音楽を学ぶ人、学んだ人たちに心からのエールを!(後編)
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ビジネスの世界でも大きな成果をあげつつ、あっさりと仕事を辞め、イタリア留学を決行した秋山さん。仕事の実績を積んでもなお、演奏家であり続けることは、秋山さんにとって重要なことだったという。音楽を学んだことのなかに、直接的にビジネスに役立っているものはあるだろうか。
- 秋山
- 2つあると思います。ひとつは、作曲家の残した楽譜から「作曲家はここで何を表現しようとしたのか」と読み取る力が、ビジネスでは相手の考え方などを察知する力につながっていると思います。プロジェクトを進めるなかで人間関係を円滑にする素養にもなっています。もうひとつは、オペラなどの舞台制作の経験がそのままビジネスに活かせるということです。歌手、オーケストラ、衣装や大道具などの舞台関係、ホール、マネジメントなど何百人という人がかかわって、決められた期日に幕を開けるという流れは、まさに新規事業の立ち上げプロジェクトそのものです。
- 大内
- 私が音大生の底力に着目したのも、まさにそういうところです。目標とする本番までの時間管理、どう人に見せるかというプレゼンテーション力、そして人との調整能力もとても高い。ですから、せっかく子どもの頃から学んだ音楽を、中学、高校の進学時に断念してしまうのは本当に惜しいのです。たとえば卒業後何年間かは会社に勤めながら資金を貯め、コンクールにも挑戦して演奏家のキャリアを築くとか、音楽教室の開業準備をするといった選択肢も考えられます。実際にその方法で成功している方もおられます。
- 秋山
- 就職する、というのは賛成ですね。その際、声楽と違ってピアノは若いうちにデビューする方がいいなど、専攻によってキャリア形成のための時間軸が異なることも考慮した方がいいと思います。それと職種を選ぶことも大切です。働くことで経験値が高まるような仕事が選べるといいですね。具体的なことは、働きながら音楽活動をしている先輩のアドバイスが役立つと思います。
- 大内
- なるほど。それと読書をたくさんして、そこから将来に向けて必要なものへと視野を広げてほしいと思います。演奏活動を続けるうえで、他にもアドバイスはありますか?
- 秋山
- 演奏し続ける選択肢を外さない生き方はたくさんあると思います。というのは、チームの人数が決まっているスポーツなどと違って、音楽家のポストは作り出せるからです。それには、高い演奏レベルをもってお客様が本当に聴きたいと思うコンサートを作ることが必要です。そのためにも、しっかりと音楽の勉強を続け、自分で考え、行動を起こしてほしいと思います。
- 大内
- 私は今、勤務する音大で会計学を教えていますが、それも音楽家として自立するうえでの武器になり得ると思います。演奏家も音楽教室の先生も、毎年税務署にはお世話になると思いますので(笑)。秋山さんのお話に、学生を教育する側としても大いに触発されました。
- 秋山
- こちらこそ、ありがとうございました。音楽を学ぶ人、学んだ人たちの活躍に期待して、心からのエールを贈りたいと思います!
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■プロフィール
大内孝夫(おおうち・たかお)
慶應義塾大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。証券部次長、いわき支店長などを歴任後、退職。現在、武蔵野音楽大学就職課主任兼会計学講師。趣味は中学時代から独学で学んだピアノ。オフタイムはショパンの楽譜と格闘中。フルートをたしなみ、ブラス・ジャンボリー2016に参加した。著書に『金融証券用語辞典』(共同執筆)『「音大卒」は武器になる』『「音大卒」の戦い方』『大学就職課発!! 目からウロコの就活術』がある。
秋山ゆかり(あきやま・ゆかり)
イリノイ州立大学卒業。ボストンコンサルティンググループで戦略コンサルタントを務めた後、イタリアへ声楽留学。帰国後、演奏活動をしながらGE Internationalの戦略・事業開発本部長や日本IBMの事業開発部長を歴任。2012年に独立し、事業開発コンサルティング、演奏を行なっている。著書に『ミリオネーゼの仕事術【入門】』『考えながら走る』がある。