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国際的に活躍を続ける三浦文彰、ピアノ界の新星との共演/三浦文彰 モーツァルト:バイオリン・ソナタプロジェクト Vol.1
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2019.12.17
若手ヴァイオリニストの雄、三浦文彰による「モーツァルト:バイオリン・ソナタプロジェクト」が始まった。初回のこの日のピアニストは、妹の三浦舞夏。2019年春、音楽大学を卒業した新星で、研鑽を積みながら演奏活動に注力していくそうだ。
プログラムは、モーツァルト(1756~91、オーストリア)の20代前半から後半にかけての作品から4曲をピックアップしたもの。昨今、ヴァイオリン・ソナタといえば「ヴァイオリン奏者がピアノの伴奏でソロ演奏する曲」と思われがちだが、時代的流行などもあり、そうとは限らない。モーツァルトの場合、初期(7~10歳)の作品は「ヴァイオリンと演奏することもできるクラヴィーアのためのソナタ」で、ヴァイオリンはあくまで助奏役。しかし10年のブランクを経て成人してからの作品は、ヴァイオリンの比重が次第に大きくなっていき、やがて両者は対等のパートナーに。
この日は、そんな変化を楽しめる趣向らしく、前半は22歳の頃のK.301(293a)とK.296の2曲。家族や友達など、親しい者同士の楽しい会話を連想する曲調だ。モーツァルトは、マンハイム・パリ旅行の途上でこれらを作っている。母を伴って仕事探しの旅だった。K.301(293a)は、ロマンチックな希望に満ちた響きのヴァイオリンに、ピアノが子猫のようにじゃれつくかのように始まり、次第に双方がなじんでいった。K.296は、ヨハン・クリスティアン・バッハのアリア「甘きそよ風」をモチーフにした第2楽章のヴァイオリンとピアノの呼応が美しい。2人の演奏は「若手の旗手として気を吐く兄とその胸を借りて懸命に演奏する妹」といった風情で、いずれも、希望を抱いて旅に出たモーツァルトの意気揚々とした姿が浮かぶ心地がした。もっとも神は残酷と言おうか、直後にパリで母が急死し、さらに失恋の追い打ちもあって、ボロボロの精神状態で故郷ザルツブルクに帰り着くのだが。
休憩をはさんで、後半の最初はK.377(374e)。モーツァルトが宮廷音楽家を辞めて独立した25歳の作品である。ヴァイオリンとピアノの下降旋律が呼応する第1楽章、カノン風の第2楽章、ピアノの分散和音が華やかな第3楽章、いずれも文彰のヴァイオリンが微妙なニュアンスを醸し、勢いをコントロールしつつ展開していく。最後のK.454に至っては、結婚してウィーンを拠点に大活躍する28歳のモーツァルトが、当時の人気女性名手との共演用に作っただけあって、ヴァイオリンが終始エピソード風の旋律を担い、もはや文彰の独壇場といった風情。軽妙かつ情趣に富んだ響きが、ピアノと手を携えたりシンクロしたりしつつ進行する。
文彰、舞夏のふたりと同じ年頃にモーツァルトがこれらを作っていたのだと思うと、プログラムがより意味深く感じられるのは私だけではないだろう。文彰はソロやコンチェルトはもとより、室内楽で弾き振りしたり、音楽祭のアーティスティック・リーダーを務めたりして躍進的に活動の幅を広げている。舞夏はそんな背中を追いかけながら、レパートリーを広げ、どんなカラーを見つけ出すのだろうか。
原納暢子〔はらのう・のぶこ〕
音楽ジャーナリスト・評論家。奈良女子大学卒業後、新聞社の音楽記者、放送記者をふりだしに「人の心が豊かになる音楽情報」や「文化の底上げにつながる評論」を企画取材、執筆編集し、新聞、雑誌、Web、放送などで発信。近年は演奏会やレクチャーコンサート、音楽旅行のプロデュースも。書籍「200DVD映像で聴くクラシック」「200CDクラシック音楽の聴き方上手」、佐藤しのぶアートグラビア「OPERA ALBUM」ほか。
Lucie 原納暢子