今月の音遊人
今月の音遊人:NOKKOさん「私の歌詞の原点は、ユーミンさんと別冊マーガレット」
18434views
超絶テクニカル・プログレッシヴ集団、リキッド・テンション・エクスペリメントが新作『LTE3』を発表
この記事は4分で読めます
4007views
2021.2.24
tagged: 音楽ライターの眼, リキッド・テンション・エクスペリメント
リキッド・テンション・エクスペリメントが22年ぶりの新作『LTE3』を発表する。
マイク・ポートノイ(ドラムス/サンズ・オブ・アポロ、トランスアトランティック、元ドリーム・シアター)、ジョン・ペトルーシ(ギター/ドリーム・シアター)、ジョーダン・ルーデス(キーボード/ドリーム・シアター)、トニー・レヴィン(ベース/キング・クリムゾン、ピーター・ゲイブリエル他)というメタル/プログレッシヴ・ロック界の歴戦のスーパー・テクニカル・プレイヤー達が集結したこのプロジェクトによる新作のニュースは、世界中のファンを驚かせ、喜ばせている。
2020年の新型コロナウィルスの猛威によって、エンタテインメント業界は甚大な被害をこうむった。ドリーム・シアターも2020年2月のヨーロッパとイギリスのツアーを最後にすべてのライヴが中止となり、予定されていた5月の日本公演も10月に延期となり、結局中止となってしまった。
その後メンバー達は自宅待機を余儀なくされたが、彼らが何もせずにいたわけではない。パンデミック以前から着手していた音源を含め、数々の作品が発表されている。
ドリーム・シアター本隊の『ディスタント・メモリーズ〜ライヴ・イン・ロンドン』は2020年2月の英国ロンドン公演を収めたライヴ・アルバム/映像作品だ。『メトロポリス・パート2:シーンズ・フロム・ア・メモリー』(1999)を完全再現、最新アルバム『ディスタンス・オーヴァー・タイム』(2019)からの曲も披露するライヴは、もし日本公演が実現していたら、似た構成になっていたとジョン・ペトルーシも証言している。
そのジョンは15年ぶりのソロ・アルバム『ターミナル・ヴェロシティ』を発表。超絶テクニカル・ギターに加えてウェットな泣きのプレイ、ブルース的なフレーズも聴かせるなど、彼の多彩なスタイルを楽しむことが出来る。
そして『ターミナル・ヴェロシティ』で久々にジョンと共演して話題を呼んだのが、ドラマーのマイク・ポートノイだ。2010年にドリーム・シアターを脱退、サンズ・オブ・アポロの一員としてアルバム『MMXX』を発表したマイクだが、それに加えてニール・モース・バンド『The Great Adventour: Live In Brno – 2019』、トランスアトランティックの『ジ・アブソルート・ユニヴァース〜生命の息吹』、ニール・モースとのカヴァー・プロジェクト『Cov3r to Cov3r』、オーヴァーキルのボビー“ブリッツ”エルワースらとのプロジェクトBPMDでの『アメリカン・メイド』など、凄まじいワーカホリックぶりを見せている。
トニー・レヴィンは2020年2月から3月に予定されていたスティックメンでの来日が中止になってしまったが、自らが撮影した写真集『Images From A Life On The Road』を刊行するなどの多忙ぶりだ。
ジョーダンもソロ活動を行い、2021年5月に小規模会場でソロ・ツアーを行うことを発表するなど、ハード・ワーキングなところを見せている。
そんなスケジュールの間隙を縫ってジョン、マイク、トニー、ジョーダンが創り上げたのが、リキッド・テンション・エクスペリメントの『LTE3』である。
『リキッド・テンション・エクスペリメント』(1998)、『LTE2』(1999)以来となるニュー・アルバムは2020年7月下旬、2週間をかけてレコーディングされた。4人は必要な検査を受けた後、スタジオに集結してジャムを行っている。まさに“超音速”というタイトルがピッタリの『ハイパーソニック』から息を呑む壮絶なテクニカル・プレイで、握りしめた拳が汗するスリリングな展開が繰り広げられる。アルバムから先行リーダー・トラックとして発表された『ザ・パッセージ・オブ・タイム』は彼らがスタジオに集まった最初の曲で、ドリーム・シアターを思わせるヘヴィなリフと複雑な展開で押していく。
本作の最大のサプライズのひとつは、ジョージ・ガーシュウィン作で1924年に初演された『ラプソディ・イン・ブルー』がカヴァーされていることだ。さほど熱心な音楽ファンでなくとも主旋律はおなじみのスタンダード曲だが、彼らは13分を超えるロング・ヴァージョンへと生まれ変わらせている。
テクニックの応酬はもちろんだが、終盤『シェイズ・オブ・ホープ』『キー・トゥ・ジ・イマジネイション』などではジョンの泣きのギターもフィーチュアされており、起伏に富んだ作風は目まぐるしいまでの、まさに音楽のジェットコースターだ。
なおCD-1がアルバム本編、CD-2は同じセッションからのアウトテイクを収録した“ボーナス・ディスク”という扱いになっているが、55分にわたって4人がぶつかり合うバトルは刺激に満ちている。
なお、ドリーム・シアターとしてのニュー・アルバム制作も2020年10月から始動している。これだけ息の合ったプレイを聴かされると“ドリーム・シアターにポートノイ復帰?”という噂もあながちデマではないように感じてしまうが、マイク本人は完全否定している。
ライヴ活動を行うことが困難な昨今の状況だが、『LTE3』にはライヴと同じ量のスリルと興奮が詰め込まれている。本作はステイホームの最高のお供だ。
アルバム『LTE3』
発売元:ソニーミュージック
発売日:2021年3月24日
価格:3,520円(税込)
詳細はこちら
山崎智之〔やまざき・ともゆき〕
1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,000以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検第1級、TOEIC 945点取得
ブログ/インタビューリスト