今月の音遊人
今月の音遊人:五嶋みどりさん「私にとって音楽とは、常に真摯に向き合うものです」
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2023年2月発売のフロアスタンディングスピーカーNS-2000Aは、フラッグシップモデルであるNS-5000やNS-3000の技術を継承しながら、リビングで心地良く音楽を楽しむための音を追求しているという。そのため、音質だけでなく外観のデザインにもこだわりがあるそうだ。
今回、そんなNS-2000Aを実際に試聴させてもらい、製品の特徴についてヤマハミュージックジャパンAV流通営業部マーケティング課の小林博文さんに話を聞いた。
「NS-2000Aはヤマハのグランドピアノをデザインモチーフとしています。黒鏡面ピアノフィニッシュの採用はもちろん、黒一色のモノトーンもデザイナーのこだわりです。ユニットの周囲に色を付けるなどの意見もあったのですがデザインの段階ですべて却下されました。センターラインに対し左右完全対称とし、ヤマハのロゴはなく、音叉マークだけです」(小林さん)
写真を見ると、シンプルな形状のトールボーイ型スピーカーに思える。しかし、実際に間近で見てみるとずいぶんと印象が異なる。たとえば、前面のバッフル面は上側の角が丸くなっている。側板は奥にいくほど幅を絞ったテーパー形状になっていて、背面の角が丸められている。そのため、ただの普通の四角い箱には見えないし、その造作がとても美しい。なにより驚かされるのが、前も後ろも、どこから見てもネジが一本も見えないこと。どうやって組み立てられているのかもわからない。
「ネジや継ぎ目が見えないこともデザイナーのこだわりです。正確に言うと、底面にある設置用の脚部を止めるネジだけが見えていますが、設置した状態ではネジは見えません。保護用のサランネットもマグネットで着脱するので取り付け穴はありません。キャビネットは前面と上下、背面と側面をつないだ2つのラウンド形状の組み合わせとなっており、各スピーカーユニットもフレームをネジで固定した後で、カバーを装着しています。工程も複雑になっていますし、塗装して仕上がった状態ですと分解も難しいです」(小林さん)
ここまで徹底して見た目に執着したのは、リビングなどのインテリアに調和することを考えたため。スピーカーユニットまで黒一色なので、いかにもスピーカーという雰囲気はあまり感じないし、艶やかなピアノフィニッシュの仕上げは鏡面のように周囲のインテリアを映し、自然にリビングに溶け込むだろう。これは、専用のオーディオルームではなく、生活空間であるリビングで、心地良く音楽を楽しむためのもの。上級機であるNS-5000やNS-3000が本格的なピュアオーディオ志向だったのとはコンセプトが大きく変わっている。
「オーディオマニアに限らず、よい音で音楽を楽しみたいという方もたくさんいらっしゃいます。そんな音楽好きの皆さまのための製品です」(小林さん)
音づくりのコンセプトは大きく変わったが、NS-5000やNS-3000で採用されたさまざまな技術はNS-2000Aに継承されている。すべてのスピーカーユニットに、現時点では世界一の強度と理想的な弾性率を備えた化学繊維ZYLON®︎(ザイロン)と、ピアノにも使われるスプルース材を混抄して成形した振動板「ハーモニアスダイアフラム」を採用。NS-5000やNS-3000と同じく、全帯域で音色を統一している。
「ハーモニアスダイアフラムは、NS-5000やNS-3000の振動板と比べて成型が容易で、理想的な振動板形状にできることも特徴です。たとえばトゥイーターは一般的な曲率が同じ形状ではなく、中央と周辺で異なっています。これにより高域特性はNS-5000を超える65kHzまで伸びています。また、素材はスプルースとザイロンのほか、麻や綿などの繊維も混ぜていますが、この配合も変えられるため、特性や強度、求める音に応じて調整しています。160mm口径のウーファー、80mmのミッドレンジ、30mmのトゥイーターも、配合はそれぞれ微妙に異なっています」(小林さん)
ミッドレンジとトゥイーターユニットの後方には、「R.S.チャンバー」と呼ばれる部品を備える。NS-5000やNS-3000と同じ技術だ。これによりスピーカーユニットの背面から出る音(空気振動)の不要な管共鳴を抑えつつ、吸収する。ウーファーは十分な容積を確保し、管共鳴の原理で定在波を除去する「アコースティックチャンバー」を採用。ポートノイズの少ない「ツィステッドフレアポート」も採用するが、周波数帯域が34Hz〜65kHzに対して、ポートの共振周波数は32Hzで低音増強というよりも背圧のコントロールとして使用している。こうした作りにより、スピーカーの筐体内の吸音材はごくわずかとなっている。吸音材は音の濁りの原因を除去する反面、量が多いと微小な音まで吸収してしまう。それを嫌って最小限の吸音材で音を仕上げるため、こうした技術が用いられている。
クロスオーバーネットワークも自然な音のつながりを追求し、内部配線材はPC-Triple Cを使用したほか、ドイツのムンドルフ社製のコンデンサーなどの高音質部品をぜいたくに採用。コイルのような磁界を持つ部品は配置や向きにまで配慮して設計されている。スピーカーケーブルを接続するターミナルは、NS-5000やNS-3000と同じものだ。
キャビネットは、レーザー測定とFEM解析によって不要な振動や歪みの発生を抑えた構造を採用。これは楽器などの生産でも使われている技術だという。脚部はアルミダイキャスト成形で、ピアノのペダルを思わせる形状としている。重量のある脚部を備えることで低重心となり、地震などでの転倒にも強い安定性を持つそうだ。
「国内外のメーカーの多くが、スピーカーユニットなどをパーツメーカーから購入していますが、NS-2000Aではスピーカーユニットからすべて内製です。これがヤマハのこだわりでもあります」(小林さん)
極めつけはヤマハならではのピアノフィニッシュ仕上げ。鏡のように歪みのない光の反射も実に上質だ。
「ピアノを生産しているヤマハは、ピアノフィニッシュにはかなり厳しい基準を持ち、おいそれとは名乗れません。塗装が強く傷はつきにくいので、ほこりや指紋が目立ったときは、ピアノ用のクリーニングクロスなどを使ってケアしていただければ、ずっと美しい艶を維持することができます」(小林さん)
こうして聞いていくと、本格的なピュアオーディオを志向したNS-5000やNS-3000と同じ技術がぜいたくに盛り込まれていることがわかる。それでいて、NS-2000Aは“音楽を心地良く楽しむためのもの”と音のコンセプトは大きく違う。果たしてどんな音がするのか、ヤマハの試聴室で聴かせてもらった。本来ならば一体型のプリメインアンプと組み合わせるような、シンプルな構成で使用するスピーカーだが、ここではその実力を引き出すため、プリアンプがC-5000、パワーアンプがM-5000、SACD/CDプレーヤーがCD-S3000、アナログプレーヤーとしてGT-5000を組み合わせている。
まずは、『ルパン三世 カリオストロの城 オリジナルサウンドトラックBGM集』から『炎のたからもの』を聴いた。驚いたのは音場の奥行きの深さ。多彩な楽器編成による伴奏が後方にあって、ボーカルが前方に浮かび上がる。この前後の奥行き感はハイエンドオーディオ機器のような奥まで見通せるような感じとはひと味違って、実際のステージ上での演奏を思い浮かべるような自然な奥行きだ。この理由はひとつひとつの音像は芯の通った実体感豊かなものなのだが、くっきりとした輪郭が強調されることがないため。ちょっと聴くだけだとエッジの甘い穏やかな感触とも感じるのだが、音の芯はくっきりとしていて、声の強弱などの抑揚感、声を張ったときのエネルギー感などがしっかりと出る。楽器の演奏にしても、実にニュアンスが豊かな演奏であることがよくわかる。
前後の奥行き感や自然な音場感は、クラシックだとさらによくわかる。新倉瞳(チェロ)と飯森範親指揮、山形交響楽団による『鳥の歌(カタロニア民謡/カザルス編)』では、ソロの新倉瞳のチェロが一歩前に出た実体感のある鳴り方で、オーケストラは少し後ろに下がる。そして、オーケストラの音は個々の楽器を粒立ちよく描くというよりも、個々の音色を自然なトーンで描きながら、それらの響きが美しく調和する豊かな響きを美しく奏でる。そのため、音場の広がりというより、試聴室内がコンサートホールになったかのような空間の響きが豊かに描かれる。
『ルパン三世 カリオストロの城』、新倉瞳ともに録音された場所の空気感が美しく再現される。そのたたずまいは生の演奏を聴いている感覚にとても近い。NS-5000は音のひとつひとつを明晰に、実に緻密に描くことが特徴のひとつで、現代のハイエンドオーディオはこうしたクリアで解像度の高い再現がひとつのトレンドではある。その点で言うと、NS-2000Aは音の輪郭がソフトで、個々の粒立ちよりも音が一体化した協和音としての美しさが大きな特徴だ。柔らかで優しい感触の音だが、ひ弱で頼りないどころか、フォルティッシモの力強い音や低音楽器のエネルギー感たっぷりの音も迫力ある音で鳴らす。
キレ味の鋭さとか、高解像度の緻密な再現という点では物足りないと感じる人もいるかもしれない。が、緊張感を強いる厳しさもなく、リラックスして音楽を楽しめる良さがある。そんな優しい音で表情が豊かに出るし、グルーヴ感のような自然に身体が動いてしまうような情感もよく伝わる。音楽を聴くのがとても楽しくなる音だ。
「製品そのものは2022年5月にミュンヘンで出品し、日本では2022年10月28日に発表され、その翌日から3日間、「2022東京インターナショナルオーディオショウ」で展示や音のデモを行いました。多くの人にどんな音楽も気持ち良く楽しめる音だと言っていただけました。本格的なオーディオを追求したモデルだと、録音の良くない演奏では悪いところが目立ってしまったり、合う曲と合わない曲がはっきりと出てしまったりすることがあります。けれども、NS-2000Aはそんなことはなく、ジャンルも曲も問わずどれも楽しく聴いてもらえると思います」(小林さん)
そう言って、小林さんは山下達郎『ライド・オン・タイム』のアナログ盤を再生してくれた。これがまた素晴らしい再生で、伴奏と歌の自然なステージ感が気持ちいい。決してつぶさに音を見るような再現ではないが、演奏や歌のニュアンスや音色のリアルな感触は録音やミキシングでの丁寧な仕事がよくわかる再現だ。情報量としてはかなり優秀。NS-2000Aの魅力のひとつとして、1980年代のポップスは実に楽しいのだそうだ。今、昭和の歌謡曲が若い人や世界で注目されているように、NS-2000Aのような音は今求められている音なのかもしれない。懐かしい感触もあるが、響きの余韻の再現や細かな表情の変化も豊かに描くなど、現代的な性能の高さもきちんと備えたNS-2000Aの音は新しいタイプの音かもしれない。これまでの、さまざまなメーカーのスピーカーとも、まるで違う音は実に新鮮で楽しい音だ。
まさに音楽ファンのための音。オーディオではなく音楽が好きなんだ、という人はぜひとも注目してほしい。
新開発「ハーモニアスダイアフラム」による音色の統一を実現。フラッグシップモデルの設計思想と技術を継承した新世代3ウェイフロアスタンディングスピーカー。
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文/ 鳥居一豊
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