Web音遊人(みゅーじん)

今月の音遊人:谷村新司さん「音がない世界から新たな作品が生まれる」

ソロ活動でファンの心を捉え続ける一方、2019年5月からは「アリス」として全国ツアーをスタートする谷村新司さん。新曲『限りなき挑戦-OPEN GATE-』とツアー演奏曲目を収録したニューアルバムもリリースするなど、70歳を迎えてなお意欲的に挑戦を続けています。その活動の源や音との関わり方、人生を重ねてきたからこその体験などをうかがいました。

Q1.これまでの人生の中で、一番多く聴いた曲は何ですか?

うーん……。僕の場合、何か一曲に思い入れがあり、それが今の自分に影響を与えているというようなことはないような気がします。
アーティストには、それぞれ色がありますよね。若い頃の僕はひとつの色じゃないことに憧れていたので、赤だと思われたら絶対にきれいな青を出したいと思ってきたんです(笑)。そういう意味では反逆児ではあったかもしれないけれど、気がつけば総天然色。それが、もっとも自分らしい生き方だと感じていました。
でも、こうやって質問されてふと思い出したのが『家路』です。ドヴォルザークの『新世界より』第2楽章のメロディーを基にした曲ですね。
小・中学校の下校時に毎日流れていたので、意識して聴いていたわけではないのですが、気が付くと自然に体の中に入っていたように思います。
僕はライブでも『家路』を使用することがあるのですが、そう考えればその理由も納得がいきます。知らず知らずのうちに自分に沁み込んだその曲には、今思えばメロディーがもつ郷愁や日本語の詩など、琴線に触れる部分がたくさんあるんですよね。作品をつくる際にイメージをするときも、もしかしたら頭のなかでこの曲が鳴っていた時もあったかもしれません。

Q2.谷村さんにとって「音」や「音楽」とは?

音に包まれているときには音がすべてでありたいと常に思っていますし、音から離れたときには音がない場所にいたいと思うんです。だから僕は、絶えず音楽を聴いているという状況はとても少ないですね。音にものすごく入り込んでいるか、音のないところにいるか。その振り子の揺れ幅が、自分にとってとても心地いいんです。
創作活動をしているときやリハーサル、ライブ……、音と向き合う時間が終わると、静かな場所に行きたくなります。日本にも静かな場所がたくさんあり、そういったところに身を置くと、音がないことへの驚きを覚えるんです。すると、ふと音が浮かんできたり、こういう音楽が聴きたいから作ろうと思ったり。僕が作った曲は、ほとんどがそうやって生まれたものです。

Q3.「音で遊ぶ人」と聞いてどんな人を想像しますか?

真っ先に子どもをイメージします。実は、人は遊んでいるときが一番真剣だと思うんです。遊んでいるときは、時間がふっ飛びますよね。真剣に遊んでいれば、時間を越えられる。ただ、大人になるとなかなかそうはいかないので、子どものようにとめどなく真剣に遊べることに憧れますね。
そしてもうひとつ、「音で遊んでいる」のかどうかはわかりませんが、ここ15年ぐらいの間に何度も不思議な体験をしました。
自然に囲まれた野外でのライブでのこと。ステージに向かって歩いていると、目の前を蝶々がひらりひらりと舞い、会場まで導いてくれているようでした。最初は単なる偶然だと思っていたのですが、そんなシーンが何度もあり、そのうち道案内をしてくれているのかなと思うようになりました。
そして、アカペラで歌い始めると、いきなり鳥やセミがいっせいに鳴き始めるんです。驚きと感動でした。これは僕に限ったことではなく、音に携わっている人ならみんな体感できる可能性があるのではないかと思います。
そのころから、音楽は理屈で考えるのではなく、感覚でいいのだと思えるようになりましたね。そして、音が持っている力はすごいと思っています。

谷村新司〔たにむら・しんじ〕
音楽家/上海音楽学院教授。1948年大阪府生まれ。1971年、堀内孝雄、矢沢透と「アリス」を結成し、1972年3月、『走っておいで恋人よ』でデビュー。『冬の稲妻』『帰らざる日々』『チャンピオン』など数多くのヒット曲を出し、1981年に活動停止。その後ソロ活動を開始。『いい日旅立ち』『昴』『群青』『サライ』など、日本のスタンダードナンバーともいえる楽曲を多数発表。中国をはじめアジアでの活動をライフワークとして続ける一方、1988年からの3年間は国立パリ・オペラ座交響楽団などと共演。2004年3月、上海音楽学院教授に就任。現在もアーティスト活動を続けながら、中国を中心としたアジアにおける青少年のポップカルチャーの育成に務める。
2019年にアリスを再始動、5月から全国ツアー「ALICE AGAIN 2019-2020 限りなき挑戦 -OPEN GATE―」がスタート。
谷村新司オフィシャルサイト http://www.tanimura.com/
ALICEオフィシャルウェブサイト http://alice1972.com/

 

特集

今月の音遊人

今月の音遊人:伊藤千晃さん「浜崎あゆみさんの『SURREAL』は私の青春曲。今聴くとそのころの記憶があふれ出ます」

6855views

スティーヴ・ヴァイ

音楽ライターの眼

スティーヴ・ヴァイがバイカー仲間の亡き友と作った『ヴァイ/ガッシュ』が発表

3372views

“銘器”のその先へ。次世代のフラグシップ―カスタムユーフォニアム「YEP-843(T)S」

楽器探訪 Anothertake

“銘器”のその先へ。次世代のフラグシップ——カスタムユーフォニアム「YEP-843S/YEP-843TS」

3647views

ピアノの地震対策

楽器のあれこれQ&A

いざという時のために!ピアノの地震対策は大丈夫ですか?

51785views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

14424views

仁宮裕さん

オトノ仕事人

アーティストの音楽観を映像で表現するミュージックビデオを作る/映像作家の仕事

15424views

しらかわホール

ホール自慢を聞きましょう

豊潤な響きと贅沢な空間が多くの人を魅了する/三井住友海上しらかわホール

16361views

こどもと楽しむMusicナビ

クラシックコンサートにバレエ、人形劇、演劇……好きな演目で劇場デビューする夏休み!/『日生劇場ファミリーフェスティヴァル』

8095views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

14592views

われら音遊人 リコーダー・アンサンブル

われら音遊人

われら音遊人:お茶を楽しむ主婦仲間が 音楽を愛するリコーダー仲間に

9234views

パイドパイパー・ダイアリー

パイドパイパー・ダイアリー

もしもあのとき、バイオリンを習っていたら

6440views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

35012views

おとなの楽器練習記

おとなの楽器練習記:注目の若手サクソフォン奏者 住谷美帆がバイオリンに挑戦!

10680views

小泉文夫記念資料室

楽器博物館探訪

民族音楽学者・小泉文夫の息づかいを感じるコレクション

11643views

ブラック・ウィドウ

音楽ライターの眼

悪魔に捧げるライヴ儀式。英国ロックの“影”の名バンド、ブラック・ウィドウのCDボックス発売

3345views

カッティング・エンジニア

オトノ仕事人

レコードの生命線である音溝を刻む専門家/カッティング・エンジニアの仕事

8317views

われら音遊人:Kakky(カッキー)

われら音遊人

われら音遊人:オカリナの豊かな表現力で聴いている人たちを笑顔に!

9424views

Disklavier™ ENSPIRE(ディスクラビア エンスパイア)- Web音遊人

楽器探訪 Anothertake

限りなく高い精度で鍵盤とハンマーの動きを計測するヤマハ独自の自動演奏ピアノの技術

28992views

サラマンカホール(Web音遊人)

ホール自慢を聞きましょう

まるでヨーロッパの教会にいるような雰囲気に包まれるクラシック音楽専用ホール/サラマンカホール

25801views

山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

クラス分けもまた楽しみ、レッスン通いスタート

5487views

楽器のあれこれQ&A リコーダー

楽器のあれこれQ&A

リコーダーを長く楽しむためのお手入れ方法

15248views

こどもと楽しむMusicナビ

1DAYフェスであなたもオルガン博士に/サントリーホールでオルガンZANMAI!

4155views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

11817views