのでとてもショックでした。彼女の無念と歌詞がリンクして、その日は麻央さんの顔が頭から離れなかった」と振り返る。そして歌唱を収録する日には、「自分が歌手をやめるときには、この歌を家族に残したい」という気持ちを胸にスタジオに入ったという。「そんな思いで歌った歌は今までなかった。人生、いつ何があるか分からないから」。実感のこもった渾身の歌声を吹き込んだ。

実際、岩崎は何度となく歌手人生の危機に見舞われてきた。40代でポリープ摘出手術を受けたが、実はポリープ自体はミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演するたびにできていたという。「演じたファンティーヌという役は、私の音域より広いのです。地声を求められても無理で、代わりになる歌い方を試行錯誤して見つける中で喉に負担をかけてしまっていたのです」。ポリープでドクターストップがかかった日の壮絶な体験は、ありありと覚えている。「神戸のコンサートの最中、『みなさんこんにちは』と言った時のガラガラ声にお客様全員が気づいたのです。その瞬間、客席がドーンと後ろに下がっていったように見え、私の頭の中は真っ白になって……」

以来、声を維持するために涙ぐましい努力を続けている。喉が疲れたら話すことをやめ筆談に切り替えたり、違和感があったらすぐ耳鼻科に駆け込んだり。その背景にあるのは、ポリープ手術の担当医のこんな言葉だった。「声には寿命があるんだよ」
使えば使うほど消耗してしまう声で勝負し続けなければならない歌手とは、何と過酷な職業だろう。1975年、16歳でデビューし、『ロマンス』『聖母たちのララバイ』など数多くの名曲を歌う岩崎の澄み切った瑞々しい声に国民は魅了された。
若き日の歌声のままでありたいと願うのは、本人なら尚更だろう。「歌をやめてもいいと思うほど新妻業に夢中になっていた」という結婚、そして離婚を経て30代で本格復帰した時、以前と同じように歌いたいという思いが頭にこびりついて、喉を酷使してしまったという。「女性は年を重ねると声は低くなるし、音域が変わってくるのは当然ですけれど、それを認識するまでにはしばらく葛藤があった」

岩崎宏美

今の歌声はというと……あの頃と変わらず驚くほど瑞々しいのだ。「『ロマンス』は16歳の時の譜面を使っていますよ。でも、前のようにすべて地声では歌えない。声を裏返しているんですけど、何とかそう聴こえないように歌っているだけなんです」。声や肉体のさまざまな衰えを認識しつつ、心の調子を整えて、人生を感じさせる詞の深みのある言葉を伝える。「若い時はそんなこと考えなくても歌えたんですよ。でも今は、考えないと歌えない。気分も、声も、全てこだわらないと」

それでも、「前より歌が好き。楽しい」と語る。「毎回のコンサートの歌の感じ方が自由だから。その日の気分でしゃべることも歌うことも新鮮。パッと舞台が開いて、前の方に座っているお客様の様子を見て、こんな方がいらしているんだ、きっと初めてなのかなあとか、いろんなこと考えながら。この間、アンコールの最後の一曲という時に、入っていらした方がいたんですよ。『今来たんですか?』と、思わず言っちゃった(笑)」

人生の酸いも甘いもかみ分け、決して思い通りにいかないことも知り尽くした今だからこそ、日々、一つ一つの小さな発見に感動できるのだろう。「生きている限り、みんな笑顔で頑張ってもらいたいというのがモットー。歌はそのためのもの。私の歌を聴いて、もう一回前向きになりました、元気をもらいました、恋愛をしていた頃のことを思い出しました、と言ってもらえることがうれしい」。『Hello! Hello!』は、まさにそんな思いが詰まった作品だ。

「レコードの日」である11月3日には、『Hello! Hello!』と、2016年に発表した、ピアニストの国府弘子との共演アルバム『Piano Songs』がアナログ盤となって発売された。「これで育ちましたからね。ものすごく音がいいとみんな言ってくれますよ」と、美しいジャケット写真が一層映える2枚のレコードを手に、笑顔を見せてくれた。

■アルバムインフォメーション

『Hello! Hello!』
Hello! Hello!
発売元:テイチクエンタテインメント
発売日:2017年8月16日
料金:3,000円(税込)

『Hello! Hello!』/『Piano Songs〜Edited for LP〜』(アルバムLP/30cm)
『Hello! Hello!』/『Piano Songs〜Edited for LP〜』
発売元:テイチクエンタテインメント
発売日:2017年11月3日
料金:各3,780円(税込)

詳細はこちら

■岩崎宏美コンサートツアー『Hello! Hello!』

全国各地で開催中
詳細はこちら

 

特集

沖仁さん

今月の音遊人

今月の音遊人:沖仁さん「憧れのスターに告白!その姿を少年時代の自分に見せてあげたい」

10795views

ショスタコーヴィチ「交響曲第12番」とイーグルスと浜田省吾、それぞれの“希望ヶ丘ニュータウン”

音楽ライターの眼

【クラシック名曲 ポップにシン・発見】(Phase5)ショスタコーヴィチ「交響曲第12番」とイーグルスと浜田省吾、それぞれの“希望ヶ丘ニュータウン”

1359views

STAGEA(ステージア)ELB-02 - Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

エレクトーンで初めてオーディオファイル録音機能を装備

12824views

楽器のあれこれQ&A

講師がアドバイス!フルート初心者が知っておきたい5つのポイント

17151views

桑原あい

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若きジャズピアニスト桑原あいがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

14963views

楽器博物館の学芸員の仕事 Web音遊人

オトノ仕事人

わかりやすい言葉で、知られざる楽器の魅力を伝えたい/楽器博物館の学芸員の仕事(後編)

8167views

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

ホール自慢を聞きましょう

武満徹の思い「未来への窓」をコンセプトに個性的な公演を/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

13585views

こどもと楽しむMusicナビ

“アートなイキモノ”に触れるオーケストラ・コンサート&ワークショップ/子どもたちと芸術家の出あう街

6605views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

12463views

われら音遊人ー021Hアンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:元クラスメイトだけで結成。あのころも今も、同じ思いを共有!

4782views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

音楽知識ゼロ&50代半ばからスタートしたサクソフォンのレッスン

7537views

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにサルサ!キューバ音楽に会いに行く旅

24634views

ホルンの精鋭、福川伸陽が アコースティックギターの 体験レッスンに挑戦! Web音遊人

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ホルンの精鋭、福川伸陽がアコースティックギターの体験レッスンに挑戦!

10403views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

世界の民族楽器を触って鳴らせる「小泉文夫記念資料室」

21624views

音楽ライターの眼

ユニフォームが新作『SHAME(シェイム)』を発表。ノイズ・ロックの破壊衝動の向かう先へ

3509views

鬼久保美帆

オトノ仕事人

音楽番組の方向性や出演者を決定し、全体の指揮を執る総合責任者/音楽番組プロデューサーの仕事

1830views

上海ブラスバンド日本支部

われら音遊人

われら音遊人:上海で生まれた縁が続く大家族のようなブラスバンド

1779views

トランスアコースティックピアノ™

楽器探訪 Anothertake

音量の問題を解決し、ピアノの楽しみを広げる「トランスアコースティックピアノ」

3718views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

20084views

山口正介 - Web音遊人

パイドパイパー・ダイアリー

この感覚を体験すると「音楽がやみつきになる」

8132views

初心者におすすめのエレキギターとレッスンのコツ!

楽器のあれこれQ&A

初心者におすすめのエレキギターと知っておきたい練習のコツ

21050views

ズーラシアン・フィル・ハーモニー

こどもと楽しむMusicナビ

スーパープレイヤーの動物たちが繰り広げるステージに親子で夢中!/ズーラシアンブラス

13235views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

28815views