今月の音遊人
今月の音遊人:上原彩子さん「家族ができてから、忙しいけれど気分的に余裕をもって音楽と向き合えるようになりました」
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目と耳でドビュッシーの人生と音楽を味わうおしゃれなガイドブック/『ドビュッシーと歩くパリ』
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2018.7.13
tagged: ブックレビュー, ドビュッシー, ドビュッシーと歩くパリ, 中井正子, パリ
20世紀初頭のフランスを代表する作曲家として知られるクロード・ドビュッシー。彼が暮らしたパリの街をガイドしながら、その人間性や人生模様、楽曲が作られた背景に迫ったのが、ドビュッシー演奏の第一人者として知られるピアニスト中井正子の『ドビュッシーと歩くパリ』(新装版/CD付き)だ。
パリ郊外の街で生まれたドビュッシーは、5歳のときに家族とともにパリへ越してから、市内で何度も転居しつつ人生の大半をパリで過ごした。彼が生きていた約150年前から、ほとんど変わっていない歴史あるパリの街。今でも彼が暮らしたアパルトマンや、ピアノの先生の邸宅、10歳から22歳まで通ったパリ音楽院(現・パリ国立高等音楽院)の校舎などが残っており、中井は足跡を一つ一つたどっていく。
裕福な家庭の出ではないが、並外れた音楽性を持ち、パリ音楽院のソルフェージュのクラスで、特別に賞が与えられるほど優秀だったドビュッシー。彼の楽曲は形式がないとされ、特にピアノ曲は自由気ままなテンポで演奏されがちだが、「ソルフェージュがよくできるということは、テンポの感覚も良いということだ。なんとなく自分らしい演奏をすればいいと誤解して、テンポやリズムを勝手に解釈されてしまったら、ドビュッシーは我慢できるだろうか」(本著より)と、ドビュッシーの音楽は意外にもリズム・テンポが緻密に作られており、音楽的な演奏にソルフェージュの正確さが不可欠であると中井は説く。
また、彼の作品に大きな影響を与えたのが、画家や詩人などの文化人との交流。本著では、楽曲『喜びの島』の発想の元になったアントワーヌ・ヴァトーの『シテール島への巡礼』(ルーヴル美術館収蔵)をはじめ、作曲のインスピレーションとなっただろう絵画や詩歌、パリの風景などと紐づけて楽曲が紹介されており、彼の音楽を理解するヒントを与えてくれる。
パリの街は、中井が17歳で留学し、自分の音楽をみつけた場所でもある。中井はドビュッシーの生涯を追うと同時に、自身がパリ国立高等音楽院で学んでいたときのエピソードや、パリで知り合った人達との思い出を織り交ぜつつ、暮らした者にしかわからない、とっておきのスポット、観光情報を教えてくれる。ときおり挟み込まれる、パリ在住のカメラマンによる雰囲気のある写真と、中井が自ら描いたイラスト地図も、一緒に旅している気分を盛り上げてくれるキーアイテムだ。
付属のCDには、『亜麻色の髪の乙女』『月の光』などの有名曲から最晩年の小品まで、選りすぐりの19曲が中井正子の演奏で収録されており、巻末には作品解説もある。ドビュッシーファンの人はもちろん、よく知らないという人も、CDを聴きながら彼の人生や彼が愛したパリの風景に思いを馳せれば、もっとドビュッシーのことが知りたくなる。そして、本著を片手にパリの街を歩いてみたくなることだろう。
『ドビュッシーと歩くパリ(CD付)』
著者:中井正子
発売元:アルテスパブリッシング
発売日:2018年4月20日
価格:2,200円(税抜)
文/ 武田京子
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