Web音遊人(みゅーじん)

ジャズとロックの関係性

ジャズにビートルズを溶かし込んだギターとストリングスの魔術~『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』解説

1967年6月、ウェス・モンゴメリーはニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオに赴いて収録を行なった。

オーケー・テイクは10曲。当時のLP盤で言うところの、A面5曲にB面5曲という構成だ。

両面のトップに据えられたのが、ビートルズ・ナンバーの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」と「エリナー・リグビー」だった。

とはいえ、ウェスのオリジナル(「エンジェル」)を含むほかの8曲はビートルズの曲ではなく、このあたりにも“おんぶにだっこ”的な印象を強めないようにというプロデューサーの配慮が感じられる。

むしろこのアルバムの特色は、ジャズのスタンダードと呼べる曲が「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」ぐらいというほど“ジャズ色”を薄めた選曲で、それまでのジャズの概念を覆そうという“主張”を意識してもらおうとの意図さえ感じる。

編成は、ギター・クァルテットにパーカッションをプラスしたコンボを軸に、ストリングス・オーケストラが加わるというスタイル。

クインテットには、マイルス・デイヴィス・クインテットで功名を立てていたハービー・ハンコックとロン・カーター、すでにトップ・ドラマーとして人気を博していたグラディ・テイトを招聘。

そこへ“コンガの巨人”レイ・バレットらパーカッショニスト3名を配して、ラテン・ジャズ寄りのリズミックなサウンドを目論んでいたことがうかがえる。

豪華なのがストリングスだ。12本のヴァイオリン、2本のヴィオラ、2本のチェロという、厚みを出しながらもウェスの太いギターの音域に被りすぎない編成。さらにフレンチホルンやフルート、ハープなどできらめき感を増幅させようという演出だろう。

このアレンジを担当したのが、ドン・セベスキー。

1937年生まれの彼は、トロンボーン奏者としてカイ・ウィンディング、クロード・ソーンヒル、トミー・ドーシー、メイナード・ファーガソン、スタン・ケントンといったバンドでキャリアを積み、1960年代には自分でアレンジした曲の指揮をする活動を始めていた。クリード・テイラーもこうした彼の活動に着目して、ヴァーヴ・レコード時代から彼を起用するようになったのだと思われる。

ちなみに『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』を制作した1967年のウェス・モンゴメリーは44歳、対するドン・セベスキーは30歳という若さだった。また、ポール・マッカートニーは25歳、ジョン・レノンは27歳だったから、クリード・テイラーのアタマのなかでは、ウェスがラテン・ジャズなテイストのなかでリラックスして弾いた演奏を、ビートルズ世代と言っていいドン・セベスキーにうまく“包んでもらおう”と考えていたに違いない。

A面1曲目、アルバム・タイトルにもなっている「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」は、ベースのルートとピアノのリフレクションでブルージーさを保ちながらも、リズムにはコンガの細かいアクセントを入れて、いわゆる4拍子のブルースとは異なるテイストを醸し出している。

そこにストリングスを、べったりと貼り付けるのではなく、効果音のように混ぜ込ませようとしているところが、従来のジャズに見られた“ウィズ・ストリングス”とは一線を画するところだ。ヴァイオリンよりもハープをクローズアップさせているのも斬新。

B面トップの「エリナー・リグビー」は、逆にイントロを弦楽奏でまとめ、オーソドックスにギター・コンツェルト風なアプローチのなかでウェス・モンゴメリーにメロディを委ねている。

ただ、全体を通してコンガがリズムをキープし、クラシック側にもジャズ側にも振れすぎない“楔(くさび)”となっているところが、この曲のポイントだ。

ヒット曲をカヴァーして注目されればいい、ジャズの殻を破るためにストリングス・アレンジで目先を変えればいい――といった単純な思考では、ウェス・モンゴメリーは動こうとせず、クリード・テイラーも満足しなかったのだろう。

それを超えようとしたマジックがあったからこそ、このアルバムは1967年を象徴するアルバムとして、ジャズ・チャートの1位、R&Bチャートの2位、総合チャートの13位という結果を残すことができたのだ。

今回で、ジャズとビートルズの邂逅を巡る考察はひとまず終えたい。が、ジョン・コルトレーンとビートルズの関係がまだ棚上げだったかな?

富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
富澤えいちのジャズブログ富澤えいちのジャズ・ブログ道場Facebook

 

特集

広瀬香美さんインタビュー

今月の音遊人

今月の音遊人:広瀬香美さん「毎日練習したマライア・キャリーの曲が、私を少し上手にしてくれました」

5663views

音楽ライターの眼

スペース・ジャズ神サン・ラー主演SF映画『スペース・イズ・ザ・プレイス』2021年1月公開

640views

P-515

楽器探訪 Anothertake

ポータブルタイプの電子ピアノ「Pシリーズ」に、リアルなタッチ感が得られる木製鍵盤を搭載したモデルが登場!

21236views

楽器のあれこれQ&A

きっとためになる!サクソフォンの基礎力と表現力をアップする練習のコツ

6106views

バイオリニスト石田泰尚が アルトサクソフォンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】バイオリニスト石田泰尚がアルトサクソフォンに挑戦!

7702views

テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

オトノ仕事人

【サインCDプレゼント】テレビや映画の映像を音楽の力で何倍にも輝かせ、人の心を揺さぶる/劇伴作家の仕事

8819views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

12375views

東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

こどもと楽しむMusicナビ

子ども向けだからといって音楽に妥協は一切しません!/東京交響楽団&サントリーホール「こども定期演奏会」

5587views

民音音楽博物館

楽器博物館探訪

16~19世紀を代表する名器の音色が生演奏で聴ける!

7559views

われら音遊人:「非日常」の充実感が 活動の原動力!

われら音遊人

われら音遊人:「非日常」の充実感が活動の原動力!

5156views

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい 山口正介

パイドパイパー・ダイアリー

『チュニジアの夜』は相当に難しいが、次回のレッスンが待ち遠しい

3114views

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする Web音遊人

音楽めぐり紀行

太平洋に浮かぶ楽園で、小笠原古謡に恋をする

5502views

ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

おとなの楽器練習記

【動画公開中】ぱんだウインドオーケストラの精鋭たちがバイオリンの体験レッスンに挑戦!

9336views

上野学園大学 楽器展示室」- Web音遊人

楽器博物館探訪

伝統を引き継ぐだけでなく、今も進化し続ける古楽器の世界

8113views

音楽ライターの眼

若き精鋭ふたりに、耳も目もぐいぐい引き込まれる/三浦文彰&ヨナタン・ローゼマン デュオ・リサイタル

1714views

重田克美

オトノ仕事人

スポーツやイベントの会場で、選手やお客様のためにいい音環境を作る/音響エンジニアの仕事

4529views

われら音遊人:クラノワ・カルーク・ オーケストラ

われら音遊人

われら音遊人:同一楽器でハーモニーを奏でる クラリネット合奏団

4355views

【楽器探訪 Another Take】人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

楽器探訪 Anothertake

人気のカスタムサクソフォンが13年ぶりにモデルチェンジ

6786views

ザ・シンフォニーホール

ホール自慢を聞きましょう

歴史と伝統、風格を受け継ぐクラシック音楽専用ホール/ザ・シンフォニーホール

12375views

パイドパイパー・ダイアリー

こうしてわたしは「演奏が楽しくてしょうがない」 という心境になりました

5100views

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ

楽器のあれこれQ&A

購入前に知っておきたい!電子ピアノを選ぶときのポイントとおすすめ機種

17389views

Kitaraあ・ら・かると

こどもと楽しむMusicナビ

子どもも大人も楽しめるコンサート&イベントが盛りだくさん。ピクニック気分で出かけよう!/Kitaraあ・ら・かると

2910views

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅 - Web音遊人

音楽めぐり紀行

ポロネーズに始まりマズルカに終わる、ショパンの誇り高き精神をめぐるポーランドの旅

19073views