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連載35[ジャズ事始め]佐藤允彦に音楽の方向を決めさせた1966年の“現代音楽祭”

佐藤允彦をこの連載に引っ張り出してこなければならないと思ったのは、次の一文を見つけたからだった。

「この衝撃が私のその後の音楽の方向を決めたのだと思っている」(引用:佐藤允彦『すっかり丸くおなりになって…』1997年、メーザー・ハウス刊)

時は1966年5月。その年の9月からバークリー音楽大学への留学が決まっていた彼は、「しばらく戻れないから日本らしいところを見ておこう、と奈良や京都に旅をしたり、美術館めぐりをする日々を送っていた」(引用:同前)という。

奈良や京都、美術館という目的地に、留学への準備や予習的な意味はなかったのだろう。アメリカでは味わえなくなる“日本らしさ”に浸り、ホームシックを紛らわせるための手立てにできれば、ぐらいの気持ちだったのだと思う。

そんななか、人生の進路を変えるほどの“衝撃”を受けるものに出逢ってしまったのだ。

それは、5月1、2、4日の3日間、東京・日生劇場で開催された、現代音楽祭〈オーケストラル・スペース〉と題されたコンサートだった。

佐藤允彦はライヴ盤のLPレコードを手に回想しながら原稿を書いていたようだが、その音源はCD化もされていて、現在でも手に入る。

収録されているのは、『オーケストラとピアノのための「弧」第1部』(作曲:武満徹)、『ピアノのための「クロマモルフ」2番』(作曲:高橋悠治)、『オーケストラと磁気テープのための「ライフ・ミュージック」』(作曲:一柳慧)、『2つのフルートのための「相即相入」』(作曲:湯浅譲二)で、指揮:小澤征爾/若杉弘、演奏:読売日本交響楽団、ピアノ:高橋悠治、フルート:吉田雅夫/野口竜という出演者が名を連ねている。

また、このコンサートでは「リゲティ、クセナキス、ケージ、ペンデレツキ、ライヒなどの作品を日本に紹介した」(*)とあるので、現代音楽の“イースト・ミーツ・ウエスト”を具現した画期的なイヴェントだったことがうかがえる。

「このサウンドは何だ?こういう世界があるのに、今からジャズの勉強で何年も費やすのは正解なのだろうか?」(引用:前掲書)

佐藤允彦がここで「ジャズの勉強」と言っているのは、“アメリカ由来のジャズの習得”だ。ある意味で、先に旅立った穐吉敏子や渡辺貞夫よりも、明治時代の職業ジャズメンに近い意識をもっていたのかもしれない。

そして彼は、その矛盾を抱えたまま、「ジャズの勉強」をするためにアメリカへ赴くが、そのころのエピソードは次回に。

*引用:一柳慧+磯崎新「架橋される60年代音楽シーン」『季刊 InterCommunication』1998年秋号

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富澤えいち〔とみざわ・えいち〕
ジャズ評論家。1960年東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる生活を続ける。2004年に著書『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)を上梓。カルチャーセンターのジャズ講座やCSラジオのパーソナリティーを担当するほか、テレビやラジオへの出演など活字以外にも活動の場を広げる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。『井上陽水FILE FROM 1969』(TOKYO FM出版)収録の2003年のインタビュー記事のように取材対象の間口も広い。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。
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