Web音遊人(みゅーじん)

武田真治インタビュー

今月の音遊人:武田真治さん「人生を変えた、忌野清志郎さんとの出会い」

高校生2年のときに「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを獲得。以降はテレビドラマやバラエティ番組、映画、舞台などで活躍してきた武田真治さん。一方で、個性が光るサクソフォンプレイヤーとしても注目を集め、多くのミュージシャンたちと共演してきました。常に音楽に対して敏感な武田さんの好きな曲や音楽観、これまでの活動を支えてくれた大切な人などについてうかがいます。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

何度も聴いた曲であり、人生において大切にしている曲になりますが、RCサクセションの『トランジスタ・ラジオ』は自分を救ってくれた曲でもあると思っています。
芸能活動で多忙な中、20代後半の大切なときに体調を崩してしまい、周囲の期待に応えられなくなった時期がありました。同世代の他の俳優さんたちが多く活躍していた時代でもあったので、自分一人だけが芸能界の賞レースから振り落とされたような惨めで悔しい気分になっていたのです。顎関節症が体調不良の大きな原因だったこともあり、医者にもサックスという吹奏楽器は将来的にも難しいと言われ絶望していました。
そんな時、忌野清志郎さんに声をかけていただき、万全ではなかった僕を忌野清志郎の3ピースバンド “プラスアルファ”という形で「ラフィータフィー」というバンドに参加させてくださいました。ライブではRCの曲もごく数曲レパートリーに入っていて、そこで初めて出逢った『トランジスタ・ラジオ』という曲には、学校の授業をさぼり、陽の当たる場所でのんびり寝転んでラジオから流れてくるまだ誰も知らない音楽に耳を傾け想いを馳せる様子が描かれていて、それは芸能界をちょっとさぼってバンドマン生活を送り、遠くまで自転車を走らせ清志郎さんの歌を噛み締めている自分に重なりました。芸能界の尺度では計れない、素晴らしい体験が世の中にはたくさんあるんだと気がつき、休んでいるこの時間も大切にしようと、いや伝説のロッカーと過ごしているこの時間こそ大切にしようと思えました。
地に足の着いた生活が僕の体調を回復させてくれたこともあり、それ以来自分にとっては大切なことを常に思い起こさせてくれる、かけがえのない歌になっています。

武田真治インタビュー

Q2.武田さんにとって「音」や「音楽」とは?

音楽を語る以前に、サックスという楽器についてですが、サックスは自分をユニークな存在にしてくれるものだと思っています。同世代でがんばっている素晴らしい表現者はたくさんいらっしゃいますけれど、サックスが自分をほんの少しだけ特別な存在にしてくれているように思えるのです。 サックス・プレイヤーとしても、前のめりのタイミングで音を出したり、少しくらい音がひっくり返ったとしてもそれをハーモニクスとしてフレーズに落とし込めるような吹き方など、自分なりの表現ができることで自信になりますし、それを支えるための体力作りもまた、俳優業にフィードバックしている気がします。

体調を崩したときには、自分はまだサックスでやりたいことがある、表現したいことがあるんだと思い、それが心の支えや励みになりました。 お芝居の仕事では演出家の方や周囲のスタッフなどの要望に精一杯応えることのほうが、自分が思う自分の個性を必要以上に出すことよりも尊いことがわかってきました。他の人に委ねることで「武田真治」のイメージを利用したり裏切ったりしながら、新しいものが生まれる可能性もありますから。音楽では、こうしたい、こんなサックスを吹きたいというイメージが強くありますし、自分個人のアイデンティティをアピールできる最高で最強の表現手段なのだと思っています。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人をイメージしますか?

これも、忌野清志郎さんのことを思い浮かべてしまいます。活動をご一緒したときに、あらためて彼のいろいろな曲を聴きました。恋愛の歌ももちろんありますが、社会を風刺するような曲もたくさん作っていて、きっとどれもが真剣な遊びなんですね。

RCサクセションの歌に『雨上がりの夜空に』という大ヒット曲がありますが、その中にお月様をジンライムに例えた印象的なフレーズが出てきます。清志郎さんと初めて飲んだとき、僕は「ああ、ここはジンライムを飲まないと!」と思ってオーダーしたら、清志郎さんから「ねえ、ジンライムってどんな味がするの?」というまさかのひと言が出たんです。飲んだことなかったらしいんですね。僕はびっくりしてしまったのですが、あの歌詞は清志郎さん流の言葉遊びだったのでしょう。 何をするときでも、清志郎さんは遊んでいるんだなと思って感激したことを、今でも想い出します。本当に素敵な人でしたし、ステージの上で一緒に演奏した時に見ていたあの美しい背中から今でもたくさんのことを学び続けています。

武田真治〔たけだ・しんじ〕
俳優、サクソフォンプレイヤー。愛称は「シンディ」。北海道札幌市生まれ。1989年、高校在学時に「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でグランプリを受賞し、1990年にドラマ『なかよし』で俳優デビュー。その後、映画『七人のおたく』『御法度』、ドラマ『南くんの恋人』などに出演し、人気俳優に。1995年、シングル『Blow up』でミュージシャンデビューし、サクソフォンプレイヤーとしても活躍。2018年10月10日にはアルバム『SHU-HA-RI』をリリース。現在はNHK『みんなで筋肉体操』の出演や、文化放送ラジオ『楽器楽園〜ガキパラ〜for all music-livers』のパーソナリティなど、幅広いジャンルでの活動が話題を集めている。
武田真治ホリプロオフィシャルサイト http://www.horipro.co.jp/takedashinji/

 

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